第４章　チャンスのあとにピンチあり？

 

「ほぇ〜、よくもまあ、これだけ集めたものだよねぇ〜☆」

前を見る、ぬいぐるみ。

　右を見る、ぬいぐるみ。

　左を見る、ぬいぐるみ。

　上を見る、ここはさすがに天井。

　しかし、とにかく沢山のぬいぐるみがその部屋にはあった。

　クマ、ウサギ、イヌ、ネコ、トラ、アザラシ、ゾウ、キリン、パンダ、サル、ゴリラ、ウマ、ニンジン……そして、件のぬいぐるみ……ペンギンの姿も確認できる。大きくて、首のところが黄色い。おそらく間違いないだろう。

「ぬいぐるみマニアなのかな、この部屋の主は？　しかしこれだけあってまだ欲しいかなぁ……」

　いくら集めても集め足りない、それがコレクター魂というものなのだろうか。ましてや、これだけの屋敷に住む住人だ。金銭的な問題は皆無なのかもしれない。

　だが、いかな金持ちといえど、他人のものを奪ってよいはずがない。

　玲子はゆっくりと件のぬいぐるみの元へと歩み寄り、足元にほうきと塵取を置く。

「……これね」

　ぬいぐるみへと手を伸ばす。

　しかし。

……カツーン、カツーン、カツーン。

　開きっ放しになっているドアの方から、ヒールの足音が聞こえてきた。

「！？　まずいっ！」

　あわててほうきと塵取を手に取る。

　掃除をしているフリを始めると同時に部屋に入って来たのは、一人の女性だった。

「……あら、こんなところまでお掃除？　仕事熱心ね、あなた」

「は、はい〜♪　ありがとーございます☆」

　真紅のスーツを身にまとい、茶色がかった長髪が腰のあたりにまで届いている。凛とした声、表情、姿勢。まだ若く見えるが、それらのためか、どこか只者ではない雰囲気を醸し出している。

この部屋の主だろうか？　それにしては、ぬいぐるみが似合わなすぎる。

「でも、この部屋には鍵がかかっていたと思うのだけど、違ったかしら？」

「え！？　あ、え〜と、それは……」

「……というよりは、ドアが壊れてはいなかったはずなのだけど……もしかして、あなたの仕業？」

「いいえ〜、違いますよぅ！　あたしがここに来たときには、すでに壊れてました！」

　さらっと嘘などついてみる。

「それで、部屋の中に異常が見られないか、掃除をしつつ調べてたんです」

「あら、そうだったの……」

「はい……」

「……」

「……」

　沈黙。

　女性は、玲子に対し、疑いの視線を浴びせているようにも見える。

「え〜と……じゃあ、あたしはこれで……」

「……ちょっと待って」

「！　は、はい？　何でしょう？」

「あなた、もしかして……」

　やばい、バレちった！？

　焦る玲子。だが、続く言葉は意外なもの。

「……例の新人？」

「へ？　新人？」

　おそらく見事な『？』マークが頭上に浮かんでいるであろう玲子に対し、女性はさらに続ける。

「メイド長から聞いたのよ、不届きな新人がいるって。実は、ここの地下って、メイドは立ち入り禁止になっているのよ。知らなかったでしょう？　だから、あなたのことを新人だと思ったのだけど。違うのかしら？」

「い、いえ、その……はい！　本当はそうなんです〜、すみませんでした〜」

「やっぱり。今度から気をつけるようにね」

助かった〜☆

　『？』マークの替わりに、今度は安堵の表情を浮かべる玲子。

　だが、この女性は何者なのだろう？　メイド長が報告する相手となると、おそらくは、メイド達の雇い主ということになる。つまり、この屋敷の主人である、某企業の会長だ。　……こんな若い女性が？　どう考えても、屋敷を持つような年齢には見えないし、会長と呼ぶにもはやり若すぎる気がする。ともあれ、只者ではないということなのだろうか。

