同人戦隊コミレンジャー外伝 ２nd.　〜突然の来訪者〜　　　　　第７章

　正対する二人。
　玲子のバンダナ、カリスマンのマントが風になびく。
　辺りに人影は見当たらない。異変に気付きすでに非難しているのだろう。


　―――何も遠慮は要らない。



「いくよ！」

　先に動いたのは玲子だ。

　掛け声と同時にダッシュし、一瞬にしてカリスマンとの間合いを詰める。

　おそらく常人には目で追うことも適わないであろう。
「むぅっ！？」

　予想以上のスピードだったのか、カリスマンは驚きの声を上げる。

　それと同時に、玲子の加速と体重を重ねた右の拳が唸りを上げてカリスマンの頭部を襲う！

　ガシィッ！

　骨と骨の軋む音。

　カリスマンは左腕でそれをなんとか受け止めたが、体勢が万全でなかったため、拳の威力に押されて思わずバランスを崩す。

　その隙を逃さず、玲子はキック、パンチの連打を浴びせる。
「それそれそれそれぇっ！」
　止むことのない連打の嵐。

　一つ一つの動きが円を描くような無駄のない軌跡を描き、幾重にも連なっていく。

　その様は、まるで洗練された舞いを見ているような錯覚さえ覚える。

「まだまだぁ！」
　さらに回転の速度を上げる玲子。

　これにはさしものカリスマンも捌ききれなくなったのか、徐々に玲子の攻撃がカリスマンを捉えていく。

「……ふん」
　カリスマンは小さく後ろに飛び退き距離をとると、なおも突進してくる玲子に合わせるように右腕を水平に薙ぐ。

　触れたものを切り裂くような鋭い手刀。

　しかし切り裂かれたのは玲子ではなく虚空だった。
「―――下か！？」

「遅いよ」
　横薙ぎの攻撃をしゃがむようにして避けた玲子は、そのまま体を回転させカリスマンの軸足に向けて鋭く足払いを放つ。

　カリスマンは咄嗟に重心をかける足を変え、避けようとする。

　しかし浮いた方の足を刈られ体が傾く。

　それは玲子の狙い通り。


「はあああっ！！」
　伸び上がろうとする足のエネルギーを加えた強烈なアッパーが、がら空きになったカリスマンの体に突き刺さる！

「―――ッ！！」
　ズンッという鈍い音と共に、カリスマンの体がくの字に曲がり宙に舞う。

　その後を追うように、玲子も地面を蹴り高く舞い上がる。

　そして両者が空中で交差する瞬間。

「せいっ！」

　玲子はくるりと前転し、カリスマンに踵を落とす。

　踵を喰らったカリスマンはそのまま地面に叩きつけられ、それにやや遅れて玲子は華麗に着地した。

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「ふぅ……」

　玲子は緊張の糸を少しだけ緩める。

　もちろんカリスマンへの警戒は怠らずに。

　そのカリスマンはというと、立ち込めた煙に遮られて姿は見えない。

　しかし彼はそこにいる。

　煙の中からビリビリと伝わる悪しき気配がそう玲子に告げていた。


　公園の中を強い風が駆け抜ける。

　舞い上がっていた土煙が風に乗り流されていく。

　それにつれ徐々に煙が晴れ、人の形をした影が見えてくる。

　そう。

　土煙の中心であった場所から浮かび上がったのは―――まるで何事もなかったかのように、服についた土埃を掃うカリスマンの姿。

　つい今しがたまで玲子の攻撃を受けていたことなど、その姿から感じ取ることはできなかった。

　しいて言えば服装が若干乱れているというだけで、攻撃によってダメージを受けた形跡はこれといって見当たらない。

「…………」

　玲子は冷静にその様子を見ている。

　が、それはあくまで外面の話。

　内面は驚きで満ちていた。

　実際、玲子はそれなりの手ごたえを感じていた。

　それを証明するかのように、彼女の両腕と足には打撃を放ったことによるわずかな痺れが残っている。

　しかし結果として表れたのは、自分の感覚が物語るものとは全く逆のものであった。

　―――確かにこの手で捉えたのに……あれが効いてないとでも言うの？。

　玲子は自らに問うようにじっと拳を見つめる。



「なるほど……」

　すでに土埃も掃い終え、顎に手を沿え首を捻るカリスマン。

　コキリという関節の鳴る小気味のいい音が聞こえる。

「速いな。スピードは申し分ない。体のキレもいい」
　淡々と感想を述べるカリスマン。
「ふふん、どう？　なかなかのもんでしょ？」
　カリスマンに認められたことで少しだけ気が晴れる玲子。

