コミレンジャー外伝　２nd.　〜突然の来訪者〜
第２章

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　市街地から少し離れた、山というには少し小さな小丘。

　そこに数百段はあろうかという長い石段がある。

　普段はほとんど人が通ることは無い、細い石段。

　その先には、何が祭られているのかはわからない小さな祠のある、木々に囲まれた空間があった。

　いつもは鳥のさえずりが聞こえる静かな空間。

　しかし１週間ほど前から、そこは２人の掛け声の響く訓練の場となっている。

「ホラホラ、もうバテちゃったの〜？」

「はぁ、はぁ･･････」

　前かがみになり両膝に手を乗せて体を支える翔には、玲子に言葉を返すことが出来ない。

「しょうがないなぁ。じゃ、ここできゅうけーい！」

「――ふぇ〜･･････」

　玲子の休憩宣言を聞き、翔は手足を投げ出し大の字になってその場に寝転がった。

　技術はもちろん、特に身体能力が優れているというわけでもない。

　加えてスタミナも無い彼は、いつもこうして訓練の途中でヘバッてしまうのだ。

　寝転がった翔の目に入ったのは、木々の隙間から見える青い空。

「･･････」

　不思議だ･･････。

　思い切り体を動かし全身くたくたなのに、妙に心はすっきりしている。

　こんなのいつ以来だろう？

　――いつ以来？

　あれ･･････？

「うわあああっ！？」

　頬に当たる突然の冷たい感触に、翔は驚いて飛び起きた。

「にゃははは☆　何ボーっとしてるのかな〜？」

　そのリアクションを見て満足げな玲子。

「ビックリしたよ、ったくもう。今の何？　こんなとこに自販機なんか無かったと思うけど？」

「ちがうよん♪　こんなこともあろうかと、何と今日は水筒持参なのだー！」

　得意げに水筒を掲げる玲子。

　ちなみに玲子も翔と同じメニューをこなしているが、こちらは全くと言っていいほど疲れが見えない。


　石段に腰をおろし、コポコポと紙コップに注ぐ玲子。

　水筒の中身はスポーツドリンクだったようだ。

「ほい♪」

「あ、ありがとう玲子さん」

　なみなみと注がれたコップを翔に渡すと、自分の分もなみなみと注いだ。

「ささ、ググーッといっちゃって☆」

「うん」

　玲子に促されるまま、翔は一気にドリンクを飲み干した。

「――ぷはぁ〜！　生き返る〜！」

「･･････」

　そんな翔を黙って見つめる玲子。

「ん？　どうしたの、玲子さん？」

　翔は、ふと自分が見つめられているのに気付いた。

「･･････特訓、楽しい？　辛くない？」

　ちょっと弱めの口調で訊ねる玲子。

　自分は体を動かすのが好きだし、強くならなければならない明確な理由がある。

　だからどんなにキツくても頑張れる。

　でも翔クンはどうなんだろう？

　そんな心配を玲子は抱いていたのだ。

　しかし翔の言葉がそれを一蹴する。

「そりゃま、確かにキツいけど･･････辛いってのとは違うかな？　体を動かすのは楽しいし。

それに何より、特訓のおかげで体が少しずつイメージ通りに動くようになってるのがわかるんだ！」

　翔はグッと拳を握った。

　彼なりに特訓の手応えを得ているようだ。

「･･････そっか♪」

　翔の言葉を聞いて安心した玲子はにっこり微笑んで。

「じゃ、そろそろ特訓再開！　ガンガン行くよ〜！」

「了解！」
　２人は立ち上がり、再び木々に囲まれた空間へと歩み入った。

　――数日後。

　駅の近くにある喫茶店。

　そこにある小さな円卓を囲み、４人がちょっと遅めの昼食を取っているときのこと。

「なんかさー、玲子ってば最近機嫌いいんじゃない？」

「そういえばそうだねぇ。妙に楽しそうだし。何かいいことでもあったの？」

