第１１話 友情のカタチ （後編）
あらすじ
合宿に訪れたコミレンジャーは『虎雄智』と名乗るコーチと接触した。
眼力、実力とも兼ね備えた一流の指導者でありながら、名前以外のことは謎に包まれていた。
時間は流れ、コーチの指導がついに始まる。
それは同時に彼女たちにとっては耐えがたい試練の始まりでもある。
そんな最中、ハラシロシスターズの刺客が刻々迫っているのであった。
「引っかかることがあるんです」
「何がですか？」
合宿初夜の報告。そして、コーチの指導を受けての初めての報告。
ハチさんの前にコミレンジャーの５人だけが揃い、コーチと源ノ助と名づけられた野ザルは先に寝床に着いていた。
相手は南教授。
話題はコーチのことで持ちきりだった。
「牧やん、ぶっちゃけて言うけど、虎雄智って誰なんや？」
「もちろん皆さんのコーチですよ」
由宇の確信を突いた質問を南はそ知らぬ顔で答えた。
「パンダの言うことも一理あるわね。ちょ〜怪しいもん」
皆の気にすること、それは、言動はもとよりその出で立ちにもあった。
コミレンジャーというには程遠い姿でありながら、コミックパワーの使い手でもあるコーチ。
それは彼女らには不可解なことだった。
「で、でも、ち、ちゃんとわたしたちのコーチもしてくれてます」
あさひは昼間のコーチとの話を思い浮かべていた。
「あの人に・・・似てます・・・」
「なに言ってるのよ！あんなヘンなやつどこにいるっていうのよ！」
「またや」
その場を冷やりとやせる彩の言葉に、またしても詠美が反発的な言葉を浴びせた。
「詠美ちゃん、おしおき決定です」
「ふみゅぅ〜そんなぁ〜」
茶化した南の言葉により、一瞬凍りついた場もすぐに解かされてしまった。
「長谷部さん。やっぱ、和樹？」
先ほどから１人もの思いにふけていた瑞希が口を開いた。
そしてその言葉は、雑然とする場を静ませるには十分すぎた。
それに彩は縦に首を揺らし、さらに場を冷ややかなものにした。
「和樹がか？」
「か、和樹さんが？」
腑に落ちない様子の由宇とあさひ。
「ポチ・・・あたしのごはん食べたわね〜！ちょ〜ムカツク〜！！」
「アホッ！でも、ホンマに和樹やったら、最近、顔見いへんのもわかるな。
瑞希っちゃんにゾッコンみたいやし」
「なっ、なに言ってるのよ。猪名川さん！」
もしもコーチの正体が千堂和樹だとしても彼女たちには何ら問題はない。
むしろ歓迎ムードさえ感じられ、場は笑い事に変わっていった。
「なに喋ってるの！早く寝なさい！明日も早いんでしょ！？」
突然、無線の声が強い口調になる。
声の主は澤田司令。虎雄智を呼んだ張本人。
彼女に聞くのがベストなのだが・・・そんなことは出来るはずもなかった。
「はい」と返事だけを返し、通信は切れた。
―――――コミックＺ本部
メインモニターにコミレンジャーの姿が途絶えてから数秒。
今は作戦スケジュールと、近辺の監視カメラからの映像が映し出されていた。
「どうして無線切っちゃったんですかぁ？」
声を切り出したのは塚本千紗。
コミックＺ最年少のオペレーター要員でもあった。
耳に当てられていたインカムを外し、彼女にしては珍しくやや強い口調で尋ねた。
「まだ知られたくないからよ」
毅然と答えるのは澤田指令。
創設者であり、統制者でもある彼女。
絶対的な権利を持つ彼女に疑問を投げつける千紗も、今回ばかりはかなり腑に落ちない様子だった。
「でも、もう気づかれてしまったんじゃ・・・？」
研究者である南もその場に立ち合わせていた。
「和樹くんのコピーだなんて言って、彼女たちになんて説明がつくの？」
澤田指令はどこを見るでもなく言った。
それは失った誰かを懐かしく思うような瞳だった。
「でも、千紗、ウソは嫌いです」
「そうね。ウソは良くないわね・・・」
「和樹さん・・・あなたは今、何をしているのかしら？」
南は『今』と言った。
一昔前、千堂和樹という少年はコミックＺに関わりのある人物だった。
それは『昔』であり、『今』ではない。
