同人戦隊コミレンジャー第9話（中編）
それは、そう――伝説であった。
世間がバブルで沸き返り、しかし少し先見の目を持つものであればそれが間もなく崩壊するであろうことが判った――そんな時代だった。
委託コーナーの一角に置かれたその同人誌に、誰が目を付けたのであろうか？
「じゃまんが」という名のサークルが作ったその同人誌は、複数の作家によるアニメのアンソロジー集であった。
作品レベルはどれも高かったが、その中に一際異彩を放つ漫画がひとつあった。
その作者が、カルト的伝説を産むことになった同人漫画家『ほほめす』であった。
噂は口コミで広がり、まるで蝶が花に集うかのように――そんな美しいものでもないが――人々は委託コーナーに集まりそして列を作った。
その列を見て、当時のこみっくパーティー代表ヨネヤンはこう言い残している。
「落ちた菓子に群がる蟻どもみたいだな」
委託コーナーが異例の混乱に陥る中、件の同人誌は昼前には完売した。
そして、サークル「じゃまんが」は 次回のこみパで、通りに面した条件の好いブースを得ることになる。
しかし、ほほめすの漫画は「じゃまんが」の出す同人に二度と出ることはなかった・・・
ほほめすの絵は、再び委託コーナーの中にあった。
今では中堅で知られる同人ゲームサークル「インパレス」の同人ゲームにおいて、原画兼グラフィッカーとして参加していたのだ。
彼はゲームの中でプロ顔負けのグラフィックを披露し、やはり委託コーナーに列を生じさせた。
ほほめすの名は、常に委託コーナーの中にあった。けっして自分の名で同人誌を出すことはなく、
そのほとんどが 何処かのサークルの出す本の中の一作品であった。
作風は幅広く、パロディからオリジナル、時には社会への痛烈な批判をも漫画とし、発表した。
そして興味深いことに、彼が参加したサークルはそのほとんどが今や壁際常連の大手サークルとなっていることである。
ほほめすが参加したサークルは大手になる！
それは、ジンクスとして人々の間に定着し、そして多くのサークルが彼を求めた。
だが、ほほめす本人は その所在、素性を明らかにせず、
パソコン通信上の一利用者に身をやつし正体を掴ませないままであった。
・・・そして登場から一年後、彼は同人界から 忽然と姿を消した。・・・
夭折しただとかプロとなり暇がなくなったのだとか、相変わらず噂だけは流れ続けたが、
ほほめすは再び登場することはなく、その存在は謎のまま闇に消えていったのであった・・・。
〜 民○書房刊 YUJI著「同人界の５３伝説」より抜粋 〜
由宇 「この同人誌が偽物やて？」
彩 「・・・」
南 「ええ、確かに 絵柄は非常に酷似していますが ほほめすさんが描かれたものではありません。」
由宇と彩の二人の訴える目線に対し、南ははっきりと 断言した。
由宇 「せやけど なんでそないに断言できるんや 牧やん？確かに話や絵柄が違うのかもしれへんが
ひょっとしたら ほほめす先生の新作なのかもしれへんやないか」
南 「それは―――」
澤田 「知っているからよ」
由宇の質問に対し 南の代わりに澤田司令が答える。その表情は まだ暗い・・・。
澤田 「・・・私達は 彼がマンガを描かない事を知っている・・・そして 彼の作品に そんなモノは含まれていない・・・だからよ。」
ガタッ・・・
そして 司令は席から立ちあがった。 立ち上がった拍子に 僅かに左によろけながら。
瑞希 「司令 大丈夫ですか？ なんだか・・・」
澤田 「あなた達の 今回の任務はその原稿が誰によって書かれたものかを暴いて ハラジロシスターズの陰謀を阻止すること。わかったわね？」
瑞希 「え？あっ、了解です」
思わず 司令の安否を気遣かおうとする 瑞希
だが 司令の言葉によって その動きも遮られた。
澤田 「私はこれから 出版側の会議に出席しないと行けないから・・・南 後のことはお願いね」
南 「あっ・・・」
そういい残すと そのまま重い足取りで 部屋方出て行く澤田司令
・・・・・・・・・・・・・・・
あさひ「あ、あの、司令 大丈夫でしょうか？」
瑞希 「うん、なんだか元気がなかったみたいだし・・・」
詠美 「そうなの？ 私は いつもと変わらないように見えたけど？」
南 「・・・」
鈴香 「南さん。 もし よろしければ あとは私が一人で 説明致ししますが・・・」
南 「・・・・・・え？ ええ、では お願い致しますね♪ 鈴香さん」
鈴香 「はい まかせてください」
南 「では 皆さん 私もこれで、 みなさん、頑張ってくださいね（ペコ）」
そして 南もまた みんなに軽く一礼をしたあと そのまま 澤田司令の後を追って 出て行くのであった・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
鈴香 「・・・と 以上の用に贋同人誌が持ち込まれるのは個人の、それも小さなお店が多いようです。おそらく
チェーン展開しているお店とかでは、贋物だということがばれやすいからでしょう」
由宇 「ふん。アイツラにしては用意周到やないか」
彩 「（こくこくっ）」
そして 澤田司令たちの 出て行ったあとも、再び作戦タイムは続いていた。
司令の事は気になるものの 自分達では どうすることもできそうにない。
私たちにできることといえば 一刻も早く事件を解決して 司令を安心させることなのだ。
・・・彼女達はそう 考えていたのである。
鈴香 「・・・それに贋作の一部は すでにネットオークションにまで出回っているそうですね」
あさひ「？あ、あの、ネ、ネットオークション・・・て？」
彩 「インターネットの・・・競売です」
由宇 「・・・ちゅうことは ○フーとか ○○とかの あれか？」
鈴香 「そうです。贋同人誌の噂はネットではもう一種のブームで、多くの人が関心を持っています。急激に出回り出しているとはいえ、
その流通量は微々たるものですから自然とプレミアもついて、へたをすると本物よりも高価な値段で取り引きされているそうです」
由宇 「ちっ！所謂レア物ってわけかい」
由宇が 苦々しい表情で舌をならす。鈴香や彩やあさひも みんな同じような表情を浮かべていた
瑞希 「・・・・・・」
詠美 「・・・・・・」
あさひ 「？？ど、どうかされたのですか？瑞希さん 詠美さん？？」
そんな中、瑞希と詠美の二人は 腕組みをしたまま ずっと黙り込んだままになっていた。
不思議に思った あさひは 二人に問い掛けた。
瑞希 「う〜ん、・・・ちょっと わからないのよね」
詠美 「そうよ、そうよ 全然 わからないのよっ！」
あさひ 「ほ、ほぇ？」
由宇 「なんや 珍しいなぁ 二人の気が同じこと言うやなんて。で なにがわからないんや？」
詠美 「決まってるじゃない！ なんで ホホメスの本よりも この詠美ちゃんさまの本が安く売られなくちゃいけないのよっ？ こんなの絶対おかしいわよ！？」
由宇 「・・・」
スパーン！
詠美 「ふみゅ〜！？」
詠美の質問に対し 予想通り由宇のハリセンが 突っ込まれた。
由宇 「ま、こいつの言う事なら こんなもんか（汗） ほな 瑞希っちゃん♪
一体 なにがおかしいと思ったんや？」
瑞希 「うん・・・贋作とパロディって どこが違うのかな？」
由宇 「・・・」
スパーン！
瑞希 「痛ったぁぁ〜・・・（涙）」
由宇 「いやいやいや・・・まさか アンタまでボケかますとは 思わへんかったわ（ーー；）」
瑞希 「べ、べつに私はボケたつもりじゃ・・・」
詠美 「なになに？アンタ リーダーのくせに そんなことも知らないの〜♪
しかたないわね〜 じゃあ この私が教えてあげる♪」
と 威勢良く 名乗り出たのは 先程まで頭を抑えていた詠美ちゃん様
詠美 「いいこと？ まず パロディっていうのは 人気のマンガを真似て描いたマンガのことで〜、
ほんでもって 贋作って言うのは 人気のマンガを真似て描いたものなのよ〜♪」
瑞希 「・・・それって 同じことじゃないの？」
詠美 「・・・・・・ふみゅ？」
・・・部屋の中に 乾いた笑いと溜息がこだまする・・・
由宇 「（溜息）ま、仕方がない ウチがちゃんと説明したるわ。」
と 混乱状況に陥った詠美にかわり 今度は由宇が前に出た。
由宇「ええか？ つまり パロディちゅうのはな・・・言ってみれば愛や！キャラに対する熱き萌えをペンに込めっ！ 白い原稿用紙に向って縦横無人に表現することなんや！」
瑞希 「・・・えっと・・・猪名川さん？ 私が聞きたいのは そういうことじゃなくて（汗）」
由宇 「まだ わからんのかいっ！？ せやから パロディちゅうのは 萌える魂によって生み出されたーーー」
瑞希 「いえ だからぁ〜 私が聞きたいのはーーー」
くいくいっ
瑞希 「・・・長谷部さん？」
彩 「瑞希さん・・・贋作は その作品を真似る事が目的で・・・パロディは・・・作品の揶揄のこと・・・です。」
瑞希 「・・・えっと つまり目的が違うということなのかな？」
彩 （こくこくっ）
瑞希「そっか そうだったんだ・・・ありがとう 長谷部さん♪」
彩 （ニコッ♪）
ようやく 自分の満足できる答えを聞いた瑞希は 微笑みながら 彩にもう一度問い掛けた。