「はい、気をつけます。それでは、あたし、仕事に戻りますんで……」

　折角無くなった『？』を、再び頭上に浮かべつつ、玲子はその場から離れることにした。

　ぬいぐるみを目の前にして一時退却というのも残念だが、仕方ない。場所ははっきりしたのだから、あとでもう一度来ることにする。

「では、失礼します☆」

　深々とお辞儀をする玲子。

　女性は、真っ直ぐと玲子を見つめている。

そして、ドアに向かうため、女性の横を通ろうとする。

だが、女性の真横を通り過ぎようと、玲子と女性の肩が並んだ、まさにその時。

「……どこへ行くのかしら？　……『侵入者』さん？」

「！！！」

　女性は玲子の方を見ることなく、正面を向いたまま言った。

「……何のことでしょう？」

　玲子もまた、その場に立ち止まり、正面を見たまま言葉を返す。

「とぼけても無駄よ。残念だけど、新人のメイドなんているはずがないの。もし仮にいたとしても、この私が知らないなんてことがある訳ないでしょう？　さらに言うなら、車に発信機がついていたという報告も耳にしているわ」

　やはりこの女性、会長だったようである。

「……なるほど、ごもっとも。ちょっちミスっちゃったようね……」

　そう言うと、やはり正面を見たまま、会長にはわからないように左腕につけた通信機の通信スイッチを入れた。

 

 

 

　ピーッ！

　夕香のパソコンが、通信が入ったことを知らせるアラームを発した。

「あら、通信ですわ？」

「きっと玲子からよ！」

「あれ〜？　もう終わったの〜？　あいかわらず早いなぁ」

　３人娘は、パソコンから聞こえてくるであろう、玲子からの連絡を待つ……が、一向に聞こえてこない。そのかわりに、玲子ともうひとり、誰かはわからないが女性の会話らしきものが聞こえてきた。

「お？　なんか様子がおかしい？」

「……そのようですね。ここは２人の会話を聞いてみることにしましょう。向こうの状況がわかるかもしれません」

　３人娘は、静かに会話の内容に耳を傾ける。

　すると、何やら緊張感のあるのか無いのかはっきりしない声が聞こえてくる。

 

『……ところで、あなたの目的は何？　スパイ？　泥棒？　それとも私の命とか？』

『どれも大ハズレ☆　ていうか、あなたが誰なのかもよく知らなかったりするのよね〜』

『あきれた……私が何者なのかも知らずに、こんな所まで来たと言うの？』

『そゆこと〜♪』

 

　これを聞いて、美穂とまゆが顔を合わせてつぶやく。

「ねえねえ、これってもしかして……」

「作戦失敗ってやつ？」

「シッ！　もう少し聞いてみましょう……」

 

『なおさらわからなくなったわ……もう一度聞きます。あなたの目的は何？　あなたは何者？』

『そうね……強いて言えば、奪われたものを取り戻しに来た、正義の味方ってところかな？』

『正義の……味方？　それに、奪われたもの……？』

『そ☆　そこにあるペンギンさんを知らないとは言わせないわ』

『ペンギンさん？　……なるほど。あれは元々、私のコレクションの一つよ。少し前に何者かによって盗まれたのを、部下に探させて、今日取り戻したところなの。それがどうかしたのかしら？』

『そんな嘘には騙されないんだから！』

『嘘じゃないわ』

 

「……なんか、ややこしい話？」

「さて、どっちが本当なのでしょう、ってカンジ？」

「だから、静かにしてくださいってば……」

 

『それより、あなた、そのぬいぐるみについて何か知ってるの？　調べさせたら、ちょっとした仕掛けが施してあったのだけど』

『仕掛け……？　何のこと？』

『……とぼけているのか、それとも本当に知らないのか……どちらにしても、あのぬいぐるみが目的とわかった以上、ここから返す訳にはいかないわね。おとなしくしてちょうだい。そうすれば、手荒なことはしないから』

『ほほお……じゃあ、抵抗したらどうするの？』

『もちろん、力ずくでも、ということになるわ』

 

