引ったくりの男を追う、瑞希と由宇。
路地裏へと追い詰めたはずが、そこに男はいない。
異変に気付いた彼女達を脱力感が襲う！
そして今、彼女達の前にある建物の上から、２人の男の声が響いたのだった……
「あ、あんたらは、おたくその1その２！」
「ちょっと待つでござる……まだ『たてよこ』の方が個性があっていいでござるよ……」
「まあ、どっちでもええわ。で、そのたてよこが、なんでこんなとこにおるんや？」
いきなり出鼻をくじかれた、たてよこ。
しかし何かを思い出したように、不敵な笑みを浮かべる。
「さ、さっきボク達が公園のそばを歩いてたら、キミたちが何かしてるのが見えたんだな」
「それで調べた結果、これは利用できると判断したのでござるよ！」
「……ってことは、さっきの引ったくり犯はあんたらの差し金ってワケやな……ムカツクわぁ」
「あたし達の力が急に抜けていったのも、まさかあなた達の仕業？」
「大方、ウチらのコミックパワーでも封じたっちゅうとこやろ」
「その通りでござる！」
「せ、説明ゼリフ、ありがとうなんだな」
公園で見かけてから計画を立て、実行に移るまでそれほど時間は経っていないはず。
それでいてここまでは計画通りということは、実はこの二人、意外にも優秀なのか？
人は見かけによらないものだ。
「思った通りやな……こりゃヤバイで瑞希っちゃん、コミックパワーが無いっちゅうことは……まあ、あのアホ２人はいいとして、大勢で来られたらさすがにピンチかもしれへん」
「はっはっは、そのとおりでござる！ 戦闘員の皆さんも待機してるでござるよ！」
「普通の女の子なら、ボ、ボクらでも勝てるんだな……だから、おとなしくした方が身のためなんだなぁ……でへへへぇ」
不敵の笑みが、明らかに何かいけないことを想像したニヤつきに変わる。
「それでは、戦闘員の皆さん〜〜〜〜〜〜でござるっ！！」
「「「「「「ウィーーーーー！！！」」」」」」
あっという間に、数十人の戦闘員が2人の周りを囲む！
一体どこにこれだけの人数が隠れていたのか、それは謎ではあるが。
「どうでござるかお二方！ 手も足も出ないでござろう？」
「ボ、ボクとしては、おとなしく降伏してほしいんだなあ」
「誰がするか、ドアホ！！ ……とは言ったものの……」
「さすがにマズイわね……どうしよう、猪名川さん？」
劣勢に立たされた由宇と瑞希。
２人を囲む戦闘員の輪が、ジリジリと狭まっていく。
「落ち着け……落ち着くんや……何か方法はあるはず……」
「そうよ、あきらめたらそこで試合終了なんだから……」
その時、由宇が何かに気付いた。
「（……！！ 瑞希っちゃん、あれ見てみい！）」
「（あっ！！）」
「（そういうことや♪）……なあ、お二人さん、一つ訊いてもええか？」
「ほほう、なんでござるかな？」
「「ウィー？（なにかな？）」」
余裕綽々のおたくたてよこ。
そして何故か会話に入りたそうな、戦闘員さん。
しかしオ・ターク語は、常人である瑞希と由宇には通じないのだ。
「その、なんや、どないしたらウチらのコミックパワーを封じれるんかな〜って思ったんや。なあ、瑞希っちゃん、不思議に思わへん？」
「そ、そうよね、確かに知りたいかな〜……なんてね♪」
「「ウィー！（それは秘密さ！）」」
「お主等は黙ってるでござる！ そうでござるなぁ、特別に教えてやるでござるよ」
「じ、実は、カリスマン様のパワーが込められた、この水晶のおかげなんだな♪」
「「ウ、ウィー！！（な、ナンダーナ様、それは出さない方が！）」」
得意げに懐から水晶を取り出す、なんともおめでたい、おたくよこ。
戦闘員さんの忠告は、残念ながらたてよこには届かなかった。
「この水晶の半径１０ｍ以内じゃ、コ、コミックパワーは無力化するんだな！」
「試作型のため、有効範囲が狭いのが難点でござるよ」
