第１１話 友情のカタチ （エピローグ）
あらすじ
合宿生活２日目にして事件が起こった。
ハラジロシスターズの襲来。
最悪の事態だけは免れたものの、コミレンジャーに、
いや、コミックＺにとっても不可欠ともいえる１人の能力者を失うこととなった。
そして、彩と詠美の諍いに終止符は打たれるのか？
それぞれの友情とは・・・？
「はぁはぁはぁ・・・」
男の息遣いの荒さは普通ではなかった。
虎雄智は、いや、その時にはすでに戦いを知らぬ一青年の姿。
掛けられていたサングラスはどこかへ吹き飛んでいた。
そして、立ち上がることもなくその場に倒れ込んでしまった。
「和樹っ！」
そう叫びながら男の元に駆けつける少女たち。
少女たちは、その男の名を『和樹』と叫んだ。
しかし、そう叫ばざるを得なかった。
力果てた自分たちのコーチの姿は千堂和樹に瓜二つのコピーなのだから。
ガチャ
男が命を掛けてまで守り抜いた２人の少女がコテージから出て来た。
「ふぅ・・・やっと収まったみたいね」
「・・・はい」
額を手で拭うような仕草を見せる詠美。
そして、詠美とは対照的に彩は何事もなかったように前で手を組んでいた。
「で、でも、あのことはみんなには内緒だからね」
彩に抱きつくように泣いてしまった詠美。
恐怖に耐えられず、甘えてしまったことを他のメンバーに知らせないで欲しいと言葉に出した。
「・・・無事でよかったです」
が、彩にしてみれば言わずともそうしていただろう。
それが彩のやさしさであり、人間としての本能でもある。
わざわざ口にするほうが恥ずかしいものだ。
「ふふ〜ん。言ったでしょ、詠美ちゃんさまは最強だって」
「クス・・・そうでしたね」
涙の跡はないものの、少々ぎこちない詠美。
そんな詠美に対し、ただ微笑むだけの彩。
『お互いを理解し合う』そんな言葉に相応しい、まさに三者から見ても微笑ましい光景だった。
２人も声がするほうへと歩み寄っていった。
「あれ？どうしたの？」
「・・・どうかしたんですか？」
そして、２人は残りのメンバーと合流する。
その声に反応した瑞希、由宇、あさひだったが、２人に向けられた視線は、笑みはおろか、悲観じみていた。
覗き込むようにして事実に触れる。
そこにはよく知っている男に似た男が倒れていた。
「か、和樹！？」
「和樹・・・さん？」
衝撃のあまりに息を飲む２人。
「ちょ、ちょっと、冗談やめなさいよね！」
瑞希は男の体を揺らし、叫んだ。
「やだ、ほんとーに死んじゃったの！？」
「アホッ！そんなはずないやろ！！和樹、あんまりしつこいとどついたるぞ！」
詠美の失言に思わずカッとなる由宇。
「あぁ・・・か、和樹さん。ウ、ウソって言ってください」
「・・・和樹さん、目、覚ましてください」
そしてあさひと彩の掛け声にも男は反応しなかった。
詠美の失言に否定しながらも、現実は残酷なものだった。
「あ、あれは、どういうことなんダナ？」
「あ、あの男は何者でゴザルか？」
動揺の色を隠せないゴッザールとナンダーナ。
タングスは相変わらす固く口を結び、彼女たちの行為を見つづけていた。
「あ、あ、あ・・・い、嫌ぁぁぁーーー！！！！」
耐え切れず、突然悲鳴を上げる瑞希。
そして同時に瑞希の周りに空気が渦を作り出す。
いや、それは空気ではないのかもしれない。
得体の知れぬ特別なものなのかもしれない
そして、更に皆を震え上がらせることが続いた。
それはコミパレッドへと姿を変える瑞希の姿だった。
「あんた達・・・あんた達！」
怒りをあらわにするレッド。
赤い戦闘服に赤く見える鬣。そして、泣き崩れたか、怒りかで赤い瞳。
「そ、そんなバカななんダナ！」
「コ、コミックパワーは吸い取ったはずでゴザル！」
理屈では考えられない事だった。
その眼光に怯え、恐怖するゴッザールとナンダーナ。
「絶対に許さない！」
怒りは頂点へ達した。
２人はというと、もはや怯えにとどまらず、恐怖で身じろいでいた。
わなわなと差し出された瑞希の左の掌からは光球が現れた。
その成分は何であるかは瑞希でもわからない。
ただぼんやりと鈍い光を帯びていた。
そして、利き腕には１本のステッキの姿があった。
コミレンジャー・コミパレッド専用武器『ミズキャ・ステッキ』。
状況・判断に応じて自由自在に姿を変える。
それ以前に、コミックパワーを吸い取られたはずのコミレンジャーに武器を召喚する力など無きに等しかった。