　ここまで聞いて、３人娘は改めて顔を合わせる。

「もしかして、玲子のピンチってやつ？」

「もしかしなくても、その通りですわ」

「ってことは、いよいよ……」

「そう！　あたしたちの出番ってワケよ！」

　心配というよりどこか嬉しそうな目をして、美穂が立ち上がった。

　それにつられて、夕香とまゆも立ち上がる。

「よ〜し、待ってなさいよ玲子！　今あたし達が助けに行くんだから！　それじゃ、３人娘、いざ出陣！！」

「「おぉー！！」」

　美穂の掛け声に応じるように、３人娘は真っ直ぐに屋敷へと向かった。

 

 

 

「力ずく……か。まあ、お約束だね」

「あら、随分と余裕ね。自分の置かれている状況がわかっているのかしら？」

　玲子と会長は、互いに向き合う形になっている。会長の言うとおり、玲子の表情には余裕が感じられた。

　そして、ドアの外に視線を向けつつ、玲子は言った。

「状況ねぇ。もしかして、そこに隠れてる人たちのことかな？」

「……よくわかったわね。出てらっしゃい，おまえ達」

「はい、会長……」

　会長の呼びかけに答え、２人の大柄な黒服・黒メガネの男が部屋に入り、ドアを塞ぐように並んで立つ。大方、会長のボディガードといったところか。威圧的な雰囲気を持っている。おまけに結構カッコよかったりする。会長の趣味か？

「お客様を『例の部屋』へ案内してちょうだい。いろいろと聞きたいことがあるの」

「かしこまりました……」

　そう返事をし、２人の黒服は、玲子の方へゆっくりと歩み寄る。

　しかし、ここで易々と捕まる玲子ではない。

「カッコいいお兄さんに連れられるのも悪くはないけど……ここは遠慮させてもらうわ！！」

　玲子は、言うと同時に手にもっていたほうきと塵取を黒服に投げつけた。そして姿勢を低くして、黒服に方にダッシュ！

　黒服は、いともたやすくそれらを払いのける。だが、意識が飛んでくるほうきと塵取に集中している間に、玲子は黒服の股の下をスライディングで潜り抜け、すばやく立ち上がった。

「むっ！？」

　慌てて後ろに向き直る黒服。そこを狙い済ましたように、玲子の鋭い右ハイキックが襲う！

「ハァッ！！」

バキィッ！！

「ぐあぁっ！」

　右ハイが黒服の側頭部にクリーンヒット！　２メートルほど吹っ飛び、動かなくなる。これで１人目成敗！

「このっ、おとなしくしろ！」

　もう一人の黒服が、両腕を広げて玲子を捕まえにかかる。が、玲子は一度バックステップで間合いを広げると、逆に一気にその間合いを詰め、カウンター気味に黒服の鳩尾を狙い、肘を放つ。

　ドムッ！！

「ぐぅ……！！」

　玲子の肘が鳩尾にめり込むと、黒服は前のめりになって床に沈んだ。これで２人目成敗！

「なっ……！？」

　目の前で起こった出来事が信じられないといった表情で、会長は立ち尽くす。そして、何とか口を開き、３度目の質問を投げかけた。

「い、一体何者なの、あなたは……！？」

「あたし？　さっきも言ったでしょ、正義の味方だって。それじゃね☆」

　そう言うと、玲子は会長に背を向け、走り出した。

　片手が塞がったままでの脱出は非常に困難なため、ぬいぐるみはとりあえず置いていく。

「ま、待ちなさいっ！」

　玲子の後姿に向けて叫ぶが、待てと言って待ってくれる人など、いるはずがない。

「くっ！」

　仕方なく、会長はどこからか無線の端末のようなものを取り出し、こう告げた。

「私よ！　これから言うことを全員に伝えなさい！」

　わずかな間を置いて、続ける。

「現在、侵入者は地下からの逃走を図っています！　作戦コードは『１０３１』を！　場合によっては銃の使用も許可します！　いいわねっ！？　何としても捕まえるのよっ！！」

 

 

 

つづく

 

 

 

【あとがき】

　ども、デロンです☆

　今回はちょっちマジにいってみましたが、どうでしょう？

　でもあんま慣れないことはするモンじゃないかも･･･アクションって難しいんね、今後が心配･･･

 

　あと、今回は南さん出せませんでした。残念。

　次回はちゃんと出さなければ！！

 

　それでは☆