「ほぉぉぉぉ♪ つまり、それを破壊すれば、ウチらのもんっちゅうことやな？」
「で、でもキミたちにはどうしようもないんだな」
「ま、ウチらにはな。そういうことやから、頼むで、彩♪」
「……はい……」
ビシッ！！
「あいたっ！！ い、痛いんだな！ いきなりなにするんだな！？」
彩が繰り出した鋭いチョップが、水晶を持つおたくよこの手にヒット！
そして水晶は持ち主の手からこぼれ落ち……
パリーーーン♪
「……………………あ」
「よっしゃあっ！！ よくやったで、彩！」
「はい……ナイスアシストです……」
「お、お主いつの間に我々の背後に！？ コミックパワーは使えないはずでござる！？」
「……私……普段から気配を消すの……得意だから……」
「ちなみに戦闘員さんたちはわかってたみたいだけどね。こっちからは見えるから」
「「ウィ―（そうなんだよね）」」
確かに戦闘員さんたちは気付いていたようだ。
そして、一応たてよこに忠告もしている。
「キ、キミたち、そういうことはもっと早く言うんだな！！」
「「ウィーウィー！（だからさっき言ったじゃないっすかー！）」」
「何たる失態！ タングス天王に言いつけるでござるよっ！！」
「「ウィ〜〜！（そ、そんなぁ〜〜！）」」
「は〜い、そこまでや♪」
たてよこと戦闘員さんが揉めている隙に変身を完了していた由宇が割って入る。
でもって、巨大なハリセンを装備したりしてた。
「悪いけど、揉め事はよそでやってくれへん？ いまウチが吹っ飛ばしたるから♪」
「な、な、なにするつもりなんだな！？」
「わ・か・る・や・ろっ！？」
若干引きつった笑顔を浮かべ、由宇が巨大ハリセンを思いっきり振りかぶる。
「……長谷部さん、こっちに非難した方がいいと思う……」
「そうですね……巻き添えはごめんです……」
「「ウィー……（んじゃ、ぼくらも……）」」
すでに部外者っぽくなってる瑞希と彩。
そして何故か一緒に非難する戦闘員さんたち。
彼らはすでに戦う気を無くしている様であった。
「ちょ、ちょっと待つでござるよっ！」
「は、話せばわかるんだな！ 暴力反対なんだなっ！」
「やかましいっ！ そんなベタなセリフは聞こえへんっ！！」
「「そ、そんな〜〜〜〜〜〜〜！！！」」
「いくでぇぇっ！！ 一撃必殺！ 松井も腰抜かす場外ホームランバスターーー！！！」
ドグシャァァァァァァァァ！！！
「「あぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇ！！！」」
あわれお空の星となった、おたくたてよこ。
その散り際もまた、お約束なのである。
「ふっ……今年は優勝や……」
「あ〜〜〜〜！！ なによなによ、もうおわっちゃたの？ この詠美ちゃん様ぬきで！？」
「なんや詠美、今ごろ来おって。あんたのことやから、どーせ路地裏で迷っとったんやろ？」
「そ、そんなわけないでしょお！？（再び図星）ヒロインはおくれてやってくるのよっ！」
「遅れすぎや、アホ」
「ふみゅぅぅぅぅん……」
「大丈夫よ大庭さん、あたしも何もしてないから♪」
「……猪名川さんの……一人舞台……」
「「ウ、ウィ〜……（あ、あの〜……）」」
存在を忘れられかけてた戦闘員さん御一行。
地味にこいつらも非難してたのであった。
「ん？ なによあんたたち、ブキミもどきのしたぼくじゃない？」
「「ウィ（はい、どうも）」」
「あんたたちもたいへんよね、あんなののしたぼくなんだから」
「「ウィーー！（そうなんスよ！）」」
「「ウィウィー？（で、ぼくらも帰っていいっスかねえ？）」」
「別にいいんじゃないの？ あたしはよくわかんないけど」
「「ウィ！ウィー！！（それじゃ、お疲れっしたー！！）」」
「はいはい、おつかれ〜！」
やる気なくパタパタと手を振る詠美。
一見すると何気ない会話なのだが、しかし一つだけ違和感を覚えることがある。
