終章 終わりと始まり
絶体絶命なピンチを脱した玲子。
その活躍により黒服たちは全滅、残るは会長唯一人となった。
「…………」
部屋の隅で一部始終を見ていた会長は、ただ呆然とするばかりだ。
「さぁて会長さん、もう勝負はついたと思うけど、どうするのかな〜？」
圧倒的な力を見せつけ、息を切らすでもなく会長に問い掛けた玲子は、依然蒼きガッシュの姿のままだ。
その問い掛けを聞いた会長から出てきた言葉は、少々意外なものであった。
「どうするも何も、私の負け……完敗よ。全く、真紀子も凄い人材を見つけ出したものね……」
「へ？ 真紀子って、もしかして澤田司令のこと？」
「ええ、澤田真紀子よ……私と真紀子は、高校のときの同級生だったの」
「……司令の知り合いだったんだ」
「あの〜、一つ伺ってもよろしいですか？」
３人娘と仮面の男も下に降りてきており、今は玲子の側にいる。
「どうして司令のことを御存知なのに、カリスマンの側についたのです？」
「そうね……少し私の昔話に付き合ってくれるかしら……？」
会長は自嘲気味に笑うと、静かに語り始めた。
「――あの頃、私と真紀子は共にマンガを愛した友人だった。私は真紀子の描くマンガを読むのがいつも楽しみだったわ。私も一緒に描きたかったのだけど、父の企業を継ぐための勉強が忙しくて参加できなかった……。そして、真紀子と彼女の後輩の子が２人で同好会を作ったときにも、やはり参加できなかったの。それでも、私たちの地元で即売会が催されると聞いたときには、絶対参加するんだと決めていたわ。最終的に即売会の話は流れてしまったのだけどね……」
「へ〜、司令って昔はマンガ描いてたんだ〜」
「それは驚きですね」
何故か体育座りして話を聞いているＩＫＫＡＴＵの４人。
真紀子が昔マンガを描いていたことは意外だったらしい。
仮面の男は黙って腕組みをして体勢で立っている。
「……それでね、結局私たちはそのまま高校を卒業したわ。真紀子はマンガ家、強いてはマンガ界を育てるという夢を実現するため、マンガ雑誌の編集者への道を歩み、一方私は父の企業へ入社した。そして程無くして父が急死し、予定よりもずっと早く私は会長の座へと昇った、いや、昇らされた。それからしばらくは毎日目も回るような忙しさだったわ。来る日も来る日も仕事仕事仕事……それでも、マンガが好きだと言う気持ちは変わらなかった。最近になってようやく仕事にも慣れて、少しだけど時間が作れるようになったこともあり、真紀子が関わっていると聞いた『こみっくパーティー』に足を運んでみたの。でもそこで待っていたのは、あのお方だった……」
「もしかしてその男が……」
「そう、カリスマン様よ。彼は『会長』としての私に協力を求めてきたの。ハラジロシスターズを支える資金源としてね。そして私はその誘いを受けた……」
「そう、そこだ」
仮面の男がここぞとばかりに会長に問いただす。
「何故カリスマンに協力しようと判断したんだ？ 澤田司令と奴とでは、どう考えてもこちらにつくべきだったろう？」
「……あの時カリスマン様に声をかけられた時点では、まだ彼の野望の反対側に真紀子が関わっていることを知らなかったから。でも、それよりも大きな理由は、やはり……」
「やはり？」
ちょっと間を置いて。
「カッコいいから♪」
「…………」
おそらく男の仮面の下では呆れ顔が浮かんだことであろう。
「……懲りないねぇ、あなたも」
こちらもやはり呆れ顔の美穂。
対して会長は、あまり気にした様子もなく話を続ける。
「とにかく、カリスマン様に対抗する組織があることは知っていたけど、それが真紀子の手による物だということを知ったのは、協力を始めて少ししてからの話。そのとき彼は言っていたわ……ハラジロシスターズとコミックＺ、所詮戦いというものは双方の信じる正義のぶつかり合いなのだ、とね。私が信じたのは、彼の正義の方だったという訳よ」
「双方の正義……ですか」
「そう、まだ本格的には活動していないけれど、彼の言う正義には迷いがなかった。流れに任せて協力していた私が、私設部隊を作るほどに本気にさせられたのだから。ここまで心酔してしまったからには、もう戻れないかもしれないわね……おまけに彼ってばカッコいいし」
「…………」
一言多いよ、と心の中で意見を一致させる４人。
と、そのとき、計ったようなタイミングでドアの外から声が聞こえた。
『いいえ、まだ間に合いますよ』
「？ この声は、まさか？」
美穂たちの方を見る玲子。彼女らもまた同じ事を思ったらしく、４人で顔を見合わせる格好になった。
「あの〜、もしかして南さんですかぁ？」
まゆが代表して腕の通信機に向かって問い掛ける。
『はい、そうですよ♪ いまそちらに行きますから〜』
ガチャ。 ガチャガチャ？ ガチャガチャガチャッ！
どうやらドアが開かないらしい。
『あらあら、どうして開かないんでしょう〜？ いじわるしないで開けてください〜！』
「…………」
誰も意地悪してないって。
「……そういえば鍵が掛かってたっけ。南さん、今行きますよう☆」
小走りでドアへと向かい、鍵を開ける。
カチャリ……ギィィ……
「ふう、ありがとうございます♪ あら玲子さん、その格好素敵ですね☆」
「え？ ホント？ やっぱり〜？」
