第５章　真実への序章

 

　２人の黒服を難なく倒した玲子。しかし、状況は決して明るくはなかった。

　今走っている場所は地下室、よって逃げ道は自ずと限られてくる。

「さーて、どおしよっかな？」

　地上へ戻る階段で、確認済みなのは１ヶ所だけ。

　先程の会長の口ぶりからすると、この地下への人の出入りは少なそうだ。そうなると、他に地上への階段があるかどうかは、あまり期待できないかもしれない。

だが、仮に階段が１箇所のみと考えると、敵がそこを重点的に固めてくることは、想像に難くない。

　状況は明るいどころか、むしろ暗いと言えよう。

「う〜ん……あんま気が向かないけど、しゃあないね☆」

　玲子は、確認済みの階段に向かって走り出した。

　黙っていても状況が変わらないのなら、とりあえず動いてみよう。前向きな玲子らしい考え方だ。

　出来るだけ足音を殺して走る玲子。

同時に通り道にある部屋からの奇襲や、後方からの追っ手の有無にも気を配る。

　そして、『次の角を曲がると階段が見える！』という所で、その角に体を預けるようにして曲がり角の先を覗き込む。すると、案の定、黒服の男達が集合していた。

「わっちゃ〜、やっぱダメかぁ……ちょっち困っちゃったかな、どうしよ？」

　集まっている黒服の数は１０人ほど。いかな玲子といえど、この狭い通路でまともに戦うには少々手に余る人数だ。

　力押しで何とかならないこともないが、現在位置が屋敷の奥の方であることを考えると、出来る限り戦闘は避けたい。

　壁に体を預けたまま、対策を考える玲子。

黒服達は動き出す気配はない。

幸か不幸か、これなら自分から動かない限り、見つかることもないだろう。

　……と、思ったのだが。

「むっ！？　そこに居たかっ！！」

　一人の黒服が玲子の方に向かって声をあげた。

　それを合図にしたかのように、残りの黒服達の意識がこちらに集中する。

「へ？　見つかったの？　どおして〜！？」

　確かに覗きはしたけど、それは最初の一度だけ。見つかったときには顔は出していない。特に音を立てたわけでもない。

　なぜだろう、なぜかしら？

玲子が理解できないでいると、親切にも黒服が答えを教えてくれた。

「ふん、バカめ！『影』が丸見えだ！」

「な、なんですと〜！？」

　驚いて視線を床に落とす。

確かに、玲子の足元から角の先へと、影が長々〜とのびていた。

「うう、何たるみすていく……」

気落ちする玲子。それをよそに、黒服がレシーバーに向かって報告する。

「こちらＢ班、目標を発見した！　これより捕獲行動に移行する！」

　そして通信を終えるや否や、黒服達は玲子を捕まえるべく走り出した。

「うわっ、やっば〜！！」

　またもやしゃあないので、再び来た道を戻る。

　玲子のスピードは、追いかけてくる黒服達のそれを上回っているため、そう簡単には捕まらない。

　さて、捕まらないのはいいが、これからどうしよう？

　とか走りながら考えていると。

「いたぞ、こっちだ！！」

　玲子の前方に一人の黒服が現れた。

　そして仲間を呼ぶそぶりを見せると、遅れて来た５人ほどの黒服と共にこちらに向かって走ってくる。

　見事な挟み撃ちの出来上がりである。

「うそぉ〜ん！！　まぢっすかぁ〜！？」

　さっきから後手を踏みまくりな玲子は、めっちゃ驚いた顔で叫んだ。

　前方に黒服、後方にも黒服。おまけに脇にそれる部屋も通路も無い、狭い一本道。

「よし、いただきだっ！」

「これまでだ、観念しろっ！」

　前から後ろから、わかりやすいセリフが飛んでくる。

　もう立ち止まって考えるヒマはない。

「え〜と、う〜んと……よ〜し、こーなったらっ！！」