―――――同時刻
「へっくしょい！」
「風邪でゴザルか？」
「いや、誰かが噂をしているんだろう」
シメキリオトス城を後にしたタングスは、僕のゴッザールとナンダーナを引き連れ、
ある場所を目指していた。
「そんなことより、それは使えそうなのか？」
タングスは２人が担いでいるバカでかい筒を見つめる。
「あ、あの場所なら多分大丈夫なんダナ」
あの場所・・・それは、コミレンジャーが合宿地としている日本アルプス。
そして、そこは同時に莫大なコミックパワーの集う場所でもあった。
「まったく酷い話でゴザルよ。こんなのを造るために、拙者が折角集めたグッツを売ったのでゴザルからな」
「そ、それはおまえだけじゃないんダナ」
漆黒の黒鉄色の筒をまじまじと見つめ、思わずぼやきの混じるゴッザールとナンダーナ。
資金難なのか、資金を費やした彼たちにとっては迷惑この上ないものだった。
「そういうことはカリスマン様じきじきに談判するのだな」
そんな２人の戯言に呆れるタングス。
「そ、それだけは勘弁でゴザル・・・」
「カリスマン様には逆らえないんダナ・・・」
権力者であるカリスマンには絶対服従。
２人はいつものように、ただただ渋い表情を浮かべるだけだった。
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兵器説明：ブラックホール・イレイザー
先に惜しくも敗れ去ったＫ−タインの遺産でもある『Ｃ・Ｐ・Ｓシステム（コミックパワー吸収システム）』を応用した超高出力の荷粒子砲。
独自の大型ジェネレーターを始め、エネルギー供給回路、噴出・制御デバイスはハラシロシスターズの技術の結晶でもある。
その破壊力はコミレンジャーの『ハートフルブラスター』さえも超越する。
ただし、膨大なコミックパワーを必要とするため、特定の地形・場所でしか効果を得られず、汎用性は極めて低い。
―――――――――――――――――――――――――
―――――翌朝
「はぁはぁはぁ・・・」
コミレンジャーの５人は、昨日より更に荒い息遣いを上げていた。
コーチの本格的な指導が始まったためである。
「こんなことでバテてたら、午後はついてこれないぞ！」
日も昇らぬうちに起こされ、ロードワークと筋トレ。
そして今は、源ノ助を山中に走らせ、５人がそれを捕らえる・・・コーチの案であった。
縦横無尽に走り回る源ノ助、もとい、コーチの意思は５人が捕らえられるわけもなく、
オーバーワークになっていた。
「お前達はまず、基礎体力をつけなければならないからな。詠美とあさひ、特にお前達だ！」
メガホンを口に当てたコーチが怒鳴っていた。
「はぁ・・・はぁ・・・な、なにえらそーなこと言って！」
「はぁはぁ・・・わ、わたしたち、お、怒られちゃってますね」
それを耳にした２人。詠美は反感を覚え、あさひは面目なさそうな声を漏らしていた。
それは２人だけではなく、他のメンバーまでもが愚痴をこぼし始めた。
「・・・絶対捕まえられないと思うんですけど」
肩で呼吸しながら彩が口を開いた。
さすがの彩でも、その表情は決して楽ではないことを物語っていた。
「・・・・・・」
ピタッと足が止まる５人。
人の意思を簡単に感知できるほど人間は便利ではないことを悟った。
そして、白い目がコーチに向けられる。
「あっ・・・そろそろメシにするか」
そんなふざけたコーチに、更に腹を立てるコミレンジャーだった。
それはまさに朝食のあるべき姿だった。
味噌汁に卵焼きに納豆、夕べから拵えていたのか、山中に生えていた山菜のおひたし、そして白いご飯が食卓に並べられていた。
「んん〜やっぱ瑞希の作ったメシはうまいな〜」
当然のことながら炊事係は瑞希。そんな瑞希の作った食事に舌鼓を打つコーチだった。
「・・・・・・」
立ち上る湯気を目の前にして、なぜかメンバーは俯いていた。
「なんだみんな食べないのか？そんなことだと、スタミナつかないぞ」
「・・・・・・」