「ええ、本当ですよ……それにしても、大暴れしたようですねえ」
床で眠っている黒服たちを見渡しつつ、ゆっくりと歩き出す南さん。
途中で仮面の男へ目線を送る。
「…………」
仮面の男は、腕組みしたまま無言で軽く会釈した。
そして会長の前まで来たところで、南さんはその足を止めた。
「……お久しぶりですね、千鶴さん」
「そういえば、あなたも真紀子と一緒だったのよね……南。こうして会うのも何年ぶりかしら？」
千鶴と呼ばれた女性――もちろん会長だが――は、懐かしそうにそう言った。
そして南さんもまた懐かしげだ。
一方、それを見ていた玲子たちは。
「……なるほど。さっき会長さんが言ってた後輩ってのは、南さんのことだったんだ〜」
「隠された人間関係が徐々に明らかになってるって感じなのかな？」
「でもさぁ、何か取ってつけたような気がしないでもないけどねぇ」
「まゆったら、そんなこと言ってると出番が無くなっても知りませんよ？ あ、そうそう。ちなみに『千鶴』という名前は実在の人物とはあまり関係ありません。千鶴さんファンの方、気になさらないでくださいね♪」
さすがはチームＩＫＫＡＴＵ、マイペースを崩さない。
このあたりも強さの秘密なのか。
「ところで南さん、どうしてここへ？」
「ええ、そろそろ作戦終了する頃かな〜と思って迎えに来たんです。表で鈴香さんも待ってますよ。……それともうひとつ。千鶴さん、先輩からあなたへの伝言も預かってきました」
「伝言……？」
「はい♪ では先輩の言葉、そのまま伝えますね」
南さんはいつもの優しい微笑を見せると、暗唱するかのように目を閉じた。
「『いつまで馬鹿なことやってるのよ、千鶴。そろそろ目覚めてもいい頃でしょう？ 今からでも遅くはないわ、真人間に戻りなさい』……だ、そうです。随分と心配されてるようですね、先輩ったら☆」
「真紀子……」
嬉しいような申し訳ないような、複雑な表情を見せる千鶴。
「……でも、やはりもう遅いのよ。私の中のカリスマン様が消えることはないわ」
「そうですか……」
南さんは顎に手を当て、何かを考えるそぶりを見せる。
そして考えがまとまったのか、またにっこり微笑んで話を続けた。
「じゃあ、こうしましょう♪ 千鶴さん、今度は私たち『コミックＺ』に協力してくれませんか？」
「え？ だ、だめよ、今更私なんかが……」
否定する千鶴の台詞を遮るように、南さんが続ける。
「もし千鶴さんの協力があってカリスマンを倒すことができたなら、その時おそらく普通の人に戻るであろう、カリスマンこと大志君を千鶴さんに紹介しちゃいます♪」
千鶴の耳がピクリと動く。
「千鶴さんだって、カリスマンとしての彼より、一般人としての彼と知り合いたくはないですか？」
「……南、それ、本気で言ってる？」
「ええ、マジです☆」
三度にっこり微笑む南さん。
「…………」
わずかの間、そして。
「わかったわ、協力しましょう！ 私と真紀子、南が一つの目標の元に団結した以上、カリスマンの野望を阻止することなんてちょちょいのちょいよ！！」
ガシッと南さんの手を両手で握り、あっさり協力の申し出をを受け入れる千鶴。見事な手のひらの返しだ。
その目は、野望を阻止するとかそういうものとはちょっと違ったところで燃えているようだ。
「はぁぁ……大志君、待っててね〜♪」
現に千鶴は、すでに自分の世界へと旅立っていた。
「……南さん、南さん」
「はい、何ですか玲子さん？」
そそっと南さんの側へ寄り、耳打ちする。
「いいんですか？ さっきのさっきまで敵だった人を仲間にしちゃっても？」
「ええ、大丈夫です♪ 千鶴さんのことは私も先輩も良く知ってますし、なにより彼女の協力が必要なのも事実ですから。正義の心と努力だけではコミックＺは成り立たないんですよ」
「……なるほど、納得」
確かに資金源は多いに越したことはない。
さすがは南さん、考えてないようでいろいろ考えているんだねぇ。
千鶴への説得（と言うにはあまりに単純だが）も成功し、一段落ついた頃、ちょうど黒服の皆さんも目を覚まし始めた。
千鶴は状況を飲み込めない黒服たちに事の説明をする。
元々黒服たちはカリスマンどうこうではなく、単に千鶴の命に従っていただけなので、さしたる混乱もなくその場は収まった。
そして基地へと帰還しようと思ったそのとき。
「あ、やっば〜い！ 大事なこと忘れてた〜！！」
玲子が突然何かを思い出した。
「何ですの、玲子？ いきなり大声あげて」
「ぬいぐるみよぬいぐるみ！ 元々これのためにここに来たのに話が別の方向へ行っちゃうから、すっかり忘れてたよう！」
「そういえばそうねえ。あたしらも忘れてた」
ウンウンと頷く美穂。
確かに任務は、当初の目的から外れてＩＫＫＡＴＵ本来のものに摩り替わっていた感がある。
「ゴメン、あたしちょっと持ってくるね！」
言うが早いか、玲子は部屋の出口へと駆け出した。
「あ、玲子！ ぬいぐるみがどこにあるかわかってんの？」
「大丈夫、知ってるよ〜！ すぐ戻るから先に車まで行ってて〜☆」
走りながら後ろを振り向いてぶんぶん手を振る。
「了解〜！ って、あの格好だとめっちゃ速いねぇ。もう行っちゃったよ」
「そういえば、忘れてたと言えばさぁ〜」
まