同人戦隊コミレンジャー ～ 強襲！ タングス天王 ～
シメキリオトス城・謁見の間 ――――――
「・・・無様だなぁ・・・ナンダーナ、ゴッザール・・・・・・」
恐怖に彩られた顔でひれふす男達に、
玉座のすぐ横にいた仮面の男から鋭い声が飛んだ。
「『綿密で完璧な作戦だから失敗はない』
・・・貴様ら・・・こんな言葉を何度ほざいた？」
「でっ・・・でも・・・天王様！ 我々もがんばったんだな！」
「むっ・・・向こうの戦力が予想外だったんでござるぅぅ！！」
震える部下二人は、必死で言い訳しようとする・・・しかし・・・
「見苦しい！！！」
それは、仮面の男 ――― タングス天王の怒りに油を注いだに過ぎなかった。
「・・・貴様らには・・・死ぬこと以上の苦しみを与えてやろう・・・」
冷酷なる気を纏い、彼は一歩前に出る。
つられるように、ゴッザール、ナンダーナの顔が歪む。
「誰か！ こいつらを拷問室へ連れて行け！！」
タングス天王がパチンッと指を鳴らす。
同時に、物陰から無数のオ・ターク戦闘員が飛び出し、二人を拘束した。
「いっ！ いやなんだなぁぁぁ！！！
マンガが読めないなんていやなんだなぁぁぁ！！！
哲学書と六法全書に囲まれて一週間も過ごすなんて
いやなんだなぁぁぁぁぁ！！！！」
「いっ！ いやでござるぅぅぅ！！！
ＭＨＫ放送しか映らないテレビで
一週間も過ごすなんていやでござるぅぅぅ！！！
一週間もアニメが見られなきゃ、
拙者は死ぬでござるよぉぉぉ！！！！」
魂の叫びと取って間違いない絶叫を残し、二人は闇の中へ消えた。
「同志よ・・・」
椅子に深く腰をかけていた男が、不意に口を開いた。
「ん？ どうした、大志・・・」
「奴等を拘束するのは良いが、次の作戦はどうするつもりなのだ？
現場指揮が居なくては不便であろう？」
しかし、問い掛けられたほうの男は不敵に笑う。
「今回は・・・俺が直接手を下す・・・」
「ほぅ・・・」
玉座の男も妖しげに笑った。
「作戦を聞かせてもらおうか・・・」
「何も無いさ。基本に戻って正面からぶつかり、
コミックパワーを集めてやるだけだ。
一部隊ほどオ・ターク戦闘員を貸してくれればそれでいい。」
「なるほど、基本に返るのもまた良い事だ。」
「場所はオタクの聖地、秋葉原。
コミレンジャー達を呼び出すには打って付けの地だ。
あそこで奴等を沈めてやるさ。まぁ、楽しみにしていてくれ・・・・・・
おっと、あれをやる必要が出るかもしれないから、
保険として一人分、お前のコミックパワーを分けてくれ。
あの人物の対策用に・・・」
「ふむ・・・まいぶらざぁ、ついにあの力を使うのか。」
玉座の男は満足そうな表情を浮かべ、光沢のある深緑色の髪をかき揚げた。
「くくく・・・朗報を期待しているぞ、まい同志。勝利は我等が手の内に。」
タングス天王はその言葉に軽く頷くと、マントを翻し、闇に溶け込んでいった。
――――――とある日曜日 ―――――
「ちょっとちょっと猪名川さん！？ 聞いてた話と違うじゃない！！」
とある街の一角に、瑞希の金切り声が響いた。
「なん・・・瑞希っちゃん、駅を出るなりどうしたんや？」
「どうもこうも無いわよ！ 『みんなで買い物に行くからついてこない』って
言われたからあたしはついて来たのよ！？」
「せやから、買い物やろ？ これは。」
「ぐっ・・・確かにそうだけど、こんなのインチキよ！
こんなオタクしかいないような街、あたしはぜ～っっったいに行きませんから！」
とりあえず言うことだけ言うと、瑞希は回れ右をして、改札のほうに向かおうとした。
だがしかし・・・ここに瑞希をこのまま逃がすようなメンツはいない。
くいっ・・・
即座に誰かが彼女の袖を捕まえる。
「あの・・・彩ちゃん・・・？」
「高瀬さん・・・食わず嫌いは・・・あまり良くないと思います。」
「だから、あたしは食わず嫌いなわけじゃなくて・・・」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず・・・とも言います・・・行ってみたら・・・
案外いいところは見つけられるはずですよ・・・」