が、瑞希は驚きをあらわにすることなく、この場をどう判断したのか、ステッキをテニスラケットに姿を変えていた。
ただ普通のラケットとは違うのは、特別なパワーに満ちていることこと。
さらには、そのラケットまでもが光を帯びていたこと。
普通ではなかった。瑞希もボールもラケットも。
「くっ、こんな力が・・・諸君さらばだ！」
苦い声を漏らし、タングスは瞬間移動によりこの地から去った。
「ま、ま、待ってほしんダナ！」
「わ、我々を見捨てるでゴザルか！？」
２人は、消え去ってしまった己の上官を憾むように空に目をやった。
「ちっ！いっっけぇぇぇぇ！！」
強烈なスマッシュを放つ。
逃げ去ったタングスに不愉快さを憶えながらも、光球は２人を目掛けていた。
ゴォォォォォ・・・・・・
撃ち放った光球は、空気をかき乱すようにうねり、轟音を轟かせた。
「ぐぁ！」
「がはっ！」
並大抵じゃないその動きは、２人をあっさりと捉えるのだった。
そして、ゴッザールとナンダーナもまた、結果はどうあれこの地を後にした。
「はぁはぁ・・・ひ、１人逃した」
我に戻ったレッドは、再び１人の少女の姿へと戻っていった。
「見事やったで。正直、パワーでは勝てると思っとたけど、見直したわ」
由宇が笑みを交え言った。
「ま、一応合格ってとこかしら」
「さ、さすがです。ほんと」
「・・・凄かったです」
言葉はそれぞれだったが、誰もがリーダーである瑞希を見直すのだった。
「でも、和樹・・・死んじゃった・・・」
照れる仕草を見せることなく、瑞希は再び男のそばへと歩み寄るのだった。
「・・・心配ありません」
「へっ？」
彩が不意な発言に目を丸くする瑞希。
「・・・ただ気を失ってるだけみたいです」
「ほ、本当なの？」
「はい」
てっきり死を確信していた瑞希は己を恥じた。
「いやぁ〜瑞希っちゃんの愛のパワー炸裂ってとこやな〜」
由宇が意地悪そうに言った。
八重歯を覗かす、あの満面の笑みで。
「ちょ、ちょっと猪名川さん！？」
瑞希は頬を赤らせらながら由宇の一言を否定する。
が、その仕草から説得力は伝わってはこない。
倒れつづける男を尻目に、少女たちは勝利と乙女心に話を湧き上がらせていた。
「南さん、どういうことなんですか！？」
厳しい口調は瑞希。
四回目の報告。コミレンジャーの５人は南教授を責めたてていた。
彼女たちが腹を立てるには理由がある。
「どうして、和樹がこんなとこにいるんですか！？」
そう呼ばれる男は襖の向こうで寝息を立てていた。
教官であり恩人であり、そしてなにより、彼女たちには特別な異性。
戦いの場で力尽きた男を彼女たちは自らの手でコテージへと運んだ。
「それは・・・その・・・あのですね」
必死に言葉を選ぶ南。
コミレンジャーにはそんな南の映像は見られなかった。
ただ聞こえるのは、追い詰められ四苦八苦な南の震える声だった。
「コーチが和樹なら、そう言ってくれてもよかったとちゃう？」
当然すぎることを由宇が口にした。
「そのことなんですけど・・・」
由宇の言葉も耳に入っていないのか、南はただ口をごもつかせていた。
ガラッ
不意に襖が開く。
「和樹！」
男が顔を覗かせた。
「か、和樹、もういいの？」
心配そうに瑞希が聞いた。
「ほんま、人さわがせなやっちゃなぁ」
「い、一応心配してやったわよ」
「・・・無事でよかったです」
「ほ、ほんと、よ、よかったです」
「あぁ。みんなには迷惑をかけたな」
皆も男を気に掛けていた。男はそれに１人１人に顔を見るように答えた。
「南教授。俺からみんなに話をするよ」
男の視線はハチに向けられる。
「えっ？で、でも・・・」
ハッと男の声に我に戻る南。
だが、男が決心したことに言葉を返せずにいた。
「まず、俺は千堂和樹じゃない」
南の返答も待たず、男は真実を口にし始めた。
「俺は千堂和樹のクローンだ」
更に男は言葉を重ねた。
コミレンジャーの５人は、ただただ呆気に取られるだけだった。
驚きを通り越し、息を飲むことさえ忘れる。
ただ目を丸くして、男の言葉を聞いていた。
「その通りよ」
「・・・澤田司令！」
無線からの声色が変わり、我に戻るコミレンジャー。
「司令、申し訳ございません」
男は軽く会釈をし、毅然と言った。
「いいのよ。あなたはよくやってくれたわ。この際だからハッキリさせたほうがいいみたいね」
と、澤田司令が言葉を返す。
彼女たちは真剣な眼差しで無線に耳を傾けていた。
その様子はコミックＺ本部のスクリーンでも伺えた。