　美穂とまゆが、ふとした疑問を投げかけてきた。

「へ？　い、いや〜、別に何も無いけど？」

　玲子はジュースの入ったグラスから伸びるストローを咥えつつ、何気なく２人から視線をそらす。

　そんな玲子の仕種を夕香は見逃さずに。

「･･････それは何かを隠している態度ですね」

「ぶっ･･････！　か、隠すってそんな、あたしが一体何隠してるってゆーのかなー？」

　玲子は一瞬噴出しそうになったのを堪えて否定する。

　状況は３対１、勢いづくとなかなか止められなくなるを玲子はよく知っていた。

　そして案の定。

「ほっほ〜う、隠し事ねぇ〜？」

「れ〜こぉ〜、キビキビ白状しちゃいなさ〜い♪」

「我慢は健康に悪いですよぉ〜」

　椅子に座りながらにじり寄る３人娘。

「えと、あの、その･･････あ、あはははは･･････」

　とりあえず笑ってみる。

「ふっふっふっふっふ･･････」

　笑い返された。

　失敗。

「う〜･･････」

　玲子があきらめようかと思ったそのとき。

「――な〜んてね♪　ホントは知ってるんだから」

「ふぇ？」

　美穂がニンマリと笑って元の場所へと戻っていく。

　ぽか〜んとした顔の玲子をよそに、まゆと夕香も元の場所へ戻り……。

「ボクたち見たんだよ。玲子と知らないコが一緒に長い階段上っていくのをね〜」

「え、うそ？」

「年下の男のコと２人きりで山の中へ･･････ああ、ついに禁断の世界への扉を開けてしまったのですね？」

「ちょ〜っと待った！　彼とはそんなんじゃないって！」

「まあ、『彼』ですって♪」

「玲子も隅に置けないよね〜」

「大丈夫！　ボクたち応援するよ！」

「だーかーらー！」

「ふふっ、テレないテレない♪」

「今度あたしたちにも紹介してよ〜」

「あーもうっ！　カンベンして〜！！」


　このあと玲子は今までの経緯を説明するも、なかなか信じてもらえない。

　結局３人娘が納得したのは、３０分に及ぶ玲子による力説の末のことだった。

「はぁ〜、なんか変につかれた〜･･････」

　ぐったりと肩を落とす玲子。

「も〜、最初っからそう言ってくれればよかったのに」

　だから違うって言ったでしょうに。

　と、ベタボケにツッコむ気力はイマイチ無いので、心の中で密かにツッコんでおくことにする。

「ところで玲子、その特訓って今日はないのですか？」

「え？　あ！　やっばー、約束の時間過ぎてんじゃん！？」

　腕時計をチラリと見て、脇に置いておいたバッグを持ち勢いよく立ち上がった。、

「ゴメン、あたし行かなきゃ。んじゃ、あとはよろしく〜☆」

　３人に手を振りながら軽い駆け足で席から離れていく。

　そして店員と一言交わし、玲子は店を出て例の場所へと向かった。

　円卓に残された３人娘。

「あとはよろしく･･････？　ボクたち、何をよろしくされたのかな？」

　小首ををかしげるまゆ。

「あ･･････」

　すると隣りで夕香が何かに気付いたのか、しまったという表情になった。

「ん？　どしたの夕香？」

「･･････やられましたわ」

「？　誰に？　何を？」

　まだ気付いていない美穂とまゆ。

　その２人の顔を夕香はゆっくりと見ながら。

「玲子にです･･････ここの代金払わずに逃げられました」

「あっ！」

「･･････すっかり忘れてた。玲子のやつぅ〜！」


　そのころ路上では。

「にゅふふふふ☆　精神的苦痛を味わされたんだから、このくらい慰謝料代わりだよね〜♪」

　後ろを振り返りながら小走りする玲子。

　すると。

　ガシッ！

　突然両肩を前から掴まれ、玲子の歩みが止まった。

「はれ？」

　何事かと思って前を向くと、そこには和樹の姿があった。

「おいおい、前を向いてないと危ないよ？　玲子ちゃん」