「だから・・・ね・・・あたしは・・・」
くいっ・・・くいっ・・・
「彩ちゃん・・・」
くいっ・・・くいっ・・・
「うぅ・・・」
彩ちゃん必殺“おねだりモード”
これに逆らえる人間がいるだろうか？
いや、そんな者などいない。いるはずが無い。
そして・・・
きゅっ・・・
彩ちゃんのおねだりに陥落しかかっている瑞希に、さらに追い討ちをかける者がいた。
「あ・・・あさひちゃん・・・？」
「あ、あの・・・み、瑞希さん・・・その、い、一緒に
・・・ピーチのグッズが見たいんですけど・・・その・・・」
「えっと・・・だからね・・・」
くいっ・・・くいっ・・・
きゅっ・・・
「あ～！ 判った！ 行くから！ だから２人ともその目はやめてぇぇ・・・」
彩とあさひの輝く瞳に見つめられ、ついに瑞希は落ちた・・・
「よっしゃ☆ 瑞希っちゃんが納得した所で、秋葉原の街にレッツゴーや♪
ふふふふふ～、いたいけな瑞希っちゃんをしっかりとオタク色に染め抜くとしよか♪」
「やっぱりいやぁぁぁぁ・・・」
由宇に引きずられるように連れられていく瑞希は、滝の如く涙を流していた。
「ここやな・・・ふっふっふ～♪」
街の一角 ――――
由宇の含み笑いと共に、一行は足を止めた。
「な～に妖しい笑いをもらしてるのよ、パンダ！」
「ここが目的の地や！ ふふふふふ・・・今日はこの店でピーチグッズ福袋の
限定発売をやるんや。今日の第一目標はそれを手に入れることや♪」
「ふ、福袋・・・ほしいですけど・・・でも・・・せ、せいりけんが
・・・こんなに遅かったらもう手に入らないんじゃぁ・・・」
「あまいで、あさＰ！ こういったモンは裏ルートを使ってでも
ちゃんと入手しとくもんや！ ほいっ、あさＰの分。」
「あ・・・ど、ども♪」
整理券を胸に抱きしめ、あさひは、にぱっと微笑んだ。
由宇はその横に回りこみ、まだポーっとしているあさひの肩に手をまわす。
「さぁて、それでは福袋を手にするために！ いざ出陣やぁ♪♪」
そして、胸を張ってショップの入り口をくぐっていった。
「はぁ・・・猪名川さんの性格って、
どこかがあたしの壊れたほうの知り合いに似てるのよねぇ・・・」
未だに周りのノリについていけて無い瑞希は、ひとつ、ため息をつく。
そんな瑞希に、残っていた彩が声をかけた。
「クスッ・・・でも、羽目を外すことも・・・たまにはいいことだと思います・・・
高瀬さんも・・・今日くらいは・・・オタクの振りをしてみられてはいかがですか？」
「振り・・・ねぇ・・・まぁ、アイツが選んだ世界でもあるし、
一度隅々まで見ておくのもいいかもね・・・よし、行こうか彩ちゃん。」
「・・・はい・・・」
こうして瑞希と彩も由宇達の後を追った。
しばらくして、５人が店を出てきたときには、
全員が件の福袋を手にしていたのであった。
「いや～、こうして今日ほしかったモンが全部手に入ると気持ちええなぁ♪」
「あ、あたしも、前からほしかったもの、いっぱい買えて嬉しいです♪」
どのくらい店を回っただろうか・・・
両手いっぱいに荷物を抱えた由宇とあさひはご満悦だった。
「ふみゅぅぅ・・・つかれたぁぁ・・・」
「・・・お二人とも・・・随分と買われましたね・・・」
「あのさぁ・・・そろそろ帰らない？」
「何を言うんや瑞希っちゃん、
うちはまだ“まるちゃん”の本やグッズを買うてへん。」
「あ、あの、あ、あたしも、まだ見たいものが・・・」
「ま・・・まだ買うの・・・？ お金・・・大丈夫なわけ・・・？？」
「え、えと・・・あたしは・・・もう少し余裕が・・・」
「不可能を可能にする！ これが同人魂や！！ な♪ 詠美ちゃん♪」
「ななな何であたしに振るのよ！
あたしはパンダになんかビタ一文ださないわよ！！」
「はぁ・・・判ったわ、猪名川さん、あさひちゃん・・・
今日だけは枯れるまで付き合ってあげる・・・彩ちゃんもいいよね？」
「はい・・・私は構いません。」
結局、何を言っても無駄だと悟ったのだろう。
今日だけはオタクになりきろうと思った手前も有り、瑞希はため息混じりに頷いた。