それは……
「ねえ、大庭さん……あなた、あの人たちの言ってることがわかるの？」
「ほんまや。ウチらには、何言ってるかさっぱりわからなかったんやけどなあ？」
「へ？ だって普通にしゃべってたじゃない、あいつら」
「……全然……普通じゃなかったです……」
「そうよね、なんか『ウィー！』とか言ってるだけで……」
「なになに、あんたたちわかんなかったの？ ダメダメね〜！！まあ、あたしはちょおちょお天才だから、あんなの楽勝なんだけど♪」
「詠美……あんた日本語もよおわからんくせに、あんなのだけはわかるんやなぁ」
「ふふんっ、なによパンダ、それって負けおしみ？」
さすがは同じ高圧縮言語の使い手、詠美ちゃん様だった。
「ウチはあんな言葉、わかりたくないけどな……」
見事たてよこを撃退したコミレンジャー。
通りに戻った彼女達を、あさひと引ったくりにあった女性が出迎えた。
例のバッグだが、それ自体が目的では無かったためか、戦闘員さんが帰り際に返してくれた。
案外律儀な人達だ。（正確には人ではないが）
これで事件は無事解決、めでたしめでたし！
……しかし彼女達の問題は解決していなかった。
「ところで、これって良い事に入るのかな？」
「当たり前や！ これが良い事でなくて、他に何があるっちゅうねん？」
「そーよそーよっ！」
「……でも……誰の手柄なんでしょう……？」
「「うっ……それは……」」
彩の疑問が痛いところを衝いたところで、瑞希の通信機が鳴り響いた。
「はい、こちら瑞希です」
『南です☆ 瑞希さん、そしてみなさん、事件解決ご苦労様でした♪』
「ありがとうございます……って、あれ？ どうしてそれを？」
「そそ･そうなんです、瑞希さん。南さんには、どういうわけか、その、わかっちゃうみたいなんです」
「ふみゅう？ 南さんってば、えすぱー？？」
『ふふふ♪ じゃあ種明かししちゃおうかしら☆ みなさんの周りを、ハチさんが飛んでるでしょう？』
それを聞き、辺りを見回す５人。
確かに、あの時のものと思われるハチが、まだ近くを飛んでいる。
「ああ、飛んどるな。それがどないしたん？」
『そのハチさんは、ハチさんであって、ハチさんではないの☆』
「……え〜と、ハチはハチだけど、ハチじゃない……ふみゅう？」
「どういうことです、南さん？」
『ええ、実はそのハチさんは、私が開発した超小型探査・追跡メカなんです。それで今回の作戦の本当の目的は、ハチさんの実地テストだったんです♪』
「な、なんやてぇぇぇ！？」
さらに続く南さんの説明。
それによると、このハチ型メカには高性能カメラとマイクが装備されており、動力・エネルギー源は秘密らしい。
また、ハチ型だと空中に静止することができ、現場の映像を送るのにも適しているそうだ。
もっとも、様々な機能を超小型ボディに組み込むという、デタラメな科学力があっての選択だが。
「と、いうことは、ひょっとして今回の一日一善というのは……？」
『え〜と、あまり意味はありませんねぇ♪』
「やっぱり……」
「最初から……意味がないとは……思ってました……」
『それともう一つ。ただハチさんを飛ばしても面白くないですから、ナイショで作戦行動中のみなさんの様子をチェックしてたんです』
「ふぇ？ チェ、チェック、ですか？」
『はい☆ 今日みたいな作戦でも、ちゃんとがんばってくれてるのかな〜って♪』
なんかおっかないことをサラッと言ってのける南さん。
その気になれば、ターゲットを四六時中ハチさんで追いまわすことも可能なのである。
「牧やん、ちょいまち！ ウチらのプライバシーはどうなるんや！？」
『あらあら、作戦行動中はプライバシーの対象外ですよ？』
「……そうなんか、瑞希っちゃん？」
「ええと……あたしにふられても、ねえ？」
「……南さんにそんな趣味が……知りませんでした……」
