コミレンジャー外伝 『ＩＫＫＡＴＵという名の伝説』
『ＩＫＫＡＴＵ』
かつて作戦遂行率１００％を誇った、伝説の特殊工作班である。
後にコミパダークとして現れる芳賀玲子と、３人娘と称される月城夕香、星野美穂、夢路まゆ。
コミレンジャーが誕生してからは、表舞台に出てくることはなかった彼女達。
そして故あって敵味方に分かれてしまった彼女達。
今回は、そんな彼女達の活躍のほんの一部分ではあるが、見てみることにしよう。
それはコミレンジャーが結成される、少しだけ前の話である……。
第１章 通りすがりの正義の味方
昼間の太陽が夕日へと変わろうとする頃。
バイトを終えた玲子は、家へ向かわず、近くの公園へと足を運んでいた。
どっかに腰掛けて一休みしたいなぁ。
そんなことを考えながら、途中で買った缶ジュースを片手にベンチへと向かう。
ここまでは、いつもと何ら変わらない夕暮れのひと時。
そう、一人の女の子を見かけるまでは。
「ひっく……くすん……」
玲子が座ろうとしたベンチから少し離れたところで、女の子が泣いていた。
見た目は６歳くらいだろうか。
少し長めの髪を両側で結わえていて、泣き顔なんかより笑顔の方がずっと似合いそう。
そんな女の子を、玲子は放っておけなかった。
「あれ〜？ どーしたのかな〜？」
女の子の傍によって、しゃがんで話し掛ける。
「もしかして、お友達にいじめられたのかな？」
ふるふる……
無言で首を振る女の子。
「それじゃあ、迷子になっちゃったとか？」
ふるふる……
またも無言で首を振る。
「う〜ん……何があったかお姉ちゃんにお話ししてくれないかなぁ？」
「…………」
今度はリアクションすらなし。
どうやら女の子はどうしたらいいかわからず、戸惑っているようだ。
それにつられて、玲子もどうしたらいいかわからなくなりかけたりする。
「え〜とえ〜と……じゃあじゃあ、お姉ちゃんの持ってるジュースをあげるから、そこのベンチに座ってお話ししよっか？」
……こくん
「ホント？ いいの？ よかった〜☆」
やはり無言ではあるが、女の子はようやく頷いてくれた。
なんか物で釣ってしまったが。
ベンチに腰掛け、玲子に貰ったジュースを飲むと、女の子は少し落ち着いたのか、自分から話し始めた。
「あのね……ともみのね……だいじなぬいぐるみがね……おっかないおじさんたちにとられちゃったの……」
「へっ！？」
それを聞いて、玲子は驚きを隠せなかった。
「なになに！？ 大事なぬいぐるみ盗られちゃったの！？」
こくん
「それで、そのおじさん達は知らないおじさんなの？」
……こくん
「う〜む、そんな理不尽かつ横暴なことがあったなんて……許せないっ！！」
そう言って、握りこぶしを作る玲子。
平和な日本でそんな珍妙な事件が起こるとは。
おじさんとぬいぐるみという結びつきにイマイチ実感が湧かないが、とにかく許せない。
「よしっ！ お姉ちゃんがそれ、取り返してきてあげる！！」
「……ほんと、おねえちゃん？」
ともみちゃんは、少し驚いて玲子を見た。
「うん、お姉ちゃんにまかせなさい！ お姉ちゃん、実は結構スゴイんだから☆」
「……うんっ！」
玲子の言葉を聞いて、ともみちゃんはようやく笑顔を見せる。
「そうそう、女の子はいつも笑ってなきゃだめよう♪」
ともみちゃんの笑顔が見れて、玲子も少し安心した。
安心したところで、まずは情報を集めないといけない。
「それじゃお姉ちゃんにいろいろ教えてね。まず、そのぬいぐるみってどんなぬいぐるみなの？」
「えっとね、お父さんからもらったの」
「お父さんからもらったんだぁ。それじゃ、すごい大事なものなんだね……」
それを聞き、ともみちゃんはちょっと寂しい表情になる。
「うん……ともみのお父さん、いそがしくてあんまりおうちに帰ってこれないの……」
「そーなんだ……それじゃ、絶対取り返さなきゃ、だね！」
玲子は元気付けようと、勤めて元気よく振舞った。
「それで、何のぬいぐるみなの？」
「あのね、ペンギンさんのぬいぐるみなの」
「なるほど、ペンギンさんかぁ……それ、おっきかった？」
「うん、おっきくてね、くびのとこが黄色いの」
「ふむふむ、なんとなくイメージはできたっと……」
さすがにぬいぐるみの写真などは期待できないだろう。
大体のイメージを掴んだところで納得する。
「次は……おじさん達に持っていかれちゃったとき、近くに大人の人とかいなかった？」
「う〜ん……いなかった……とおもう……」
直接の目撃者はいないようだ。
「そっかぁ……じゃさ、そのおじさん達、どっちの方に行ったの？」
「えっと、あっちのほう」
ともみちゃんが指差す方向には、少し離れてはいるが、砂場がある。
そして、小さな女の子とその母親らしき女性がそこで遊んでいる。
もしかしたら何か知っているかもしれない。
「よし、お姉ちゃんちょっとあの人に聞いてくるから、ともみちゃんはここで待っててね☆」
「うん、わかった……」
ともみちゃんをベンチに残し、玲子は砂場にいる親子の元へ向かう。
親子は小さなお山を作って遊んでいる。
「あの〜、すみません。ちょっといいですかぁ？」
「はい？ 何でしょうか？」
突然声をかけられて、驚きつつも振り向いた女性は、母親と言うにはまだ若く見える。
腰まで伸びる髪を、先の方で軽く三つ編みにして束ねている。
全身から優しさオーラを発しており、はっきり言って美人である。
子供の方は、こちらに構わずシャベルで砂を掘っている。
大きなリボンが印象的で、無邪気そのものといった感じ。
「え〜と、怪しい男の人たちがここを通ったと思うんですけど、見ませんでしたか？」
「怪しい男の人ですか？……見たような見ていないような……どういった方々でしょう？」
小首をかしげる女性。
「ペンギンのぬいぐるみをもった男の人たちなんですけど……」
それが持っている情報の全てだったりする。
それによく考えると、怪しいかどうかなどわからない気も……。
「あら、そういう方々ならついさっき見ましたよ？」
だが、意外にもあっさりと期待通りの答えが返ってきた。
「ほ、ホントですか！？ それで、どっちの方に行きました！？」
「どっちと言いますか、あちらに止まっていた黒い車に乗って……って、そうそう、丁度あのような感じの車でしたね」
女性が顔を向けた方を見てみると、確かに黒い車が止まっていた。
ここからでは良く見えないが、車内には何人かの男の姿がある。
なんというか、普通ならあまり関わりたくない雰囲気を放っている。
「なるほどぉ、かなりそれっぽい車ですね……多分そうでしょう、いや、そうに違いない！」
玲子は何か確信めいたものを感じた。
根拠は特に無いのだが。
と、その時、不意にブランコの方から母親を呼ぶ声が聞こえた。
「まぁ〜、はやく〜！ ちゅぎはこれであしょぶの〜！！」
「あらあら、かおるったらもう、いつの間に。は〜い、今行きますよ〜……では、私はこれで失礼しますね」
微笑とともに会釈する女性。
「あ、はい、ありがとうございました〜☆」
玲子は、ブランコの方へ小走りで向かう女性に深々とお辞儀をした。
これでともみちゃんのぬいぐるみへ一歩前進である。
手掛かりその１をげっとした玲子は、その足で手掛かりその２をげっとすることにした。
例の車にさりげなーく近づき、装備している腕時計についてる発信機をなにげなーくセットするのである。
ただし、もしぬいぐるみを確認できたら、その場で取り戻すという選択肢もあり。
題して『さりげなく発信機つけちゃえ作戦』！
そのまんまなのはお約束。
「さーて、作戦開始ってね☆」
その言葉を合図に、玲子はゆっくりと歩き出す。
そして車内の様子が確認できる距離まで近づいた。
男の数は４人、みな黒服・黒メガネを装着している。
何をしてるかと思えば、どうやら夕飯タイムのようだ。
そろってコンビニ弁当らしきものを口にしている。
乗ってる車からして、もう少しいいもん食べてもよさそうなものだが。
とにかく、チ〜ャンス☆
車のすぐ傍まで近づいた玲子は……。
ベシャッ！
「いった〜〜〜い！！」
コケた。
それも見事に。
近年稀に見るコケっぷりを披露した玲子は、車のバンパーに手をかけて立ち上がる。
立ち上がると同時に横目で車内を見るが、ぬいぐるみは確認できない。
見えないところに隠しているのだろうか……？
と、その時、車のウィンドウが開いて男の一人が顔を出し、驚いた顔で言った。
「おいおい、大丈夫かい？ 随分とハデに転んだようだが……」
「あ、はい、大丈夫です☆ ちょっとよそ見してたんですよ〜スミマセン〜」
膝のあたりを手で払いながら笑顔で答える玲子。
そしてここぞとばかりに尋ねる。
「あの、それより、実はあたしちょっとペンギンさんを探してるんですけど、この辺りで見ませんでしたか？」
ギクゥッ！！
そんな表現が恐ろしいほど当てはまる表情を、その男は見せてくれた。
修行が足りんよ。
「なな、何のことだい？ 私はペンギンのぬいぐるみなんて知らないがっ！？」
おまけにしっかりとボロまで出してくれる。
「あれ〜？ あたし『ぬいぐるみ』なんて言ってないんですけど……あたしが探してるのがぬいぐるみだって何で知ってるんですかぁ？」
ジト目で男をにらむ玲子。
「なっ――！？」
対してあせりまくってる男。
玲子はこの男たちが犯人だと確信した。
そしていきなり窮地に立たされた男たちが取った行動は……
「わ、悪いねお嬢さん！ ちょっと急いでるんだ、失礼するよっ！」
夕飯タイムもそこそこに、その場から逃げ去るというものだった。
もうちょっとこう、格好のつけ方もあるだろうに……。
「ああっ！？ ちょと待ちなさ〜〜い！！」
とりあえずそんなことを叫んでみる。
それで待ってくれるともうけもんなのだが、そんなことは有り得なかった。
「ふう、逃がしちゃったか……まあ、しょうがないね、相手は車だもん」
逃がした割には落ち着いてる玲子。
もちろんそれには訳がある。
「それじゃあ、しっかり案内してよね、目的地まで♪」
そう、『さりげなく発信機つけちゃえ作戦』はしっかり成功していたのであった。
直接取り戻すには至らなかったものの、まずまずの成果を収めた玲子は、笑顔でともみちゃんのもとへ戻った。
「ともみちゃん、おまたせ〜☆」
「あ、おねえちゃん……」
ともみちゃんは、玲子に言われたとおり、ベンチに座って待っていた。
「ぬいぐるみ、なんとかなりそうだよ♪ 結構手掛かりがあったから」
「……ほんと？」
親指を『ヨクデキマシタ』的にビシッと突き出して玲子が言う。
「うん、ホントホント☆ バッチリよう！ でも今日はもう遅いから、明日になっちゃうけどいいかな？」
加えて言うなら、目的地の特定に時間がかかるということもある。
またどこで夕飯タイムになってるかわからないし。
でもともみちゃんは全然気にした様子も無く。
「うん、いいよ。ともみ待ってる♪」
「ありがと☆ じゃあ早速準備しなくちゃ。明日の今くらいの時間に、またここで会える？」
「うん」
「おっけぇ〜！ それじゃ気をつけて帰るんだよ、バイバイ〜☆」
「ばいばい、おねえちゃん〜」
手を振りながら背を向け、歩きだした玲子だったが、ふと何かを思い出したように足を止める。
そして、ともみちゃんの方へ向き直り、こう言った。
「そういえばお姉ちゃんの名前、言ってなかったね？ あたしは玲子！ こう見えても正義の味方なんだから☆」
【あとがき】
ども、デロンです☆
今回は、影が薄すぎなチーム一喝の外伝です。
だからコミレンジャーの５人は出てきません。
だって出したら話喰われそうだし（笑）
とはいえ、まだ３人娘すら出てきてない……
先は長そうです。いやマジで。
できればのんびりお付き合いくださいませ☆
それでは次もよろしくです〜☆