第３章 メイドさんでいこう！
街から少し離れた、とある山間。
そこに、かなり広い敷地を有する大きな建物がある。
中央に豪邸と言えるほどの屋敷があり、その周りには工場か倉庫かよくわからない建物が並ぶ。
そして、その敷地を見渡せる小高い丘の上に、ＩＫＫＡＴＵの４人はいた。
「思えば遠くへ来たもんだ〜♪ ってね☆」
作戦会議兼お食事会の場で、彼女らは目的地を探った。
そして受信機でもある夕香のパソコンが示した場所は、代々森からは程遠い場所。
犯行内容から、そう離れた場所ではないと踏んでいたのだが、大ハズレである。
「ところで夕香、これって何の建物なの？」
「データによりますと、某大手企業の会長宅……となってますね」
「ふ〜ん、会長さんかぁ。なんでそんな金持ちさんが、ぬいぐるみなんか盗ってったんだろぉ？」
「さあ、そこまではなんとも……」
「まあ、入ってみればわかるんじゃない？ って、お？ ホラホラ、なんか車が来たよ〜！」
そう言いつつ、双眼鏡を構える玲子。
それを聞き、３人娘もそれぞれ双眼鏡を手にする。
「さてさて、何の車なのでしょーかっ！？」
皆が車に目を向けると、その車は正面ではなく、裏口らしき門から敷地内に入った。
そして、メイド服を着た女性が３人、買い物袋を手に下げて車から降りた。
どうやらただの買出しらしい。
「ふ〜む、メイドさんかぁ……」
玲子が意味ありげに呟く。
「そういえばさぁ、メイドさんとか、やたら多い屋敷よね〜？」
双眼鏡を覗きながら美穂が言う。
黒い服に白いエプロン、メイド帽。
確かに、メイドさんが庭のあちこちで見られる。
さらに屋敷の中にもそれらしい人影が確認できた。
メイドロボでも紛れていると面白いのだが。
と、そのとき、玲子は何かひらめいた顔を見せた。
「にゅふふふふ……ナイス作戦、思いついちゃった♪」
「ほほお、ナイス作戦ねぇ？ どれ、ためしに言ってみ？」
「知りたい？ 知りたい？ しょうがないな〜☆ じゃあ、ヒントをあげましょう！！」
「おいおい、作戦を秘密にしてどーすんのよっ！？」
もっともなツッコミが入る。
だが玲子は気にしない。
「この作戦は、あたしのアビリティを生かしたものなのデス☆」
「玲子のアビリティ？ ということは、アレですね？」
ここで説明しておこう。
ＩＫＫＡＴＵのメンバーである玲子、美穂、まゆ、夕香の４人は、それぞれ南さん特製アイテムを持っている。
そのアイテムを上手く利用することで、彼女達は幾つもの任務を達成してきたのだ。
例えば夕香の場合、特製パソコンを用いた情報収集という役割を担っている。
そして、玲子の場合は……。
「そう！ あたしの『変装能力』を使うのだぁ！！」
「あ、なるほどぉ☆ メイドさんに変装して、得意の潜入作戦だなぁ？」
「ピンポンピンポーン♪」
玲子は、その強力なコミックパワーを、通信機であり、変装装置でもあるアイテムを用いるエネルギー原とし、自分のイメージした通りの姿に変装できるのだ。
簡単に言うと、『いつでもどこでもコスプレＯＫ』なのである。
ちなみに、普段のこみパでコスする際にも使えそうな能力ではあるが、『衣装は手作り！』というポリシーを持つ彼女は、それをイベントで用いたことはなかったりする。
便利なんだけどなぁ……。
「どうよどうよ、この作戦？ いい感じじゃない？」
「そうですねぇ……作戦としては正しいのかもしれませんが……」
今一つ納得がいかない顔で、夕香が答えた。
「……しれませんが？」
「残されたあたし達は何すればいいのよ？」
「決まってんじゃん、あたしのサポートよう☆」
さも当然であるようにそんなこと言ったりする。
「あ〜あ、またそうやってボク達をその他３人扱いするんだぁ」
「してないしてない、ホント頼りにしてるんだから☆ という訳で、『メイドさんに紛れてぬいぐるみゲットしちゃおう作戦』に決定！」
まだ誰も同意してないのに、何故か作戦は決定した。
そんな一人笑顔な玲子を見て、美穂と夕香は何かを悟ったようだった。
「……なんかさ、今ここで反対しても無駄みたいに感じない？」
「そうですねぇ、運命と言いますか、何か強い力によって決められているような気がします……」
夕香の感じた力。
それは『主役の力』だったりする。
ゴメンよ３人娘。
ＩＫＫＡＴＵの４人が、一応は任務であるにもかかわらず、緊迫感のカケラもないやり取りをしているとき。
コミックＺの休憩室では、南さんと真紀子が昼食を取っていた。
