・・・それは いつもの日曜日 いつもどおりの会場・・・
月に一度 のお祭りの日
だけど
その日は いつもと少しだけ 違っていました。
その日 風が咆えていました
風の雄たけびは 雲から雨水を奪い、大地に打ち付けるかのようでした。
その日 皆が慌てていました。
参加者は 風により 思うように動けず。
スタッフは 声を上げ 対処に悪戦苦闘してました。
その日 とある同人作家さんも困っていました。
既に届けられているはずの 本が無いという現実に
彼は なすすべなく歯噛んでいました
そして・・・
その日、立川雄蔵さんは・・・・
・・・・・・・
私と 立川さん 特別編Ⅱ
・・・・今の 時間は 午後4時・・・・・・・・
あれだけ猛威を振るった台風の姿も、今はなく。
会場にいても響いていた風の遠吠えも収まり、
変わりに閉会の挨拶が聞こえています。
そして、参加者による ささやかな拍手が響く中、
静かに横たわっていた 彼は ゆっくりと目を覚ましました。
・・・
「立川さん♪ 気がついたのですね♪」
「・・・ココは、どこだ？」
「介護室です。イベント限定の。よかった ずっと眼を覚まさず 心配していたのですよ」
私の声が 耳に入っているのかいないのか
彼は 上半身のみ起き上がり 周りを確認しています。
簡易型のベットが 整然と並べられただけの 殺風景な部屋
既に 彼以外の姿はなく
今は 彼と 私、風見鈴香が居るだけです。
「コミパは・・・終わってしまったのか」
「そのようですね 残念ながら」
私は 一旦彼に背を向け、用意していたカップに
インスタントコーヒーの粉とポットのお湯を注ぎます。
「立川さんは 砂糖は いくついれます？」
「・・・いらん」
「ブラックですか？でも 疲れている時には 糖分を取ったほうがいいかと」
「俺のことなど気にするな。 そんなことより 本はどうしたっ！？」
・・・・・・・・・・
「・・・・・・・千堂さんの本でしたら 枕元に。残りも 彼の手に届いています。
あと、他の本も購入しておきました。・・・・料金は立て替えてます。」
「うむ、かたじけない」
「いえ 仕事ですから。」
・・・・・・・・
私が 言葉にトゲを含ませたのを気づいたのでしょうか？
怪訝な眼で 私を見つめる 雄蔵さん。
でも それに気づかないフリをして 言葉を続けます。
「・・・ちなみに 実際には彼に届けてもらったのは 私ではなく 南さんです。
あなたも ご覧になっていたはずですが？」
「・・・覚えておらぬ・・・」
「そうですか 記憶力ないのですね 立川さんは」
「・・・うむ」
・・・違います。 本当の理由は ちゃんとしってます。
あの時の立川さんは かなり衰弱し 意識が朦朧としていたからです。
もっとも それに気づいたのは 私ぐらいのようでしたが
アノ後 話しかけられた千堂さんも 気づいてなかった様子でしたし。
「・・・鈴香よ」
「なんでしょうか？」
「・・・いや いい。とにかく本は無事とどいただな・・・ ソレで良い。」
・・・・・
「それで、良いですって？ ふざけないでくださいっ！！」
ガシャ！
思わず 手にしていた ポットを乱暴においてしまう私。
せっかくいれた カップから中身が 少しこぼれました
「？なにを怒っておる 鈴香？」
「怒っていません・・・ あきれているだけです」
「・・・なんだとっ！？」
雄蔵さんの眼にも 力が入ってきました
でも こちらも ガマンしていた 感情ももう限界だったんです
こぼれたカップも そのままに 私は
彼がお客様であることを忘れて睨み付けました。
「 印刷所の方から聞きましたよ。あなた 立ち往生していた車の代わりに
千堂さんの同人誌を運ばれたそうですね！？ あの豪雨の中 全力疾走でっ！！」
「うむ・・・それが どうした？」
「どうしたか・・・ですってぇっ！？」
彼の言葉に 私の語尾は さらに強くなります。
ですが 彼の眼も 揺るぐことなく 平然と答えてきました。
「・・・あの浸水では車は走れない。 防水処理も完全に整えた。
事実、本は間に合ったのであろう？ どこに問題があるというのだ。」
「アナタが 倒れたでないですかっ！」
・・・・・・・・・
会場前に 私に届いた 雄蔵さんからの 呼び出しの電話
駆けつけた私の眼に 飛び込んできたのは
ずぶぬれのまま 門の前で 倒れこむ彼の姿でした
「ーーーすぐに休んだほうがいいと言ったのに、無視して 本を届けるまではと意地をはって
そして 和樹さんに本を渡したあと そのまま・・・それなのに 問題ないというのですかっ！？」
さっきから 彼は 自分のことより 本の心配ばかりして・・・
あれだけ 私を心配させておいてーーーー！！
