〜　プロローグ　〜

繁華街。
しかし一度裏路地へ入れば、表とは裏腹に静まり返っている。
表通りの喧騒が、何処か遠いところから聞こえて来るテレビの音のように思える。
野良犬の、残飯をあさる音すら聞こえて来ない。
静寂という言葉ですら、生易しい表現に思える。それほどまでに、裏路地は静まり返っていた。

「はぁはぁはぁはぁ……」

荒々しい息遣い。そして聞こえて来る、革靴のアスファルトを蹴りつける音。
その音が響いてなお、静寂は破られない。
追われているのだ。
深い闇、天高く上る太陽の光すら届かぬ地の底に佇む闇に。
追われているから、路地裏の静寂にですら脅えるのだ。

「はぁはぁはっ――！」

青いポリバケツの中身がぶちまけられ、
人影は、足をもつれさせ大きな音を立てて転んだ。
すえた臭いがあたりに広がる。
抱えていた茶色い封筒が腕からすり抜け、中身が四散する。書類だろうか――Ａ４の少し厚めの用紙。
裏なのか白紙の状態で、鉛筆書きで数値が書き込まれているだけだ。

「あ……うぅ」

うめきをもらしながら人影は立ちあがる。
その視線は、散らばった書類に釘付けとなっている。
よろめきつつも人影は書類を拾い上げようと地を這う。

その時だった。

「そろそろ諦めるでゴザルよー」

不意に、頭上から声が振って来た。

「む、無駄な抵抗は止めるんだな。も、もう逃げられないんだな……」

顔を上げなくても判る。目の前に、二人がいる。
そして奇怪な声をあげながら　周りを囲む人影達――それは、闇からの使者達であった。

「・・・うう・・・」

人影はやっとの思いで頭を上げる。そして彼らを見つめた。
逆光になって顔はよく見えない。だが、その特徴的な体つきは忘れようはずがない。

「……うう・・・」

搾り出すような声。悲鳴なのだろうか。
人影からこぼれ出る音は、後はかすれた空気が搾り出されるような音だけだった。

「さぁ　覚悟するでゴザルヨ」

二人の片割れ、細い体つきの方が言った。
逆光の中、彼の目には無気味に笑う二人の口元が見て取れた
……だが。


「覚悟するのは・・・あなた達のほうよっ！」

その二人の笑みは　彼女達の声によって　一瞬にして消え去っていた。
代わりに彼らの顔を現しているのは　恐怖と驚きの面構え。

「な、な、な・・・」
「お、お前達は　ななぜ居るんだな！？」

そして　その二人は　気がついた。　
自分達の更に背後の逆光の中に立つ　五つの人影に。

「た、助かりました・・・　皆さん」

そう呟いた彼・・・いや彼女の顔は　反対に安堵の表情に変わっていた。
なぜなら　彼女は　知っているからである。
目の前の二人が　闇からの使者ならば、彼女達は　その闇を打ち消す　光の戦士。

そうっ　彼女達の名は―---

「（バッ！）同人戦隊　コミレンジャー！！」

【前編に続く】

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