彩も、コクコクと首を振る。
「さ～すが彩りんに瑞希っちゃん♪ 胸と同じで心もでかい♪」
「なっ！ 何よそれ！」
「あ、あの、お、お二人とも、わがまま言ってごめんなさい。」
「・・・桜井さん・・・気に・・・なさらないで下さい。」
彼女達は、そんな冗談交じりの会話を続けつつ、今日何件目かになろうという
アニメショップのドアをくぐろうとした。
ドサッ・・・ドサドサッ・・・
「きゃーーーっ！！！」
突然、何かがたくさん倒れるような音が聞こえ、続けざまに悲鳴が響く。
「！・・・何！？」
反射的に身構え、あたりを見回す５人。
そこには、確実に異変が起こっていた。
先程まで普通に道を行き交っていた人々が、
何かの魔法にかかったかのようにばたばたと倒れていく・・・
倒れた体からは淡い光が発せられ、
それは何かに吸い取られているような軌跡を描いていた。
「これ・・・この光・・・コミックパワー・・・」
額に汗を浮かべ、呟く彩。
「・・・と言うことは・・・や。」
「まず間違いなく・・・ハラジロシスターズ・・・」
由宇と瑞希も、顔を見合わせて頷く。
同時にあさひが、自分の眼鏡に指を当て、
付属されているスキャニング・システムを作動させた。
「います！！ この角の先の同人誌専門店前！ オ・ターク戦闘員です！！」
あさひのそんな言葉を皮切りに、
５人は手近なコインロッカーに今日の戦利品を叩き込む。
「ふみゅぅぅ！！ 変身よ変身！
み～んなまとめてお魚のえさにしてやるんだからぁぁ！！」
人目を避けて、すばやくコミレンジャーに変身した彼女達は、
オ・ターク達が居ると思われる方向へと駆け出した。
「おお～☆ アホがようさんあばれとるで。」
イエローの言葉が示す通り、
その場所は無数のオ・ターク戦闘員達で溢れかえっていた。
そして、彼らの中心あたりには何かしらの機械・・・
光のようなものがそれに集まっている様子から、
機械はコミックパワー収集装置と見て間違いは無かった。
「え・・・えと・・・あれを壊せば皆さん元通りになりそうですね。」
「そうね・・・でも、いくら雑魚でもこれだけ居ると少し厄介ね・・・」
「ピンク・・・レッド・・・大丈夫・・・です・・・作戦はあります。」
少々不安げな顔をした二人に対し、ブラックが一言声をかけた。
「わかった。ほな、作戦とやらを聞こか。」
「ぶ、ブラックさん、おねがいします。」
「まずはあの数・・・よね？」
「はい・・・レッドが言うように・・・あの数を何とかしないといけません・・・。」
他の面々は、それぞれ自分の武器を構えると、
言葉を発したブラックの方へ顔を向ける。
「まず初めに・・・」
だが、彼女が作戦を告げようとしたその時・・・
「あ～じれったいじれったい！ 作戦なんかいらないわ。
このちょお女帝なあたしがかれ～に決めてあげる！」
グリーンが突如そう叫び、戦闘員達が集まる大通りに飛び出した。
「待たんかい！ 大バカ！！」
グリーンを慌てて呼び止めるイエローであったが、
「うっさいわねパンダ！
こんなのは作戦とか何とかじゃなくて殺ったもん勝ちよ！
同人世界とお・な・じ☆ それっ『コピボン大増殺』！！！」
彼女のほうは全くその言葉に耳を貸さず、いつもの如くド派手に必殺技を撃ち放つ。
しかし、その瞳が驚愕で見開かれるのに、さして時間は要らなかった。
「「「ウイッ！」」」
オ・ターク戦闘員の数人が声を発したかと思うと、その場に居た５０人程度の
戦闘員全員が瞬きをする間に回避行動を取っていたのだ。
グリーンの放った技は無常にもその全てが躱され、結局、自分達の位置を相手
に知らせるだけの代物となってしまう。
「むき～っ！ へぼへぼのくせに！ へぼへぼのくせに！！
ちょ～なまいきぃぃ！！ こうなったら何回でも撃ってやるんだからぁぁ！！！」
「え～い！ 錯乱しおってからに！ ちーとは落ち着かんかい！！」
「うるさいうるさ～い！！ パンダは黙ってなさいよ！
こんなんじゃあ、あたしのプライドがゆるさないんだからぁ！！」
「こんの大バカぁぁ！！」
イエローは腕を力の限り振り下ろし・・・
ドガッ！！