　自分への問いかけをひとまず置いて。

　しかし、それも一瞬の事。

「……だが、それだけだ。これでは吾輩の相手は務まらんよ、まいしすたー」
　玲子の眉がぴくりと動く。
「へぇ〜？　あれだけあたしの攻撃を食らったのにそんなこと言うんだ？」
「食らってやったからこそ言えるのだよ。貴様の放ったような単なる打撃など吾輩には通じん」

　あたしの打撃は通じない。

　そう断言された玲子は、またカチンときた。
「あれだけで判断されちゃ困るなぁ。あたし、まだ本気じゃないよ？」

「いや、十分だ。力の使い方もわからん弱者に用は無い」

「なっ――！？」

　本気じゃない、と言うのは単なる強がり。

　カリスマンという最大の敵を前に、手を抜くことなどできはしなかった。

　それなのに『弱者』だなんて―――。

「……その言葉、訂正させてあげる！」

　姿勢を低くして一気に駆け出す。

　最初の攻撃の時と同様の鋭い動きだ。

「無駄なことを……」
　カリスマンは少しも慌てず、真っ直ぐに突っ込んでくる玲子に対応するべく、組んでいた腕を解く。

　しかし次の瞬間、彼の視界から玲子の姿が消えた。

「……右か」

　カリスマンは玲子の姿を追うように右に体を向けるが、そこにはすでに玲子の残像が残るのみ。
「後ろ？」
　何とか玲子の動きを目で捉えていたカリスマンは、素早く体を反転する。