「ふんっ！！本が無事でさえあれば 俺のことなど関係ないわっ！」
「関係ないわけないでしょっ！ あなたに もしものことが あったら
郁美ちゃんだって 悲しむでないですかっ！」
「・・・悲しむ？ 俺のせいでか？」
「当たり前でしょっ！ そんなこともきづかなったのですか！？
本当に あなたという人はっ！ どうして そんな 無茶なことをーーー！！」
「・・・・・・・・」
「？立川さん？」
「・・・お前が居たからだ」
「えっ？」
先ほどの威勢もどこえやら、バツが悪そうに うつむき つぶやく彼の姿。
それを見て 今まで沸騰していた私の脳も 急速に冷えていきます。
・・・彼は そのまま 話を続けていきます。
「・・・途中 俺になにかあっても、後は お前が なんとかすると思っていた。
本が届かず、郁美が悲しむ姿など 俺は見たくなかった・・・」
「・・・・・・だからといってっ・・・」
「うむ、俺の思慮不足だ。結局 アイツに悲しい思いをさせるところだったのか・・・スマヌ 俺が 悪かった。」
「あ、いえ・・・えっと・・・わかって もらえれば・・・」
・・・いや 多分 彼はわかっていないような・・・
本を大切に守ったのも、自分を大切にするといったのも 結局は 妹のためということで
私の言いたかったこととは 少し違うような・・・
でも 自分を大切にするということなら 同じような・・・・あれ？
「もういいです。・・・私も 少し言い過ぎでした。 少し 疲れてたようです。」
「うむ 余計な仕事を増やしてしまったようだしな」
・・・いえ むしろ気苦労のほうが 大きかったのですが。
私の口から 抗議の意味の溜息がこぼれました。
「ほんと 郁美ちゃんのことが 少し羨ましいです。
雄蔵さんに そこまで大切に思ってもらえて・・・でも・・・」
・・・・少しぐらい私のことも 気にしてくれても・・・
「・・・む？」
「あ、いや・・・あ、と 私 そろそろ 仕事に戻ります。」
そう 今まで無理を言って （仕事を）抜けさせていただいていたのですが
本来 私達 宅配業はコミパ終了時からが 稼ぎ時。
いつまでも 同僚だけに 任せていては 申し訳はありません
挨拶も そこそこにして 私はドアを潜り抜け・・・
「鈴香よ。」
「あ、はいっ？」
半ドアのまま 振り合える私
そこには 両腕をついて 頭を下げる 雄蔵さんの姿がありました
「世話をかけた。この恩はいつか 必ず」
「・・・気になさらないでください。 私と立川さんの仲でないですか。 それでは」
・・・・・・・・・・・
最後は笑顔で挨拶をすませ パタンと閉めたドアの前、
そこで 私は かたまってしまいました。
今 何気なく 口にした 「私と立川さん」の仲
でも それって 一体どんな関係なんでしょう？
単なる宅配人と そのお客さま？
秘密を共有した 大切な友人？？
・・・それとも・・・
・・・・・・・・・
・・・だけど その思いは ほんの一瞬のこと・・・
悩むよりも前に 私には すべきことが待っています。
私は 急ぎ足で 宅配ブースに向かいます。
渦巻いていた気持ちを 心の奥へ押さえ込みながら。
・・・・・・・・・・・・・・
・・・それは いつもの日曜日 いつもどおりの会場・・・
月に一度 のお祭りの日
だけど いつもと少しだけ違っていた、そんな日の出来事でした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
～～ 特別編2：風の吼えた日 完 ～～
あとがき
ご購読ありがとうございます。 ゴンジーと申します。
というわけで 特別編2というか 神無月編その2ともいえる 今回のＳＳ
実は 構想当初は まったく別の話を書こうと思ってました。
・・・・
今日は 月に一度の即売会の日
たまたま 塚本印刷所の前を 訪れた 立川雄蔵は
千堂和樹の同人誌が 上陸した嵐の影響で車が出せず
出荷できないことを知る。
このままでは ブラザー2の新刊がなくなってしまう
事情を知り、千堂の新刊のつまったダンボールを担ぎ
単身 運んでいく立川雄蔵。
だが その行く手に 宿敵、番長連合の刺客達が立ちはだかるっ！
即売会開催の時刻は刻一刻とせまる、
果たして 彼は間に合うことができるのか！？
・・・・・
という感じで
・・・それが どうして こう変わったのでしょう？ 我ながら不思議です（＾。＾；；）
あ、もし この雄蔵さんの死闘の模様を 読んでみたいという方が 居られましたら
自分に雄蔵さんＳＳ希望とメールを・・・って そんな方おられないですか？Ｏｒｚ（汗
（コホン）と では 今回も つたない文章で恐縮でしたがこの辺で
もし ご購読されて少しでも 楽しめられましたら 幸いです
それでは