彼女たちの気も知らず、ひたすら朝食をかきこむコーチ。
「ん〜卵焼きうまぁ〜」
「あ〜ごちゃごちゃうっさいやっちゃなぁ！」
人一倍気の立っていた由宇がついに怒りを露にした。
「ちょ〜ムカムカ〜！」
ほぼ同時に詠美も憎悪を口にする。
「うぅ・・・作ってて気持ち悪くなっちゃった・・・」
「だ、大丈夫ですか？」
それが彼女たちが箸をつけようしない理由だった。
激しい運動の後に食事を出され、箸が進むほうがおかしい
瑞希に至っては、卵の焼かれる匂いに苛まれていた。
「・・・死ねばいいのに」
ボソッと彩までもが腹のうちを語った。
「キッーキッー！」
そんなコーチとコミレンジャーの間の重苦しい空気に割り込んできたのは源ノ助だった。
彼に限って休息を与えられず、山中をパトロールさせていた。
反抗する素振りを見せてはコーチが強力な念で抑えつける。
そんな源ノ助をみて不憫に思うコミレンジャーだった。
「敵が来たって！？よし、みんないくぞ！！」
源ノ助の言葉を通訳し、５人に伝えた。
それは、ハラシロシスターズの刺客が目の前まで来ているということだった。
「・・・・・・」
だが、威勢のいい者は誰一人いなかった。
疲労困憊。それが今の彼女たちに相応しい言葉だった。
「・・・そうか。もし、もう一度あの技を使って君たちの体力を回復させたとしても、君たちは戦ってはくれないだろう」
おもむろに立ち上がり、独り言のように話しだした。
「君たちのためにと思っていたことは裏目にでてしまった。
結果、君たちの気持ちの面でも傷つけてしまった・・・すまなかった」
自らの愚行を謝罪するコーチ。そう言って、右手が空を舞った。
そして風が起こる。５人はもうビックリした表情はなく、ただコーチのしたいことがわからず、５人はコーチに目を凝らしていた。
「俺が出来るのはここまでだ。心の傷まで癒せるのは、自分の心の傷を認められる強い人間だ」
コーチはあさひと目を合わせ、部屋を去っていった。
何かを物語っていたかのようなその視線にあさひは勇気づけられた。
コーチの伝えたかったこと。それは、心に傷を負った者は、人一倍その痛みを知ることができる・・・『役に立てない』とコンプレックスを持っているあさひには、その痛みを知ることも、癒すこともできる。そういうことだった。
「・・・・・・」
「どうしたの？」
考え込むあさひに瑞希は気を使わせた。
そして沈黙がはれ、あさひはゆっくりとメロディーを口ずさんだ。
あまりに唐突で、何が起こったかと目を丸くする４人。
しかしその歌声に秘められた『何か』は確かに感じとっていた。
「ふぅ・・・わたし、行きます」
一息ついたあと、あさひは晴れ晴れとした顔を覗かせ、表へ駆け出していった。
「なんや・・・？」
今だ呆気に取られたままの由宇が口を開いた。
「でも、なんだかスッキリしたような・・・」
「・・・はい」
続いて瑞希と彩も口を開いた。
「・・・あたしたちも行きましょ」
「・・・はい」
「おう！」
「・・・勝手にすれば〜」
あさひが想いを込めて奏でたメロディー、それは確かに皆に伝わった・・・かに見えた。
「どうせあのオタク２人でしょ？めんどくさい」
「・・・！？詠美、今、何言うた？」
「めんどくさいって言ったのよ。このパンダ！何度も言わせないでよ！」
「この・・・アホンダラ！」
そんな詠美の非情さに頭に血が上った由宇は詠美の胸倉を掴んでいた。
「・・・嫌な予感がします」
冷静に彩が言った。
事は急がねばならないと思った由宇は、苦い声を漏らし胸倉を離した。
「・・・とりあえず、あたしたちだけでも」
詠美の駄々は日常茶飯事。瑞希はそんな純情すぎる由宇を宥めるように言った。
去るように出て行ったコーチはすでに敵と見合わせていた。
相手は・・・
「お主、初目でゴザルな？」
「お、お前だけしかいないんダナ？」
独特な口癖を持った２人組みだった。
２人の顔ぶれに飽きれたのか、男はただ立ち尽くしていた。
「し、シカトするんじゃないんダナ！」