「……それで、由宇ちゃんと詠美ちゃんたらまたケンカしてたんですよ〜。どうして仲良くできないんでしょうか、あの２人……」
「まあ、あの２人の場合、あれはコミュニケーションみたいのものね。ある意味平和な証拠よ」
「そうなんですか？ ……あ、そうだ！ 私、何か飲み物持ってきますね☆」
「ええ、お願いするわ」
席を立ち、給湯室へと向かう南さんの後姿を見つつ、真紀子は想像した。
由宇と詠美が仲良くしている様を。
何気ない話題で、笑顔を浮かべて楽しくおしゃべりしている様を。
「…………」
真紀子は想像するのを止めた。
なにやらいや〜な感じの絵が浮かんできたようである。
「お待たせしました〜☆ あら？ 先輩、どことなく顔色がすぐれないようですけど……」
「い、いえ、何でもないわ、大丈夫よ。それより早かったわね、南？」
「ええ、丁度いいところに冷たい飲み物があったんですよ〜♪」
と言いつつ、南さんは真紀子の前にグラスを置き、自分も椅子に座る。
「ありがとう。じゃ、早速いただくわ」
グラスを手に取り、くいっと一口。
すると、元からあまりすぐれなかった真紀子の顔色が、さらに悪くなった。
「……なにこれ……？」
一方、南さんはおいしそうにコクコク飲んでたりする。
「？ どうかしましたか、先輩？」
「……南、これ何ていう飲み物？ 摩訶不思議な味がするんだけど……」
「さぁ、何でしょう？ 冷蔵庫に入ってたんですけど、私もよくわからないんです。でも、結構おいしいですよ、これ☆」
「そう……口をつけたのでよかったら、私のもあげるわ」
「あら、いいんですか？ では遠慮なくいただきますね♪」
嬉しそうに真紀子からグラスを受け取り、口にする。
それを見ていて、真紀子は思った。
おっとりした性格は、味覚をもおっとりにするのだろうか……？
…………。
閑話休題。
半ば強引に決定した『メイドさんに紛れてぬいぐるみゲットしちゃおう作戦』は、実行に移された。
メイド服をイメージして服装を変化させた玲子は、裏口から問題なく潜入成功。
サポートという名の置いてけぼりを食らった３人娘とは、腕の通信機で連絡をとることができる。
そして。
「え〜、こちら玲子、こちら玲子。応答願います、どーぞ？」
『玲子ったら、トランシーバーじゃないんですから……』
「ちっちっち、わかってないなあ、気分の問題よう☆ ま、それはいいとして、これから屋敷内部に潜入するよん♪」
庭にいる間は双眼鏡で玲子の姿を確認することができたが、建物の中に入ってしまうと、玲子の状況を知らせるのは通信機から送られる情報のみとなる。
『了解しました。気をつけてくださいね』
『何かあったらすぐに知らせるのよ、わかったわね玲子！？』
「だいじょぶだいじょぶ、わかってるって☆ それじゃ行ってきま−す！！」
ピッ！
通信を終了した玲子は、玄関から堂々と進入を試みる。
鍵は掛かっていなかったので、普通に入ることができた。
しかし、ドアの向こうで待っていたのは……。
「ちょっとアナタ、どこから入って来るのっ！？」
「ほぇっ！？」
丁度掃除をしていたメイドさんだった。
他のメイドより少々年上と思われる彼女、おそらくベテランなのだろう。
厳しい表情でこちら見つつ、注意してきた。
「まったく最近の若い娘ときたら……私達メイドは勝手口から入らなければならないことを知らないの？ そんなことだからメイド長の私が注意されなければならないのよ、わかってる！？ 基本がなってないのよ、基本が！ ……そういえばあまり見ない顔だけど、アナタ新人？ よろしい、今から私がメイドの心構えというものを教えて差し上げます。いいですか、まず第一にメイドと言うものは……」
「あ、あのっ！ え〜と、あたしちょっと急いでるんで、失礼します〜！
「あ、コラ、待ちなさ〜い！！」
どこまで続くかわからないメイド長の言葉を遮り、玲子はダッシュでその場から逃げ出した。
ついでに置いてあった掃除道具もゲット！
玲子はメイドレベルが１上がった！！
「ふ〜、あぶないあぶない☆ どこにでもいるんだね〜、ああいう人って……さて、それはそうと、これからどうしよっかな〜？」
潜入任務が得意な割には、案外無計画だったりする。
しかし、毎回こんな感じで任務達成するのだから、これが彼女なりの方法なのだろう。
「え〜と……」
少々考えてみる。
そして、ふと自分の両手にある箒と塵取に目をやる。
「よしっ！ 『お掃除メイドさん作戦』でいこう！」