だが、彼女がその腕を振り切る前に、随分と鈍い音がした。
「ほえ？」
何が起こったか判らず目を白黒させるイエロー
その前には、いつの間にかブラックが立っている
「・・・・・・チームの規律を乱す人は・・・滅殺です・・・」
そして、ブラックの足元には、大きなタンコブの出来たグリーンが転がっていた。
「ブラック・・・あんた、たまにやけど・・・やる事激しいな・・・」
「・・・今は・・・これが・・・一番良いと思いましたから・・・・・・」
「でも・・・他にもうちょっとやり方が・・・」
「ちがうでレッド。これが正論や。さてブラック、改めて作戦聞こか？」
「あの・・・もう・・・正面からぶつかるしかない・・・です・・・」
「はぁ・・・全部このアホのせいやな・・・しゃーない、いつもの如く
普通に暴れるとしよか。ピンク、大バカの事は頼んだで。」
「は、はいぃ！」
ピンクに気絶したグリーンを任せ、３人は戦闘体勢を整える。
「「「ウイッ！」」」
オ・ターク戦闘員の掛け声を合図として、
秋葉原での戦いの火蓋は切って落とされた。
――――――――――
「な・・・なんや！？」
「これって、どういうことよ！！」
「・・・いつもと・・・違う・・・・・・」
彼女達は困惑していた。
それは、戦いが始まってからあっという間の出来事だった。
オ・ターク戦闘員達が隊列を組み、隙の無いチームプレーで攻撃してきたのである。
その結果、３人は必殺技を撃つどころか満足な攻撃すら出来ず、
それぞれ孤立させられていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
レッドは肩で息をしながら周りを見渡す
１０人程だろうか・・・自分を囲む敵の姿が見える
ブラックも、イエローも、同じような状況に置かれている
奥に見える機械の周りには、それを守るように２０人くらいの戦闘員
「どういうことよ・・・」
彼女は再び、この言葉を口にした。
いつもなら、自分勝手に襲ってきて勝手にやられていくだけだった戦闘員が、
今日は違っていた。
完全なまでに統率が取れており、軍師でもいるかのように効果的に動いている。
「とにかく・・・なんとかしなくちゃ・・・」
“ミズキャ･ステッキ”をラケットから剣に切り替え、
レッドはゆっくりと呼吸を整えた。
しかし、頭の混乱は収まらない・・・
このあとどうしたら良いのか全く判らない・・・
戦闘員が再び自分に迫る
「くっ・・・」
レッドは唇を噛み締めた。
その時・・・
「皆さん！！ 機械の前にいる色違いの服を着た戦闘員３人を狙ってください！！
気になるデータが僅かに有りましたが、
彼らが指揮を取っていると見てほぼ間違いないです！！！」
力強いピンクの声があたりにこだました。
グリーンを介抱しつつも、敵のスキャンをしてくれていたのだろう
攻めて来た戦闘員の動きに、僅かばかりの動揺が現れる
それはまさに、ピンクのスキャンが正しいことの証明
レッドの顔には自然と笑みが浮かんだ。
「オッケー！ まかせてよ！！」
彼女は笑顔のままでピンクに応えると、居合抜きの構えを取り、
「必殺！ 風切りの太刀！！」
横一文字に剣を薙ぎ払った。
目の前にいた戦闘員が、真空波の直撃を受けて吹き飛ぶ
その穴を見逃さず、レッドは包囲網の外へと飛び出した
手の中の剣を、すばやくラケットに切り替える
目に入るのはもはや、色違いの服を着た３人の戦闘員のみ
一瞬、視界の端に、囲みを抜け必殺技の構えを取るイエローと、
光速移動を始めるブラックが映った
「いっけぇぇぇぇ！ ウインディ・スマッシュ！！！」
「往生しいや！ 猛虎！ 応！ 炎！ 弾！！！」
「・・・・・・シャドウ・ストライク・・・」
ガガガガガ！
ドォォォォン！
ドシュッ！
・・・・・・あたりに煙が立ち込める・・・
その煙が晴れたとき立っていたのはもちろん ―― コミレンジャー達だった。
「皆さん大丈夫ですか！？ ホントに、ホントに大丈夫ですか？
あたしが伝えたことに、足りないことは無かったですか！？」
心配そうにピンクが駆け寄ってきた。背中にはしっかりとグリーンを抱えて。