「侮辱でゴザルよ！」
いつまでも沈黙を保ったままのコーチに痺れを切らし始める２人。
それは、佐々木小次郎と宮元武蔵の巌流島の戦いのようだった。
「コーチ！」
向かい合う２組に女性の声が割り込んできた。
それは、あさひを先頭にしたコミレンジャーの４人だった。
いや、５人全員揃ってのコミレンジャーだとするならば、彼女たちは一市民にすぎない。
「ひ、久ぶりなんダナ」
メインのコミレンジャーが集うと一方的に因縁付けたようにナンダーナが言った。
「なんや・・・また『たて』と『よこ』かいな」
「う、ウルサイんダナ！」
由宇もまた、余裕の表情を浮かべ２人を貶した。
「精々粋がるといいでゴザル」
「き、今日は、ぼ、ボクたちの勝ちなんダナ」
不適な笑みを浮かべるゴッザールとナンダーナ。
「・・・もう１人います」
と、彩が２人の背後の大木を眺め言った。
「あぁ。手強いのがいるな」
と、コーチもまた前々から気づいていたのか、言葉を漏らした。
「ふふふ・・・流石だな・・・」
彩とコーチが見つめる先から声が聞こえた。
その声にハッとし、この場に立ち合わせた誰もが大木に目をやった。
そして、１人の男が大木から飛び降りて来た。
「不意打ちといきたかったが、見つかってしまったな」
その男の腕には大筒。軽く２ｍはありそうな黒鉄色のそれを、２人がかりやっとの物を１人で軽々と抱えていた。
そこから計り知るパワー、それは強靭なものだった。
「あんた、何者や！？」
身動ぎひとつなく由宇が男に尋問した。
「俺か？俺はタングス。カリスマン様に使える者だ」
「タングス・・・？ハラシロシスターズＮｏ，２の！？」
驚愕の事実に瑞希が動揺し始めた。
「な、なんやて！？」
瑞希の言う事実で一瞬にして顔色が変わる由宇。
さっきまで見せていた強気の姿はなかった。
その場に立ちすくんでいたのは、なにも瑞希と由宇だけではなく、彩もあさひも同じだった。
一変して緊迫した空気の中、源ノ助が吠え出した。
「キッキーウキ―？」
源ノ助が聞いた。「あのタングスって男は？」と
「お前は知らなくてもいいことだ」
だが、コーチは源ノ助の質問に答えようとはしなかった。
源ノ助が知る必要の無い理由・・・それは、このタングスと渡り合って、己の主はここで尽き果てるかもしれないということ。
短い付き合いとはいえ、源ノ助まで動揺させるわけにはいかない。
そして、いずれ別れが来るパートナーには先の質問に答える必要は無い。
それがコーチの優しさであり、厳しさであった。
「しかし、今日は俺の出番はない。今日はこいつのテストだ」
動揺を続ける４人の女性とコーチを尻目に、
ドスンと、鉄の塊が地を叩く鈍い音が鳴り響いた。
そして、更に砲身が伸び、左右のグリップが展開した。
中心にタングス、左右のグリップにはゴッザールとナンダーナがシフトした。
ブラックホール・イレイザーの発射体制が整った。
「・・・今のうちにあたしたちも変身よ！」
「おう！」
「は、はい！」
「・・・了解」
意を決した瑞希が声に皆が続いた。
何もしないで死ぬことだけはしたくない・・・それは覚悟でもあった。
「コミックパワーコスプレーション！」
４人の声が山中に木霊する。
「・・・へ、変身できない！？」
「どないして！？」
「へ、変ですね？」
「・・・失敗？」
首をかしげる４人。
それもそのはず、コミレンジャーへ変身できないのだから・・・。
「ふははは！無駄無駄でゴザルよ！！」
「おまえたちのエネルギーもすべて貰ってるんダナ！」
不敵な笑みがこぼれるゴッザールとナンダーナ。
ウィィィン ・・・ウィィィィン・・・・・・
そして、ブラックホール・イレイザーの不快な波動。
その唸りも相まって、この場をさらに窮地に追いやっていた。
「どうした！逃げないのか！？」
と、腰に手をやったタングスがやり場のない５人に声を送った。
「ま、まずい！ひとまず逃げるんだ！」
