10月 それは 戸惑いの月
森は緑から 紅の衣にかえ。
人は歩みを止め、ふと気づく
・・・景色が過ぎていることに・・・
私と立川さん 【神無月編】（その1）
「・・・なんですよ♪ 鈴香さん」
「へぇ〜 そうなんですか♪
私は いつものように 宅配便を届けた後の
いつものように 休憩のひと時・・・
・・・と、一応 改めまして自己紹介を
私の名前は 風見鈴香
運送会社「ペンギン便」に つとめる しがない宅配屋です。
そして 少女の名前は 立川郁美ちゃん。
毎月 毎週のように宅配の依頼をしてくださる。一番のお得意さまであり
そして、 私にとって大切なお友達でも あります。
｢もぅ、 ウチのお兄ちゃん なんか 変わったと思いませんか？と聞いたんですっ。」
「雄蔵さん が ですか？」
雄蔵さん こと 立川雄蔵さん。言うまでもなく 郁美ちゃんの お兄さんです。
郁美ちゃんと 出会うことになったのも、即売会場で 彼と出会ったことがキッカケになります。
ちなみに 当の本人はというと ご在宅のようなのですが
最初に顔を見せただけで すぐに 部屋に引っ込んでしまいました。
「う〜ん 変わったといえば そうなような。でも 相変わらず無愛想・・・
あ、いえ 物静かな 感じなので 私には・・・（コホン）」
「そうですね お兄ちゃんってば 他の人には 本当に無愛想で
でも 以前は もっと 無愛想だったのですよ」
「今よりもですか？」
「もちろんです。即売会の行く時なんかも もう すっごく眉間にしわを寄せちゃって」
「ハハハ」
雄蔵さんは郁美さんのため、即売会で同人誌を購入しています。
特に 彼女が気に入っているのが 千堂和樹さんというお方の描かれる同人誌なのですが。
それが 雄蔵さんにとっては どういうわけか 気にいらないらしく・・・
多分 それが 眉間の皺の原因だったのでしょう。・・・？でも そうだとしたら
「ですが だとしたら喜ばしいことだと思います。それって 多分 雄蔵さんが
即売会が楽しみになったわけですし・・・って 郁美ちゃん？」
彼女は なぜか妙な含み笑いをしています。
わたし なにか変なことを いったのでしょうか？
「お兄ちゃんが 変わった原因。鈴香さんだと 思うんです。」
「・・・はっ？」
「鈴香さんに 会えるから 即売会が楽しみになったんだと思うんです」
彼女の意味ありげな視線は 変わりません。
・・・う、う〜ん ま、まいりましたね
この前の南さんと言い 郁美ちゃんといい どうして皆さんはそういう誤解をするのでしょう？
大体 私にとって 雄蔵さんは 大切なお客様なわけで
雄蔵さんにしても きっと私なんて 単なる・・・・
・・・・・
「・・・鈴香さん？」
「あ、いえ なんでも。 そ、そうだっ。も、もし雄蔵さんの変わったというのでしたら
それはコミパの楽しさに気づいたのでは ないでしょうか？」
「コミパの・・・力？」
「そうです。即売会、特にコミパのような 大きなイベントは 本当にすごいんですよ
会場内には 色んな人はいて 熱気というか たくさんのパワーで満ち満ちていて
居るだけで パワーが 流れてこんで来る感じで わくわくしてくるのですっ
雄蔵さんも それに気が付いたからではないかと・・・」
「・・・・・・」
「あ、例えが わかりにくかったでしょうか？あ、 祭りの縁日とか
学園祭とか そういうイベントを思い浮かべてくれれば・・・」
「・・・わからないです・・・」
「え？」
「行ったことないですから 私は」
「・・・あっ」
・・・そうでした・・・・。
彼女の境遇を忘れてしまっていました。
生まれつき 体が弱い 郁美ちゃんは 学校にも ほとんど通えず
病院と自宅で 療養と繰り返していました。
そんな 彼女が 縁日などにいけるはずもなく・・・
