コミックＺ秘密基地。
ここでは、「カリスマン」率いる秘密結社『ハラジロ・シスターズ』に対抗すべく、
絶え間ない努力と研究が繰り広げられている。
そして今日もまた、ある試みが行われようとしているのだった。
――――オペレーション・ルーム
「みんな、今日も忙しい中、よく集まってくれました」
「いつものことやからなぁ、かたっくるしい事は言いっこナシやで」
「そうですよ、澤田司令。で、今日は一体何を？」
「ええ。それについては本作戦の発案者に説明してもらうわ。じゃ、南、お願いね」
「はい♪」
コミレンジャーのメンバーである彼女達にも、普段の生活というものがある。
同人活動や学生生活、仕事のため、緊急時以外では全員が集まれないこともある。
そんな中、オペレーション・ルームにはメインのメンバーが集まっていた。
「ちゃちゃっとおねがいね！ あたし明日にむけてちょおたぼーなの！」
「･･････また追試･･･ですか･･･？」
「うっうるさいわねぇ！！（図星）」
「あらあら、大変ねえ詠美ちゃん。でも今日の作戦は簡単だから大丈夫よ♪」
「それで牧やん、その作戦っちゅうのは？」
「はい☆ 今日は皆さんに、街に出ていろいろと良い事をしていただきます」
「「「「「････････････････はい？」」」」」
明らかに言ってる意味を理解できない５人。
そりゃそうだ、これで判れというほうが無理である。
そもそも、それは作戦とは言わないのでは？
「あら〜、わかってもらえなかったかしら？」
「南･･･もう少し説明してあげて･･」
「そうですね････あたしからもお願いします、南さん･･」
「あ･あの、私もよく、その･･わからなかったです･･･」
「あらあら、そうなんですか？ 困りましたねぇ。
え〜と、みなさんは悪の手から世界を守る、正義の味方さんですよね？」
「まあ、一応そうなりますね」
「正義の味方さんは、良い人でなければいけませんね？」
「一般的にはそうやなぁ。悪どい正義の味方っちゅうのも、どっかにおりそうやけど」
「ですから、みなさんにも良い人になってもらうために、この作戦が必要なんです」
「にゃああ、わかりましたお姉さん！ 千紗、いいこといっぱいするですよ♪」
「あらあら、千紗ちゃんはいいのよ？ 今のままで充分良い人ですから☆」
「そうなんですかぁ？ 千紗、つまんないですぅ･･･」
南さんの更なる説明を受けても、一同の顔には『？？？』が浮かんでいる。
大体、良い事をすると良い人になるという時点で、かなり怪しい。
「さあ、みなさんわかってもらえましたね？」
「いやぁ、わかったような、わからんかったような････」
「わかりましたね？（にっこり）」
「････猪名川さん･･これ以上は･･無駄みたいです･･･」
「･･そうみたいやな････」
「それでは、名付けて『オペレーション一日一善』、スタートです！
みなさんがんばって良い事してくださいね☆」
――――公園付近
納得いかないまま、５人はとりあえず公園までやってきた。
しかし、良い事をしろと言われても、どうしたらいいかわからないのが現状である。
「う〜ん、一日一善っちゅうてもなぁ？」
「そういう機会って、探してもなかなか無いわよね」
「･･そもそも････探すものじゃないです･･･困ってる人････」
「そ･そうですよね、なんか･･その･･よ･よくないと思います」
到着して１分足らずで、早くも疑問の念に駆られる面々。
そう、ひとりを除いては。
「ふふんっ、これだからあんたたちはアマアマちゃんなのよ！
この詠美ちゃん様にかかれば、困ってる人なんてむこうからやってくるんだからっ！」
「･･あんたがうらやましいわ････深いこと考えんでええんやから」
「うらやましい！？ でしょおでしょお♪ パンダったら今ごろわかったのっ！？」
「大庭さん、ほめてないほめてない」
「････ほんと･･ある意味･･うらやましいですね････」
そうこうしているうちに。
詠美がふと公園の外に目をやると、大きな荷物を持ったおばあさんが立っていた。
どうやら横断歩道を前にして、困ってるように見える。
「ほらほら、あたしってばさっそく発見！ ちょっと〜！ おば〜ちゃ〜〜〜ん！！」
「ああっ！？ ちょい待ちぃな詠美！ ずっこいでぇぇぇ！！」
「へへん、はやいもの勝ちよ〜だ！ あんたたちついてくんじゃないわよぉ！！」
ぶんぶか手を振りながら猛ダッシュする詠美ちゃん様。
信号は赤。間に合いそうだ。
「はぁ･･はぁ････おばーちゃん、重そうねぇ、荷物、持ってあげよっか？」
「おやおや、ありがとうよ。でも重いからねぇ、無理しないでいいんだよ？」
「だいじょおぶ！ この詠美ちゃん様にまかせなさいっ！」
「そうかい、すまないねぇ」
「ほら貸して貸して！ よっこい････う゛っ！？」
おばあさんから荷物を受け取ろうとした詠美だが、あまりの重さに腰がグキッといきそう。
「ふみゅう･･･おもいぃぃぃ･･･」
「あらあら････だから言っただろう、重いんだよって？ どれ、貸してごらん」
そう言いつつ、おばあさんは軽々と荷物を持ち上げる。
そして信号も青になっていた。
「へ････？」
「気持ちだけ貰っておくよ、お嬢ちゃん。ありがとうね」
どうやら信号待ちしていただけのおばあさんは、何事もなかったかのように歩いていった。
その後姿を呆然と見送った詠美が、しおしおになって帰還した。
「詠美、おつかれさん。相手が悪かったようやな････」
「ふみゅぅぅぅん･･････」
「あ･あれは、えっと･･･大庭さんのせいじゃないと、お･思います･･･」
「････私にも無理です･･」
「ホンマに重そうやったもんなぁ。あれ持てるっちゅうたら、瑞希っちゃんくらいやないの？」
「い、猪名川さん････あたしってそういうキャラだったの････？」
「冗談や、冗談。怒ったらあかんで♪」
無謀なる敗者の傷を癒す４人。
しかしこの反省を知らない敗者は、新たなるターゲットを発見する。
それは、ガイドブックらしきものを手に、辺りをキョロキョロしている女性だった。
「ふみゅ！！ 今度はまよえるこひつじ発見！」
「あ、待って大庭さん！ あの人は････」
「そんなこと言って、あたしより先に行くつもりでしょ！？ その手にはかからないわよ！」
詠美ちゃん様、再び猛ダッシュ！
しかしあの女性には、少々問題があったのだ。
「はぁ･･はぁ･･はぁ････ねえ、あんた何か探してんでしょ？ あたしにまかせ････」
「Oh！ May I ask you a question？」
「ふみゅっっ！？！」
「I want to go to the nearest station from here. Do you know that way？」
「ふみゅふみゅふみゅうふみゅみゅぅぅぅん？？！？」
「？ Humyu？ What do you say？」
「ふみゅぅぅぅぅぅん！！！」
そう、彼女は外人さんだったのである。
詠美ちゃん様にできることといえば、『ふみゅ語』で対抗し、脱出することくらいであった。
ちなみにふみゅ語とは、ふみゅの一言で会話が可能という、高度な圧縮言語である。
ただし使い手が詠美だけなので、あまり意味は無いのだが。
「いやぁ、あんた今日は大活躍やなぁ」
「ふみゅ〜ん････」
「あたしもあの人には気付いてたんだけど、英語話せないから、ね？」
「ふみゅ？」
「････大庭さん･･日本語でお願いします････」
「ふみゅ〜」
「えっと･･あの･･ダ･ダメみたいですね････？」
「あ、ちょっと動かないで大庭さん！ ハチが飛んでるわ！」
「ふみゅっ！？」
「ホンマや。これぞ泣きっ面にハチってか？ ････つまらんなぁ･･」
――――駅前
由宇のあまりにくだらん失言を合図にしたかのように、場所を駅前へと移した５人。
詠美もどうやら日本語を思い出した様子。
そしてオプションも一匹、何故かついてきていた。
「ちょっと、なんなのよこのハチ、しつこいわね！」
「攻撃はしてこないみたいだから、気にしないほうがいいのかな？」
「いや〜、さすがは詠美ちゃん様や、人間以外には好かれるんやなぁ？」
「な、なによっ！？ あんたがくだらないこと言ったからついてきてんじゃないの！？」
「んなワケないやろ。ハチに人間様の言葉が判るっちゅうんか？」
「さ、最近のハチはかしこいのよっ！」
「あ･･あの、ケ･ケンカは･･その･･やめてください！」
「････大丈夫････いつものことですから･･」
「で･･でも･･･」
「いいのよあさひちゃん、これが２人のコミュニケーションなのよ･･････たぶんね」
詠美と由宇。
この２人が顔を合わせて、口論にならなかったことはあるんだろうか？
そんなことを３人が考えているとき、突然事件は起こった。
「きゃああああ！ 引ったくりよぉ！ あたしのバッグ返してぇぇぇ！！」
「「「「「！！！」」」」」
女性の甲高い声が辺りに響く！
声の元へ目をやると、動転して座り込んだ女性と、走り去ろうとする男性が！
「これや！ こいつを待ってたんや！ これぞまさしく一日一善！！」
「そ、それはどうかと思うけど、とにかく追いかけましょう！！」
「ウチと瑞希っちゃんが、ヤツの後を追いかける！
彩と詠美は、逃げ道が限定されたところで先回りするんやっ！」
「･･了解････」
「ちょっとぉ！ なんであんたがしきってんのよ！？」
「（無視）そんで、あさＰはバッグ取られた女の傍についとってくれっ！」
「わわ、わかりましたっ！」
「あ、あっさり無視すんじゃないわよ！ パンダのくせにぃ！！」
叫ぶ詠美をよそに、由宇と瑞希は追いかけ始める。
それにやや遅れて、彩と詠美が走り出す。
そしてあさひは、女性に付き添う前に、基地に通信を試みた。
「あ･あの･･コミックＺ、こちらあさひです、お･お･応答願います」
『はい、あさひちゃんこんにちは。南ですよ』
「あ、み･南さん？ ああ･あのですね、その･･ちょっと事件が････え〜と･･･」
『ええ、わかってますよ。引ったくりさんですね？ がんばってください、みなさん☆』
「ふえっ？ な･なんで･･その･･し･知ってるんですか！？」
『ふふふ、それはヒミツです♪』
「？？？」
一方、男を追う由宇と瑞希。
男が路地裏へと逃げ込んだため、彩と詠美はそれぞれ反対側から先回りを試みる。
「ねえ猪名川さん、あの男なんだけど･･何か引っかからない？」
「う〜ん、確かにちょっと変やな？ 全身黒尽くめで、妙に素早いしなぁ･･」
「それに、一度もこっちを振り返らないのに、ずっと逃げてるというのも････
まるで、あたしたちが追いかけてくるのが判ってるみたい････」
「････せやな。こりゃタダの引ったくりやないんかもしれへん･･」
男はさらに奥へと逃げ込む。
若干の疑問を抱きながら、２人も奥へ追い詰める。
しかし････！
「えっ！？ 行き止まり！？」
「それにヤツもおらへんでっ！？」
両側は高い建物が壁となってるし、前方は小さな建物がある。
小さいといっても、普通の男なら、そう簡単に乗り越えられそうも無い高さだ。
「瑞希っちゃん、いやな予感的中かもしれへんな･･」
「ええ････」
やはり、ただの引ったくりではない。
そう気付いた瞬間、突然２人を脱力感が襲った！
「な、なんや？ 力が抜ける･･！？」
「そんな････どうして！？」
「ボ、ボク達のワナへようこそなんだな」
「歓迎するでござるよ！」
瑞希と由宇の前にある建物の上から、いまいち迫力のない声が響く。
その声の主は････！
【あとがき】
ども、デロンです☆
ゴンジー会長の勧誘で、コミレンジャーを書かせていただきました。
役職はありません（笑）
しかしラストの『その声の主は････！』は、謎でもなんでもないですな。
こんな引きですが、後編も読んでやってくれればうれしいです☆