瑞希 「・・・ということは 結局 絵やストーリなんかは 違いがないというわけね？」
彩 「（ふるふる）・・・贋作には・・・思いがありません。」
瑞希 「えっ？思いが・・・ない？」
由宇 「そや！ええこと言うたで 彩っち！ 贋作の目的は結局『相手の作品を真似る』ことや！
確かに上手な作品をそっくりそのまま真似る事ができれば 一見すごい本が完成する・・・
せやけど そこには 書き手自身の思いや愛など全くあらへん！
キャラへの愛とか 読者に伝えたいこととか・・・そういった 創作者の魂は全然存在せんのや！」
詠美 「？ふみゅ？別に いいんじゃないの？ そんなものなくても それで読者が買ってくれるんなら・・・」
ドバシィィィッ！！！
詠美 「ふみゅ〜〜！？」バタッ・・・
あさひ「！？え、詠美さん！？」
これまでに ない程の強烈な由宇のハリセンつっこみ！
まともにを喰らった 詠美ちゃん様は そのままソファーに倒れこんだ。
由宇 「せやけど ホンマのパロディやオマージュは違うっ！
たとえ どんなにヘタレに見える絵でも その作品やキャラに対する愛情が仰山つまっとる！
それこそがホンマの同人誌・・・いやウチラがつくるべき『創作物』なんやっ！」
こくこくっ
由宇の 激しき弁論に 彩も激しく頷いた。 そんな二人の姿には二人のマンガに賭ける情熱が 激しく現れていた・・・
詠美 「ふん！ なに おかしなことを言ってのよ！ 同人誌は売れることが重要なことじゃないのよっ！
私のような巧い作家の真似をして それで上手なマンガを描けるなら！ それの一体どこが悪いっていうのよっ！？」」
だが さっきまで 倒れていた詠美が立ち上がって 由宇に激しく反論する。
そして そんな彼女の姿にもまた マンガに賭ける 別の思いが込められているように見えた。
由宇 「ドアホッ 確かに上手な人の真似ることは 上達するためには大切なことや！ だが目的と手段を間違えたらあかんっ！」
詠美 「間違ってないわよっ！ 同人誌はより多くの客に売りさばくこと でしょ？」
由宇 「こ、この大庭か詠美〜っ マダそないなことをーー！！」
あさひ「あ、あのケケケケンカはその・・・はぅ〜〜（涙）」
詠美 「泣かす泣かす泣かす〜 今日こそ泣かす〜！」
由宇 「ほぉ〜 やれるものなら やってみぃ！」
詠美 「ふみゅ〜〜〜！！」
・・・・・・・・・・
鈴香「・・・（コホン）で、では そろそろ話の本題に戻っても よろしいでしょうか？」
瑞希 「え、ええ 御願いいたします（汗）」
一連のドタバタが 収まった後 鈴香さんに問いに対し 瑞希は頭を下げながらそう答える。
・・・少し顔を赤らめているのは、 自分の性で話を脱線させたと感じているからのようです。
詠美 「でも いったいこれから わたし達は なにをすればいいのよ？ 鈴香さん」
由宇 「そうやで？贋作を売りつけてきた販売店のチェックやなんかは もうアンタラのほうで 調べはついとるんやろ？」
続いて鈴香さんにたづねて来たのは 先程までトラぶっていた二人。
・・・ちなみに彼女達の態度は変化なしです。（＾＾；）
鈴香 「ええ、もちろん 私たちの方でも 現在 同人本販売店は もとより ネットオークション中古販売店はもとより 通販関係など 販売関係全てに手を回して調べております。
おかげで こうして発行前の原稿を奪取することが出来たのですが、残念ながら これ以上の手がかりが見つからないのが現状なわけ でして・・・」
彩 「・・・八方塞がり・・・ですね」
・・・・・・・・・
・・・部屋のなかに 重い沈黙が充満する・・・
あさひ「あ、あの・・・えっと す、鈴香さん？」
鈴香 「あ、はい なんでしょうか？」
だが、そんな沈黙も 彼女の発言によって変えられた
あさひ「い、いいいいえその さ、探したのは その、販売関係だけ・・・ななのかな？っと」
鈴香「えっ？ ええ、そうですが？」
あさひ「あ、あの で、ではそのし、調べてなけでは・・・し、調べてみたほうが良いかな？と えとその、調べて無ければですが・・・その」
！？
由宇 「あさピー？ 調べるって 何所のことを言っとんのや！？」
あさひ「え？ あ、あああのえとその そそそそそれは・・・彼女の・・・」
一同 「彼女？？」
と おずおずとあさひが向いている方向に 皆も一斉に振り向いた。
・・・その視線の先には・・・
千紗「・・・にゃっ？？」
【中後編に続きます】
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