「彼は『シドウ・カズミ』として、コミックＺ創設に携わってもらってたの。
そして、彼自身も同人界に出て、『ハラシロシスターズ』をマークしてもらってたわ」
澤田司令が淡々と真実を明かす。
「聞いたことないなぁ」
「どーせ弱小サークルでしょ？」
由宇と詠美は同人界での『シドウ・カズミ』の存在を思い出そうとした。
「そう、画力は欠けるわね」
コミック業界の編集長でもある澤田司令が、同人作家の一面のシドウ・カズミに厳しい判定をくだす。
そんな彼女らのやりとりを見て、シドウは居心地の悪さを感じると同時に、咳払いするのだった。
「わかりました・・・で、和樹はどこにいるんです？」
一頻りシドウ、そして澤田司令が物語る真実を聞いた瑞希が口を開いた。
「わざわざクローンまで造るぐらいなら、和樹をコミックＺに入れたほうがええんとちゃうか？」
重ねて由宇も尋ねた。
それは、彼女たちが一番気になることで、話の中で触れられていないことだった。
「そのことね・・・さっきも言ったようにシドウくんは画力に欠けるわ。
だから、和樹くんには同人界に残ってもらってるわ」
「たっ、たったそれだけ？」
それは、マンガの才能に満ちた千堂和樹を戦いの場に出すことはしたくない。
と、瑞希にとってはあまりに安易すぎる答えだった。
「そうよ。彼にはマンガを描いてもらわなくちゃ」
「ちょいまち！ウチはどうでもええんかい！？」
「パンダはともかく、わたしをのけ者にするわけ！？」
「やんやて！？もっぺん言ってみ！」
「何度でも言ってやるわよ！へっぽこサークル〜」
澤田司令が言った『彼には』という言葉に敏感に反応する２人。
「わたし・・・は・・・」
彩もまた、誰にも聞こえないように悲しそうな声を漏らす。
マンガを描きつづけている３人にとってみれば、
業界の一人者でもある澤田司令に認められることはこれ以上になく冥利に尽きるもの。
だがそれは、１人を抜かして、偽ったことと知っているはずだったが、
他人が栄光を受けているのを目の当たりにすると、ついつい我を忘れさせることとなった。
「んん！というわけで、和樹くんのことは心配しないで」
澤田司令はコミレンジャーとしての彼女らではなく、
サークル同士のいがみ合いに成りかねないを察し、咳払いを交える。
「はい」
概ね現状を理解し、瑞希が答えた。
「それより、シドウくんはどうするの？」
話は移り、澤田司令がもう１人の千堂和樹に尋ねた。
「はい。もう戦えなくなってしまった以上、コミックＺに残ることはできません。
この山のふもとの村で『四堂和己』として暮らしていきます」
淡々と言葉を吐く。
男の名はこの時から『四堂和己』と命名された。
「あなたさえよければコミックＺに戻れるけど？」
「せっかくのお誘いですけど・・・」
「わかったわ。じゃ、気持ちが変わったらいつでも帰ってきていいから」
「はい」
創設以前、そして、この日まで行動を共にしてきた２人の会話が終わった。
和己の意志も強く、澤田司令も強引に引き止めようとはしなかった。
お互いを理解し合っている仲だからこそ、これ以上の言葉は必要なかった。
「それじゃ、あなた達は明日にでも帰ってくるのよ」
澤田司令はそう言い残し、無線を閉じた。
「そういうわけだ。今日でお別れだな」
部屋には和己とコミレンジャーの５人だけ。
今さっきまで鳴り響いていた無線は切られ、誰一人として口を開こうとはしなかった。
誰もが男の顔を眺め、真実を確認する。
静まり返っていた。
取り替えられた裸電球の淡いオレンジ色が部屋を照らす。
チリチリと、熱そうな音が聞こえてきそうなほど、静かに時間が流れていた。
「・・・ほんま、そっくりやなぁ」
忽然沈黙を破ったのは由宇。
そしてその言葉は、あまりに意味深であった。
「あんた、ウチの男にならへんか？」
「はっ！？」
由宇の意味不明な発言に、眉を潜める和己。
「あぁ〜パンダ！ちょ〜こすい！ちょ〜ちょ〜こすい！」
こういうことに関しては、詠美の回転は早い。
「黙っとき！こういうもんは早い者勝ちや！」
口元が緩みはじめた由宇がいた。
「な、なに言ってるの猪名川さん！？」
たまらず声を上げる瑞希。
「瑞希っちゃんには゛本物゛がおるやろ！」
「そ、そういうことじゃなくてぇ〜！」
訳わからない。
「わ、わたしも、和己さんでいいです」
「・・・わたし、負けませんから」
そして、それまで場を眺めていたあさひと彩までもが参戦。