　だが、そこにあったのもやはり残像だった。


　玲子の持つスピードを最大限に発揮し繰り出される、敵の死角への高速移動。

　後にこの動きが、コミパダークの必殺技である『ダンスインザダーク』へと発展することになる。

　ただ、今の玲子にその意識は無いのだが。

「ほう、中々に味なマネをする」
　玲子の姿を追うことを止め、堂々とその場に仁王立ちするカリスマン。

　その姿からは、玲子が何をしようと無駄だというカリスマンの自信が滲み出ている。
「しかしチョロチョロと動き回っているだけではどうしようもないぞ？」

「――その通り！」

　頭上から迫り来る声。

　死角から死角へと移動を繰り返した玲子が最後に選択した場所、そこはカリスマンの頭上だった。

「くらえぇぇぇぇ！！」

　玲子の蹴りが、上を仰ぎ見たカリスマンに迫る。

　絶対に避けられないタイミング。

　玲子の足がカリスマンを捉える―――と思われたのだが。



「……狙いは良い。だが通じないと言った筈だ、力の無い攻撃は」

「うそ……でしょ？」

　信じられないと言った表情を見せる玲子。

　玲子の蹴りはカリスマンの右腕一本で止められていた。
「くっ！」
　カリスマンの腕の上に立つ形になった玲子は　、慌ててあわててそこから飛び退こうとする。

　が、それより先にカリスマンは玲子の足首を掴むと、まるで小枝を扱うかのように玲子の体を振り回し、放り投げた。

「きゃああああ！！」

　玲子の体は宙を舞い、公園内に立っていた木に叩きつけられることでようやくとまることができた。

「いったぁ〜……」
　背中から腰の辺りをさすりながら玲子はゆっくりと立ち上がる。
「……気は済んだか？」

「――っ！　まだまだぁ！」


　挑発とも取れる言葉に逆撫でされた玲子は、再びカリスマンへと向かっていく。

　しかし玲子の攻撃はことごとくかわされ、受け止められ、その度に反撃を受けてしまう。

　まさに一方的という言葉が当てはまる状況の下で、玲子の体は傷つき、消耗していった。

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「はぁ、はぁ、はぁ……」
　片膝を突き、肩で息をする。

　そんな玲子を、つまらなそうな視線を送るカリスマン。

「何度繰り返そうと、貴様が変わらなければ結果も変わらん。その程度の事に気付けんようなら、余興は終わりだ」


「…………」

　玲子は考えていた。

　どうすれば勝てる？

　ううん、その前にどうすれば『戦い』になるの？

　あたしが変わらなきゃっても……よくわかんないよ。

　……そういえばカリスマンが言ってたっけ、『力の使い方がわからない者』とかなんとか。

　『力』……たぶんコミックパワーのことだろうけど……あたしはコミックパワーのおかげで身体能力がアップしてるんだと思う。

　でも、それ以外の使い方って何？

　何かあったかな？

　…………。

　……。

　――あ！

　あった！

　あったよ！　今あたしパワー使ってる！

　ってことは、コミックパワーでこれができるんなら、もしかしてあんなこともできるかも……？



「よーし！」
　玲子は勢いよく立ち上がると、右腕を顔の前に掲げた。

　大きく一つ深呼吸をし、目を閉じる。

「イメージするのよ……強く、強く……あの時の同じように……」

　拳を握る手に力が入る。

　僅かに玲子を取り囲む空気が揺らぐ。

　揺らぎは徐々に大きくなり、ほのかに色づいて見える。

　あたかも玲子自身から発せられるオーラのように。

「よし……いける！」
　手ごたえを感じた玲子は、キッとカリスマンを見据えて。

「覚悟はいい、カリスマン！　これがあたしの『力』！」

「……期待しているよ、まいしすたー」
　余裕の表れなのか、口元が僅かに緩むカリスマン。

「んじゃ、期待に応えなきゃね！」

　何度も繰り返してきた玲子のダッシュ。

　その足は一直線にカリスマンへと向かっている。
「何かと思えばまた突進か……その行為は失望に値するぞ」

「それはどうかなー？」

　半ば呆れ顔のカリスマンに向かって、玲子は右の拳を振りかぶる。


　確かにここまでは今までと同じ。

　しかし、ただ一つだけ違う点があった。

　体に隠れ、見えなくなるまで大きく後ろに引かれた玲子の拳が―――燃えていた。


「はああっ！！」

「ぬぅっ！」

　玲子の繰り出した赤々と燃え盛る拳を、カリスマンは大きく飛び退くことでかわす。
「―――面白い！　それが貴様の描く力の形かっ！」

　カリスマンは初めて感情を表に出した声を張り上げた。

　その声には、どこか嬉しさ、楽しさといった類のものが入り混じっているようにも感じられた。

「まだまだぁ！　くらえっ！　なんちゃって闇払い！」
　玲子は地面を薙ぎ払うように腕を振る。

　拳から放たれた炎の波がカリスマン目掛けて地を這い突き進む。

「やったぁ、できたぁ☆」

「笑止！」

　その炎の波を、マントを翻し打ち消すカリスマン。

「これしきの炎で吾輩の身体を燃やせるとでも思ったか？」

「むぅ〜！　じゃあじゃあ、一つでダメならこれでどうっ！？」
　炎を宿した両の腕を交互に何度も振るう玲子。

　幾つもの赤い塊が、まるで怒れる荒波の如くカリスマンへと襲い掛かる。

　しかしカリスマンは、押し寄せる炎を次々とマントで消していく。
「いくら数を増やそうと吾輩には通じんよ、まいしす――」


　カリスマンは後に続けるべき言葉を失った。

　正面にいた筈の玲子の姿は、すでにそこには無かったのだ。


「吾輩としたことが炎に気を取られすぎたか！？　どこに消えた！？」

「――この距離ならかわせないでしょう？」

　不意に発せられた背後からの声に、カリスマンは素早く振り返る。

　そこには――手を伸ばせば届く距離に玲子は立っていた。

　全身を赤き炎で包みながら。

「き、貴様―――！？」

「燃えろぉぉぉぉぉっ！！」

　玲子は振り上げた両腕に全身の炎を集め、カリスマンに叩きつけた。

　天を突くような炎の柱が唸りを上げる。

「うおおおおおおおおお！！」



　カリスマンは荒ぶる業火にその身を包まれた―――。



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