自分がもし、今攻撃を仕掛けたとしても、それは更に最悪な状況に落としかねない。
そう考え出したコーチは逃げ道を探り始めた。
「えっ！で、でも、どこに！？」
幾つもの災難が相まって、瑞希は混乱することを余儀なくされていた。
「あ、彩さんがいません！」
「なんやて？」
さっきまで姿を見せていた彩だったが、あさひがふと横を見ると姿を消していた。
さらに動揺の増す４人だった。
「・・・ここから離れたほうが・・・いいです」
彩は１人の女性の前にいた。
「この詠美ちゃんに指図するわけ！？嫌よ、めんどくさい！」
言葉の先には詠美。彩は、只ならぬ気配を感じて詠美を表へ連れ出そうとしていた。
「ここに居たら・・・死にます」
「なに？冗談言ってるわけ！？笑えないわよ！」
「お願いだから・・・」
いつまでも強情な詠美だったが、彩も負けじ粘った。
不幸は見たくない。それ一心だった。
「詠美ちゃんさまにお願いするなんて１００億光年早いのよ！」
「それ・・・長さの単位です」
「キーッばかにして！」
詠美のおバカに口出しした彩により、２人の嫌悪は強まりをみせた。
キュィィィン・・・キュィィィィン・・・・・・
表では、前にもましてブラックホール・イレイザーが低く重く、そして不快な唸りを響かせていた。
「な、なんとかならないの？」
変身も出来ずじまいの４人にとっては、それは生きた心地などするはずもなかった。
「だめだ！今攻撃をしかけたらそれこそアウトだ」
辺りは木々が散開し、山道は舗装工事など施されているわけもなく、散々なありさま。
ブラックホール・イレイザーも一触即発の事態だった。
「コ､コミレンジャーもこれで終わりなんダナ」
「ここでおさらばでゴザルよ」
ブゥゥンと、一段と低い唸り声を上げる。
それはチャージ完了の証。
「打てっ！」
タングスが発射を命じる。
ブゥゥン・・・バシュッッッッ！
まずは熱風。そして、青白い光が辺りを包み込む。
ついにハラジロシスターズの切り札ともいえるブラックホール・イレイザーが放たれた。
しかし・・・
「お、お、お、重たいんダナーッ！」
「せ、せ、せ、制御できないでゴザルッ！」
あまりの衝撃に耐え切れない様子の２人。
手を外していたのか、タングスは慌ててグリップを握り戻す。
だがタングスの力を持ったとしても、狙いを修正することはできなかった。
砲身がぶれたために、エネルギー波はコテージを目掛けていた
「きゃぁぁぁぁ！」
「キッッーーー！」
少女３人と、一匹のサルは青白い光の中で非鳴を上げるだけだった。
そして、虎雄智はというと・・・
「まずい！」
と、言葉を吐き捨て、コテージの前に立つ。
光より早く・・・すなわち瞬間移動をやってのけた。
一部の者にしか不可能とされる瞬間移動。
しかもこの状況下で、その行為は誰もを震撼させるものだった。
ゴォォォォォォ・・・・・・
向かってくる光に仁王立ちするコーチ。
身じろぎひとつしないその姿、光に浮かぶシルエットは勇者というに相応しかった。
「コミックパワー解放！シールド全開！！」
そして、極限までパワーを引き出し、光の壁がコテージを覆った。
バチッ！・・・バチッ！・・・バチッ！・・・バチッ！
光と光がぶつかり合い、弾きあう。
一段と眩い光が辺りを包んだ。
ガタッ！ガタッ！ガタッ！
「な、なんなのよぉ！この揺れ！？」
詠美は表で起こっている事実を知るよしもなく、慌てふためいていた。
コテージの窓からはこの上ないほどの眩い光が漏れ、そしてその揺れは、今にも吹き飛ばされそうなものだった。
「だから離れたほうが・・・いいて・・・」
『何か』を予感した彩もまた、想像以上の事態にしどろもどろになっていた。
「わ、わかったわよ！表に出ればいいんでしょ！」
「今、外のほうが・・・危険」
「どっちなのよ！」
もはや冷静な判断ができていない詠美。
いや、この場を冷静にやり過ごす人間のほうがおかしかった。
ガタン！
「きゃぁぁ！」
一段と大きい揺れに非鳴を上げる詠美。