　何か手があるのか、玲子は立ち止まるどころか、逆に加速した。

　その行動が意外だったのか、前方から来る黒服は戸惑いの表情を見せたが、玲子に合わせるかのように自分達も加速する。

　もちろん後方から来る黒服も、離されまいと加速する。

「４……３……」

　黒服と重なり合うであろうタイミングを計り、カウントダウンする玲子。

「２……１……ゼロッ！！」

　先頭を走っていた黒服の手が玲子へと伸びた、その瞬間。

玲子は壁に向かってジャンプ！

　そして足が壁に触れると、さらにもう一度蹴上がるようにジャンプし、空中で体を翻しつつ華麗に着地した。

「な、なんだとぉっ！？」

　突然目標を失った黒服に出来ることといえば、走ったまま玲子を目で追うことだけだった。

　玲子の後方から追ってきた黒服も、また同様。

　その結果……。

「お、おい！　前を見ろ！　止まれっ！！」

「えっ！？　う、うわあっ！！」

　ドガァッ！！

「ぐああっ！！」

　あわれ黒服軍団は、よそ見をしていたばっかりに、正面衝突するハメになった。

「にゃははは！　大成功〜☆　じゃあね〜！」

　玲子は走りながら、後ろでごっちゃになってる黒い塊に向かってウインクした。

 

 

 

　さて、屋敷の外では。

「なんてゆーかさぁ、楽なことは楽なんだけど……」

　正面玄関を開け、庭を目の前にしたところに３人娘が寂しく立っていた。

　警備が屋敷の中に居る玲子に集中したためか、屋敷の外には誰も居ない。掃除してたメイドさんもいない。

　そんな中で、まゆがポツリと呟く。

「なんか、平和、だねぇ……」

「そぉですねぇ……」

　のほほんとした空気が流れる。中と外でこうも違うのも凄い話だ。

　だが美穂は、そんな空気がお気に召さないご様子で。

「違う！　あたしが求めているのはこれじゃない！　もっと、こう、あたし達にも見せ場ってものがあるべきなんじゃないの？」

「そんなこと言ってもさぁ……ねぇ？」

「そうですわ、敵がいない事に文句をいっても仕方ないでしょう？」

　やれやれといった感じで顔を見合わせる、まゆと夕香。

「違うわ、これは何者かの陰謀なのよ！　そうに決まってる！」

「はいはい、わかったから早く行くよ〜」

「屋敷の中に行けば、敵がいるかもしれませんしね？」

「あ、確かにそうかも！？　そうと決まれば、れっつらごー！！」

　妙にやる気のある美穂。『仕方ないね』的な顔をしている夕香とまゆ。

敵を求め、見せ場を求め、美穂を先頭に、３人娘は無人の庭を走り抜け屋敷の中へと入っていった。

…………。

……。

だが。

「誰もいないじゃない……」

「そぉですねぇ……」

　そう、屋敷の中にも誰もいなかった。

全員が玲子に集中してるのか、それとも他に何か理由があるのか。

「納得いかない！　断じて納得いかない！」

「まあまあ、楽でいいじゃん。それよりホラ、早く玲子のところに行かないと。ねぇ夕香、玲子の居場所とかわからないの？」

「そうですねぇ……この建物のＭＡＰがありませんから、平面的な方角と距離、あと立体的な高低さ程度ならなんとか」

「おっけ〜、それでいってみよ。たぶん玲子のところに行けば見せ場なんてたくさんあるって。ねっ美穂？」

「う〜ん……そうね、そうよね！　よぉし、夕香！　玲子はどこ！？」

　単純。

　そんな言葉がまゆと夕香の脳裏に浮かんだりした。

「ほらほら、早く早く！」

「そんな急かさないで……わかりました、どうやら玲子は屋敷の奥のほう、しかも地下らしき場所にいます。現在は移動中……走っているようですね。もしかしたら追われているのかもしれません」