和樹には語られることはないだろう。
「なんでこうなるわけぇ〜」
もはや瑞希の叫びは皆に届かなかった。
裸電球が激しく揺れる。
そんなこんなで合宿は終了した。
―――――翌朝
まるで昨日のことは何もなかったように青々とした空。
そんなことを確信付けるような暗い空だった。
おもむろにサングラスを拾い上げ、山を見る。そして、駆け回った野道を見る。
そして、命の危機に立たせ､持ち主を失った大砲を見つめ、
最後に２日だけ寝泊りし、命を張って守った我が家を見る。
サングラスを掛け直した和己の姿がいた。
昨夜、自らとどめを刺すようにはしゃぎ回ったコミレンジャー。
誰一人として見送りをする者はいなかった。
静かに去ろう。そう考え、和己は一睡もしないまま山を後にするつもりだった。
そんな矢先。
「・・・おはようございます」
背後から女性の声が聞こえた。
「瑞希か。寝てたんじゃなかったのか？」
「朝食の支度がありますから」
彼女たちもまた出発が早いようだった。
そのことを姿は変わったとはいえ、丁寧に答える瑞希。
仲間の絆を信じること。そして、最後まで諦めないこと。
姿はどうであれ、和己は立派に指導者を務めた。
そう思ってのことだった。
「もう行っちゃうんですか？」
「皆起きてきたら、出られなくなるだろ？」
茶化すように和己は言った。
「あたし、昨日のこと何にも覚えてないんですけど、
無意識のうちに武器を召喚してたみたいなんですけど」
瑞希は尋ね口調で聞いた。
「それほど大切に思っている人がいるんじゃないのかい？俺が言うのも可笑しいけど」
「そんな・・・」
思わず笑みが交じる和己。
瑞希もまた、顔をしかめる。
「そういえば、源ノ助の姿が見当たらないですね」
昨日の事が起こるまでは、常に男の傍を歩きついてきた一匹の野ザル。
瑞希は和己を思い止ませるように質問を続けた。
「俺がコミックパワーを使い切ったせいで、野生に戻っていったんだろう」
和己は、虎雄智であった頃を懐かしむように言った。
瑞希は、「そうですか」と答えったきり、詮索しようとはしなかった。
「じゃ、俺、そろそろ行くから」
そう言い残し、つま先を向ける和己。
「今度遊びに行きますから」
「あぁ。楽しみにしてるよ」
男は振り返ることなく答え、山を降りていった。
後ろ姿を見届ける瑞希。
まるで子どもになってしまったような小さな後ろ姿を、
更に小さくなるまで見届けた。
ふと数日前に約束したことがあったのを思い出す。
『みんなの個性を理解し、しっかりと手綱を握る』
「・・・がんばろ」
そう自分に言い聞かせ、山小屋へ戻っていった。
こうして合宿生活は幕を閉じた。
１人の指導者は、１人の少女に希望を託す。
少女もまた、自分に課せられた指名を再認識する。
詠美と彩の２人の少女も蟠りをはらし、あさひも自分がすべきことを見出しつつあった。
それを見てきた由宇も、改めて仲間の大切さを知ることとなった。
短い期間とはいえ、それ以上に貢献した和己。
彼が教えたことは、今度、彼女たちに大きな糧になるはずだろう。
───────シメキリオトス城
「瑞希にあんな力があるなんて・・・」
額に手をやり、不愉快さを晴らせないタングス。
「どうした、まい同志よ？」
「大・・・カリスマン！」
気を欠いていたため、己の失言に慌てるタングス。
「ふふ、２人の時は名前で構わんぞ、まいはにー。
ところで、我輩が外出している間に連中と会ったようではないか・・・？」
「・・・・・・」
目を反らすタングス。
怒りは見られないとはいえ、逃げ去ってきたことへ恥じていた。
「まぁよい。同士のしたことだ。大目に見よう。
だが、あまり連中に情を流されることには関心しないなぁ・・・まい同士」
「そんなこと・・・」
「くれぐれも、我々の計画に支障を来たすようなことは避けてくれたまえ」
「それぐらいわかっている・・・」
闇に支配された部屋で交わされた２人の会話。
人の思いの数だけ友情の形はある。
それが清いものでも、歪んだものであっても・・・。
第１１話 完
あとがき
以上、エピローグのリメイクでした。
全編を通して、やっと自分の伝えたい物が書けたような気がします。
ちょっとクサイ場面も少々ありますけど・・・。（笑）
これもまた全編に言えることなんですけど、細かいところまで目を行き届かすのに苦労しました。
本当の１１話、楽しんでいただけたら光栄です。
では、以上で１１話のリメイクでした。