そして、その揺れにより部屋の蛍光灯が詠美に向かって落ちて来た。
「・・・危ない！」
咄嗟に判断した彩は、普段では考えられない声と同時に詠美に目掛けて足を踏み出した。
ガシャン！
０コンマの救出劇。
「えっ？」
詠美は、彩の腕で抱きかかえられながら横たわるような格好で気を取り戻した。
「・・・あんた、わたしを庇ったの？」
詠美が現状を理解する。
己の身を垣間見ず、自分（詠美）の命を救ったということを。
その問に答えを出さない彩。
仲間を救うのは当たり前のこと。彩にとって愚問でしかなかった。
「な、なによけいなことしてくれるのよ！あんなの、あんなの・・・」
現状を理解しても尚、詠美は強がった。
「無理・・・しなくていいです」
と、彩はそんな詠美を察したのか、ぽつりと言葉した。
「ひくっ・・・ひくっ・・・うわぁ〜ん！」
そんな彩の気を利かせた言葉に、堰を切ったように泣き崩れる詠美だった。
か弱い少女が纏った『プライド』という名の鎧は姿を消し去っていた。
彩ももう言葉を掛けることはなく、ただ泣きじゃくる詠美を慰めた。
ゴォォォォォォォ・・・・・・
表では白煙が立ち込めていた。
コーチがブラックホール・イレイザーを弾き返していたからだ。
「はぁはぁ・・・クッ！姿が・・・ばれる・・・」
まだ晴れない白煙の中、コーチは満身創痍になりながら呟いていた。
パラ・・・パラ・・・パラ・・・・・・
塵が音を立てるはずなく地に落ちる。
辺り一帯に立ち込めていた白煙も幾分開け始めていた。
「や、やったでゴザルか？」
「アイツ、粉々なんダナ」
「コ――チッ！」
爆心地はいまだ白煙に包まれ、姿を現さないコーチ。
ハラシロシスターズの面々は勝利を確信し始め、
コミックＺの３人はただただ男の名を叫んだ。
序々に、少しずつシルエットを浮かびだした。
それは、日の光でされ遮られていた煙が立ち退かれていくということ。
だがコーチはまだ姿を現さない。
「ムフフフ･･･」と、不敵な笑みを浮かべるゴッザールとナンダーナに対し、
彼女たちは絶対的な不安と、奇跡を願う気持ちからで言葉を失っていた
もう一度姿を見せ、冗談の１つでも言って欲しいと心より願った。
そしてもう１人の男タングスは、勝利を確信するもなくただこの場を見つめた。
爆心地に大気を覗かす。
空は快晴。
そして、四つん這いに成りながらも、肩で息をするコーチの姿が彼らの前に現れた。
「バ、バカな！そ、そんなはずないダナ！」
「ち、直撃のはずでゴザル！」
一変して余裕の笑みが消える２人。
余裕が消えるどころか、そのコーチの底力に怯えさえもした。
それでもタングスは顔色ひとつ変えない。
「コ――チッ！！」
一斉に歓喜と安堵の声が上がったのは３人の少女
だがその姿、見るからに変わり果てていた。
服のほつれはまだしも、その肉体は鍛えられていないかのように華奢なものだった。
先程まで見せていた強靭さ、何人たりとも近づけさせないような気迫は感じられなかった。
近づき、その変貌した男の姿を目の当たりにした少女は１人の少年の面影と照らし合わすのだった。
見事ハラシスターズのブラック―ホール・イレイザーからの危機を防いだ虎雄智。
だがその代償はあまりに大きく、そして皆を驚愕させるものだった。
力を使い果たした能力者は１人の青年へ・・・
語られることのなかった真実もまた、刻々とあからさまになるのを待つ。
それを知った時、コミレンジャーは震撼する。
つづく
あとがき
以上、後編のリメイクでした。
今回はどちらかというと、激しいパートですね。
よって、戦闘まではいきませんが、それなりの演出効果を出さなければいけなかったんですけど・・・上手くいかないものです。（汗）
他の方にあれだけ偉そうに言いながらも、自分はこの程度のもの・・・反省。
それと、今回は妙に心理的な演出が多いですね。
特別意識したわけどもないんですけど、自分の性・・・ですかね？（笑）
では、それなりの評価であることを期待しつつ、次回のエピローグへ。