「追われてる！？　そりゃ大変じゃん！　早く行かなきゃ！　そうと決まれば、れっつらご〜！！」

　なんでこんなにテンション高いのかわからないが、やはり美穂を先頭に、３人娘は地下を目指し走り出した。

　…………。

　……。

　しかし。

「どういうことかな……？」

「そぉですねぇ……」

　何とか地下への階段を見つけ、降りた先には、薄暗く静かな通路が待っていた。

　それだけだった。

「何で何で何で〜！？　ど〜して〜！？　敵は？　玲子は？　あたしの見せ場はどこなのよぉ〜！？」

　玲子より敵のほうが優先されるらしい。

「美穂〜、ちょっと落ち着きなよぉ」

「これが落ち着いていられますかってえの！！　奴はどうあってもあたしらを活躍させないつもりなのよ！　ムカツクー！！」

「美穂ったら、叫ばないでください〜」

「てえか、『奴』って誰……」

　ぶちギレモードの入った美穂は、潜入中だということもわすれて大声をあげる。

大声が、静かな地下中に響いたであろう、その時。

『なんだ……誰かそこにいるのか……？』

「……え？」

　どこからだろう？　小さくはあるが、男の声が聞こえた。

『まったく……うるさくて寝てられないじゃないか』

「誰！？　どこにいるの！？」

「隠れてないで出てらっしゃい！」

　あたりを見回すが、人影は無い。

『誰？　隠れてる？　ほう、俺を知らないとは、外部の人間か？　それにその声……もしかして君ら、チームＩＫＫＡＴＵか？』

「！！！」

　突然自分達の正体を見破られ、驚く３人娘。

「……そうですわ」

　夕香が静かに答えた。

『やはりそうか……なら、済まないがこのドアを開けてくれないか？　ちょっとドジっちまって、閉じ込められてるんだ』

　耳を澄まし、声のする方を探ってみると、確かに鉄の扉の向こうから聞こえていた。

　それを確認した上で、美穂が言う。

「わかったわ。でもその前に！　あたし達の事を知っている、あなたは何者なの！？」

『俺か？　ああ、悪い悪い。まだ言ってなかったな。俺は、澤田司令の命によりこの屋敷に潜入していた、いわゆる諜報員さ。つまり、君らと同じ、コミックＺの人間だよ』

「……！？」

　男の口から、さらりと発せられた一言。

それを聞いた３人娘は、驚きのあまり言葉を失った。

 

 

 

「どうかしましたか、先輩？」

「ん……なに、南？」

　コミックＺの司令室。

　ボーっとした表情でスクリーンを見ている真紀子に、南さんは声をかけた。

「いえ、先程からずっと動いてないので、寝てるのかと思いました」

「……あいにく、そういった技は持ち合わせてないわ」

「まあ、冗談は置いといて☆」

　冗談だったのか。そうは見えなかった。

「チームＩＫＫＡＴＵの出動を認めた理由ですけど、あれはやっぱり……」

「……そうよ。今までは不確定な要素が多くて、大きな行動には出れなかったのだけど、今回はいい機会だったから。それに……」

　そう言うと、真紀子は南さんから視線をはずし、どこというでもなく、宙を見つめた。

「それに？」

「……」

「……先輩？」

「……いえ、なんでもないわ、ごめんなさい。それより南、鈴香さんはもう戻ってるかしら？」

「鈴香さんですか？　ええ、今は整備室の方にいると思います」

「そう、ありがとう。鈴香さんには、彼女達を迎えに行ってもらわないとね」

「……そうですね♪」

　話をはぐらかされた気がしたが、真紀子には真紀子なり考えがあるのだろう。

　そして、真紀子の考えに間違いは無いはず。

南さんはそう思うことにした。

 

 

 

走る、走る、走る。

とにかく玲子は走っていた。

この地下、一本道だったのは最初だけで、意外と広いらしい。

通路の数が多く、何度となく黒服に挟まれかけたが、その度に上手い具合に脇にそれる通路へと逃げることが出来た。

だが、肝心の地上へ戻る階段は一向に見つからない。

そして、ふと気付くと、また一本道に入り込んでいた。無論、最初の一本道とは別のものだ。

　加えて、追っ手のスピードも、どこか玲子に合わせているようにも感じられた。

「これって、もしかして……」

　そんな状況にいやな予感を覚えた玲子ではあったが、今はこの道を進むしかない。

　走り続ける玲子。

　その先には、行き止まりが待っていた。その行き止まりには、壁ではなく、大きなドアがある。

　後ろからは追っ手。前にはドア。開ける以外に何があろう。

　玲子はドアに手をかけた。

ゴゥン……。

　重い音を立てて、それはゆっくりと開いていく。

　その先には。

「遅かったわね、侵入者さん。いや、チームＩＫＫＡＴＵのリーダー、芳賀玲子さんと呼んだ方がよろしいかしら？」

　大勢の黒服を従え、真紅のスーツを身にまとった女性……会長が、余裕の微笑を浮かべていた。

 

 

つづく

 

 

 

【あとがき】

　ども、デロンです☆

　なんかおかしいです。

いい加減終わらせたいとは思うのですが、何故か続いていきます。

　誰かに「もっと書いとけ」とか望まれてる訳でもないのに。

　むう？

 

　まあ、そんなこともあり、３人娘の活躍の場は大幅カットとなりました。

　誰も気にしてないだろうから、別にいいか(笑)

　一体彼女達は、どこまで薄幸なのでしょうねえ？

 

　とにかく、もう少しだけ続きますので、よろしくです☆