『いやだわ彩ちゃん、趣味じゃなくてお仕事よ、お・し・ご・と♪』
ハチさんのテストより、こっちの方がメインであったのではないか？
そうも思えるほど、南さんの口調は明らかに楽しそうだった。
「なんかハラ立つなぁ……牧やん、このハチ叩き落してもええか？」
『あら由宇ちゃん、そのハチさんを作るのに、ここでは言えないくらいのお金がかかってるのよ？ 弁償できるかしら？』
「ぐ……くそ」
「そういえば、コミックＺの資金源って何なのかな？」
『……瑞希さん、世の中には知らない方が幸せなことってあるんですよ♪』
だから、恐いことを何気に言い放たないで下さい、南さん……
『とにかく、みなさん作戦遂行目指してがんばってくれてたので、私、安心しました☆ 特に詠美ちゃんはよくがんばりましたね♪』
「え？ あ、ああ、あたりまえよっ！ ちゃんといいトコ見てんじゃない、南さんってば！」
「……んなことゆうて、ホンマはちゃちゃっと終わらせて、はよ帰ろう思うとったんちゃうんか？」
「！！！ ななな、なに言ってんのよっ！？ パンダのぶんざいでぇ！？！（三度図星）」
由宇の突っ込みに、わけわからん突っ込み返しをする詠美ちゃん様。
傍から見ても、明らかに狼狽しているご様子。
『そうだったの、詠美ちゃん？』
「……大庭さん……わかりやすすぎです……」
「ちっちがうわよっ！！ え〜と……そ、そだ！ しょーこ見せなさいよね、しょーこを！！」
追い詰められて証拠見せろと言う……
この時点で、すでに認めているような気がしないでもないが。
「バラバレやっちゅうの……『そのとおりです』って顔に書いてあるで♪」
「ええっ！？ うそっ！？ ちょ、ちょっと、鏡ないの鏡っ！？」
「……詠美ちゃん様は正直者やな〜」
ここまで期待通りのリアクションだと、コント以外の何物でもない。
『あらあら詠美ちゃん、そんないけないこと考えてがんばっていたなんて、お姉さん残念だわ……そうだ、あんまり残念だから、詠美ちゃんにプレゼントをあげましょう☆』
「え？ プレゼント？ なになに、なにくれるの？」
「大庭さん、この状況でよく喜べるわね……」
『そうねえ……１ヶ月間基地内お掃除係なんてどうかしら？ もちろん返品不可ですよ♪』
「ふみゅうっ！？ そんなのいらなぁいっ！！」
こんな小学生レベルの攻防を見ていた彩がポツリと。
「大庭さんを見てると……飽きません……」
「そ･そうですね……でも、なんか楽しそうで、その……ちょ･ちょっとうらやましいかな♪」
「あ〜あ、事の真相を聞いてたら、なんかどっと疲れちゃった」
『あらあら、それじゃ、早く基地に戻ってきてくださいね。みんなでお食事にでも行きましょう☆』
「よっしゃあっ！！ もちろん牧やんのオゴリやろなっ！？」
『ええ、いいですよ。詠美ちゃん以外は♪』
「そ、そんなぁ〜〜！！ ふみゅぅぅぅぅん……」
和やかな雰囲気で帰路に着く４人。
そして、とぼとぼと肩を落として寂しげな人影が１つ、その後に続いて行った……
今回の作戦でわかったこと。
それは、南さんは侮れない人だということ。
いろんな意味で。
【第１０話 END】
【あとがき】
ども、デロンです☆
何とか終わりました、初コミレンジャー。
キャラがたくさんいると大変ですな、セリフばっかしになってしまった……ぬう……
あと、なんかコミレンジャーなのに、普通のこみパと大して変わらない気が？
ほとんど戦闘シーン、無いからなあ……ぬうう……
ただ、書いてて楽しかったのも事実。
ノリが合ってるかな？
みなさんもコミレンジャー作成委員会の企画に乗りませんか？ 楽しいですよ♪（笑）
え〜と、ではご意見・感想などありましたら、メールか掲示板の方に遠慮なくどうぞ。
いや、「読んでやったぞ」だけでもいいですから（笑）
みなさんの一言が、何より嬉しいのです！
それでわ☆