「大丈夫、何も無かったわよ。ありがと♪ ギリギリセーフだったわ。」
「ありがとう・・・ございます・・・」
レッドとブラックは、ピンクに向けて力の抜けた微笑みを見せる。
「あ・・・ホ、ホントに良かったです♪」
ピンクの方も、同じような笑顔を２人に返した。
「ふ・・・ふふふふふ・・・」
そんな和やかな雰囲気の横、誰かが怪しい笑い声を立てる。イエローだ。
彼女のギラギラと輝く瞳は、統率を失った戦闘員達を睨みつけている。
「ウ・・・ウイィィィ・・・」
「あんたらぁぁ！ よおもうちらに生意気な真似しおったなぁ！
あんたら全員うちの気が晴れるまでぼてくりかましたるから覚悟しい！！！！！」
「ウ・・・ウイィィィィィ！！！！！（Ｔ＿Ｔ）」
まるで某球団が負けたのを見たときのように怒りの炎を纏った一人の猛虎が、
大地を蹴り、宙を舞った。
この瞬間より、オ・ターク戦闘員達は、
いつものやられキャラ以下の扱いを受けたのだった。
「はぁ・・・イエロー、いつも破滅的に元気よね・・・」
「・・・分けてほしいくらい・・・すごい・・・ですよね・・・・・・」
「ふみゅぅぅぅ・・・あたしの見せ場ぁ・・・」
ピンクの歌う“癒しの歌”で傷を治してもらいつつ、
レッド、ブラック、グリーンの３人は、
仲間が目の前で行っている破壊活動をぼーっと眺めていた。
それからしばらく経ち、歌が途切れる。
「はい、治りました。もう大丈夫です♪」
傷も疲れも全て吹き飛んだ３人を前にして、ピンクは屈託無く笑った。
時を同じくして、イエローの方も意気揚々と引き上げてくる。
「いやー、やっぱ、むしゃくしゃした時には
戦闘員をタコ殴りにするのが一番ええなぁ。」
「・・・ぱんだ・・・自分がかなり怖いこと言ってるのに気付いてない・・・」
「・・・元気よね・・・ホントに破滅的に・・・」
「・・・私・・・やっぱり・・・こんな元気・・・要りません・・・・・・」
「あは・・・あはははは・・・・・・」
「なんや、みんな、そないな辛気臭い顔して、
うちらの大勝利やねんからもっと喜ばな損やで。」
彼女のストレス解消の煽りを食らって、町にどれだけ被害が出たかを
４人は暗に非難しているつもりだったが、当の本人は全く意に介してないようだ。
「イエロー・・・これからはもう少し周りを見てね・・・」
「周り？ ああ、そう言えばこの馬鹿でかい機械が残っとったな。」
「・・・・・・もういい・・・とりあえずこれ壊して報告に帰ろ・・・」
「「「了解・・・」」」
イエロー以外の４人は大きくため息をつき、機械に向けて武器を構える。
イエローは訝しげな顔をしたが、訳は後で聞けばいいと思ったのか、
無言のまま、４人にならって機械と向き合った。
しかし、彼女達は行動をおこせなかった。
シュン・・・という小さな音がしたかと思うと、目の前の機械が、
神隠しにあったかのように消えてしまったのである。
「えっ！？」
「・・・そんな・・・」
茫然と立ち尽くすコミレンジャー達
そんな中、ピンクは肩を震わせていた。
そして、悔しげに呟く・・・
「あ、あの時の気になったスキャン結果・・・一瞬だけだったから違うと思ってたのに
・・・ほ、本当にいたんだ・・・牧村博士の作ったこのシステムをかいくぐって
・・・・・・あたしが・・・もっと気をつけていたなら・・・」
「こっ・・・コパンダＭＫ‐Ⅱ！ それってどういうことよ！！」
呟きか聞こえたのか、あせったように騒ぐグリーン
しかし彼女はグリーンの言葉に応えず、虚空にキッと強い視線を送った。
「いるのは判っています・・・オ・ターク戦闘員達を影から操っていた者、
つまり、今日の本当の指揮官は貴方ですね
・・・出てきなさい！ タングス天王！！！」
『フッ・・・まさか気付かれていたとはな・・・
さすがはコミレンジャーと言ったところか・・・』
虚空より何者かがピンクの声に応える。
そして、その者は、音も無く彼女達の前に降り立った。
細身の長剣を帯刀し
簡素なブレスアーマーと漆黒のマントに身を包み
素顔を銀色の仮面で覆った男・・・
「タングス・・・天王・・・」