「あれ〜？　千堂クンじゃない！？　どしたのこんなところで〜？」

「俺？　俺は大学の帰りだけど」

「ふ〜ん、そなんだ･･････あ、ゴメン！　あたしちょっち急いでるんだ〜。それじゃね！」

　そう言うと、玲子は手を振りながら再び走り出した。

「･･････いっつも元気だねぇ、玲子ちゃんは」

　頭をポリポリと掻きながら、和樹も歩き出す。

　そしてしばらくすると、見慣れた３人組の女の子に出会った。

　３人は和樹の姿を確認するや否や。

「あーっ！　千堂クンだーっ！　ちょっと聞いてよーっ！」

「玲子ったら酷いんですよ〜」

「てゆーか千堂クン、今ヒマ？　ヒマだよね？　ボクたちの愚痴聞いてくんない？」

「あ、それいい！　こうなったら仕返しに暴露してやろっか！」

「キマリですね。ささ、立ち話もなんですし、こちらへどうぞ〜☆」

　夕香と美穂は和樹の手をそれぞれ掴んで引っ張り、まゆはかずきの背中を押していった。

「え？　ちょ、ちょっと･･････お〜い」

「まあまあまあ、これも人助けだと思って♪」

　こんな人助けはイヤである。

　ともあれ、本人の意思に関わらず３人の愚痴に付き合わされるハメになった和樹であった。

　ちなみに玲子と翔の関係についてはかなりの尾ヒレをつけて説明されたのは言うまでもない。

　タッタッタッタ･･････。

　石段を駆け上り、祠のある広場へと急ぐ玲子。

　約束の時間はとうに過ぎている。

　待ってるかな〜？

　きっと怒ってるだろうな〜。

　なんて言って謝ろうか？

　心持ち駆け上るスピードが増す。

　あと少しで階段を上りきる。

　そしてその勢いで最後の一段を踏み切りに飛び上がり、着地すると同時に。

「ごっめ〜ん！　おまたせ〜！」

　と言い、翔の姿を探す。

　――が、あたりを見回しても翔の姿は見当たらない。

「･･････あれ？」

　おかしいぞ？　まさか帰っちゃったとか？

　キョロキョロしながらとりあえず祠の方へと歩み寄る玲子。

　すると。

「こらーっ！！」

「うひゃあああっ！？」

　祠の影から翔が飛び出できた。

「あははははっ！　引っかかったね玲子さん！　送れてきたバツだよ〜♪」

「あ･･････や、やられた･･････？」

　やや遅れて状況を把握する玲子。

「あんまり玲子さんが遅いから、もう一人で基礎訓練終わらしちゃったよ〜」

「え？　うそ？　もしかして翔クンてばやる気満々？」

「そうだよ〜。なのに玲子さんたら遅れて来るんだもん。ひどいや」

　翔は頬を少し膨らませてみる。

「にゃはは〜、ゴメンゴメン☆　じゃあさ、キミのやる気に答えて今日から新しいメニュー入れよっか？」

「新しいメニュー？」

「そう！　あたしとの実践形式のスパーリングとか、どうかな〜？」

「――！」

　翔の顔に僅かな緊張が走る。

　そして、それはすぐに自信に満ちた微笑に変わる。

「よ〜し、望むところだ！」

「おっけ〜、そうこなくっちゃ☆　そいじゃ、ちょっと待ってね･･････」

　玲子はバッグの中をゴソゴソと探す。

　そして２組のグローブを取り出すと、一方を翔の方へほいっと投げ渡した。

「さ、それはめたら早速始めるよ！　体はあったまってる？」

「うん、大丈夫！」

　グローブをはめながら翔が答えた。

「――よし、準備ＯＫ！」

　翔はグローブをはめ終わり、両の拳をバスッと叩き合わせる。

　玲子の方もすでに準備は整っている。

「いいかい？　それじゃ始めるよ〜･･････」

　２人はゆっくり向かい合い、構えを取ると。

「レディ〜･･････ゴォ！」

　玲子のかけ声と共に駆け出した。


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