『お掃除メイド作戦』……それは、部屋の掃除という名目で、あらゆる部屋に入りまくるという、安直な名称どおりの作戦である。
「んじゃ、早速この部屋からいってみますか☆」
とりあえず目の前のドアをノックし、ノブに手を掛ける。
鍵は掛かっていない。
「失礼しまーす……」
覗くように部屋の中を見ると、本がぎっしり詰まった本棚が目に入った。
そこは書斎であったらしく、ぬいぐるみがありそうな様子はない。
「う〜む、ハズレかぁ……じゃ、次いってみよ〜☆」
この調子で、どんどん部屋をチェックしていく玲子。
普通の部屋、寝室、物置、トイレ、謎の部屋……
似たような部屋が多いだけで、どこにもぬいぐるみは見当たらない。
途中、数人のメイドさんに声をかけられるが、『掃除中なんで〜♪』の言葉で何とかかわす。
こんな時、部屋数が多いのも困ったものだ。
それに、この屋敷には『ドアの鍵は掛けない』という決りでもあるのだろうか？
そんなことを考えつつ、屋敷の奥へと進んでいくと、地下へ続く階段があった。
「ふむ、なにやら怪しげな階段だねぇ。これは降りるっきゃないでしょ☆」
迷う事無く階段を下りていく玲子。
降りた先には、いかにも『地下だぞ！』といった感じの通路が続く。
照明の数が少ないのか、薄暗さがいい演出になっている
玲子は、静寂の中を警戒しつつ進んでいく。
すると、わずかながら人の声のようなものが聞こえた。
「ん？ んん？ 何だろ？」
耳を澄ます。
「んごぉ……くぅ〜……う、う〜ん……んごぉ……」
いびきだった。
「こんなトコで寝てるとは、もしかして犯人さんかも？ えっと、どこから聞こえるんだろう？」
とりあえず、いびきの出所を探るため、再度耳を澄ます。
どうやら前方から聞こえるようだ。
注意深く前に進んでいくと、そばにあった鉄製のドアの中から聞こえてきた。
「ここね……」
ノブに手を掛ける。
が、今度は鍵が掛かっていた。
「鍵かぁ、夕香がいればねぇ……ま、しゃあないね、ここは後回しにしよう」
鉄製でなければ、方法がないわけではなかったが。
とにかく気持ちを切り替え、さらに奥へと進んでいく。
…………。
薄暗い通路を一人で歩くのは、なかなかにイヤなものである。
時折聞こえる場違いないびきが、なんとなく気を和らげてくれたりする。
それでも少し寂しいので、３人娘と連絡をとりたかったが、こんな静かな場所でおしゃべりする訳にもいかない。
仕方ないので、今日の夕食なにかな〜と、楽しげなことを考えつつ歩くことにした。
しかし、出かける前に『今日はカレーよ』と聞かされていたので、それもすぐに終わってしまった。
…………。
そうして進んでいくうちに、なにやら他のものとは異なる木製のドアの前に辿り着く。
先ほどの鉄のドアもそうであったが、地下の部屋はなにやら意味ありげな雰囲気を放っている。
「これはまた怪しいドア……お願い、鍵が掛かってませんように！」
ガチャガチャッ！
掛かっていた。
「むぅ〜、ここはさっきと違って諦めたくないなぁ……よぉし、こうなったら！」
玲子はドアから数歩下がり、精神を集中させる。
いつもにこやかな玲子の顔が、キッと引き締まる。
そして深い呼吸のあと、ノブのすぐ横をねらい、鋭い蹴りを放つ！
「ハアッ！！」
バキャァッ！！
玲子の放った蹴りによって、ノブの横に穴が空く。
そう、玲子は変装だけではなく、鍛えぬかれた格闘能力も持ち合わせているのである。
本当はノブ自体を破壊したかったが、金属を蹴ると痛そうなのでやめたのだった。
「ふう、こんなもんかな？ それじゃ……」
玲子は穴から手をいれ、部屋側のノブを探ると、内鍵発見♪
難なく鍵を開ける。
「さぁて、何があるんでしょうか☆」
ドアを開け、部屋の中に入る。
「！！ うわぁ、すっご〜いっ！！」
部屋の内部を目にした瞬間、玲子は驚の声をあげる。
そこは、一面ぬいぐるみで埋まっている部屋であった。
【あとがき】
どもっデロンです☆
だいぶ間があいてしまいましたね。
待っていた方いらっしゃったら、大変お待たせいたしました！
今回、コスをさせるに当って、メイドさんなるものを持ち出してみました。
メイドさんって、なんかいいよね？
これはまい属性に入るのだろうか？(笑)
ちなみに南さんだけ「さん付け」なのは、こだわりです（何の？）
そんなこんなでこのお話、まだ続きます。
賑わいを見せるコミレンジャー本編をよそ目にのんびりと(爆)
それでは第４章でまた☆