それなのに 私は・・・
「郁美ちゃん・・・」
「あ、で、でもＴＶとかで 見たことはあるので 大丈夫です♪
そっか〜 お祭りみたいなんですね・・・いいな〜 私も 行ってみたいです・・・」
そういって 笑う郁美ちゃん
その笑顔は 夏の病院で 見た彼女の笑顔に とても似ていて・・・
「そうですね、いつか・・・、いいえっ、行きましょうっ！ 郁美ちゃん！」
「！？鈴香さん？」
「行くんですよ 郁美ちゃんも！ 次回のこみっくパーティにっ！」
「で、でも 私・・・」
「大丈夫 いざという時には 私が なんとかします！それに アナタには 頼れるお兄さんもーーー」
「俺は 許さん」
？！
「お兄ちゃん？」
そう、背後には いつの間にか 雄蔵ざんが立っていました
あいかわらず 唐突に・・・と そんなことより
「どうしてですかっ？ 雄蔵さん！」
「それは 俺のセリフだ。まさか、郁美の体のことを忘れたわけではあるまい」
「もちろん知ってます。ですがーーー！」
「しかも次回は10月だ。それがなにを意味するか、貴様も知っておろう。」
「う・・・」
確かに、 次回の１０月のコミパは別名 秋コミ
もしくは 秋レヴォとも よばれる 大イベントになります。
さすがに夏コミや冬コミ程の 大規模ではないのですが、
こと過酷さにおいては 夏、冬に引けをとりません。
そんな なかに彼女を行かせたら・・・
「・・・そ、それは そうですが・・・」
「（フン） 郁美には まだ早い あきらめろ」
「お兄ちゃん、で、でも 私はーーー」
「・・・１０月はまだ早い・・・11月にしろ」
？？
同時に彼の顔を眺める
その視線をはずすように彼は背を向けました。
「・・・１１月ならば 人も少ない。なんとかなるであろう」
「そ、それではーーー」
「・・・郁美が行きたいのならば 俺には止める理由はない。だが ・・・・・・おわっ！？」
彼の体が 思わず よろけます。
郁美ちゃんが 後ろから 抱き付いてきたからです。
「ありがとう お兄ちゃん♪」
「こ、こら よさぬか 郁美。 無論 いくのは 体調が万全な場合の時だっ。
さもなくば 俺は許さんぞ。」
「うん、郁美元気でいます♪ 約束ですよ お兄ちゃん、はい♪」
「なんだ その小指は？」
「もちろん 約束と言ったら指きりです♪ さ、指をだしてください♪」
「う、うむ・・・」
妹の差し出した 少し テレながらも小指 指をあわせる雄蔵さん。
その 姿は ちょっとおかしく そして とてもほほえましくあり・・・
郁美ちゃんは 雄蔵さんが 変わったと言ってました。
でも 私の目には やはり雄蔵さんは 以前と変わらずにいて
郁美ちゃんのことを 大切に思い、郁美ちゃんのために 行動をして
それは ほほえましくも あり ちょっぴり 妬けるところでもあり・・・
・・・・あれ？ 私 どうして妬けるってーーー
「さぁ、鈴香さんも 指をだして」
「・・・って あたしもですか！？」
「当然ですっ♪ これは三人の約束なんですから♪」
「・・・早くしろっ」
「は、はい、では 失礼して・・・・」
私も おずおずと小指を差し出しました。
「♪ ゆ〜びきり げ〜んまん 嘘つ〜いたら 針千本 の〜ます♪」
その感触は ちょっと冷たく 少し暖かく そして とてもくすぐったいような感覚で
「ゆ〜び きった♪♪」
そして その感覚は 小指が離れたあとでも 確かに 私の心に残っていきました。
・・・・・・・・・・・・・・・
こうして 立てられた 三人の小さな約束は二ヵ月後 無事に果されました。
・・・そして・・・
それがアノ悲劇の引き金になってしまったのです。
・・・・・・・・・・・・・。
【神無月編 （その1） ：こゆび さんぼん 完 次回 霜月編に続きます】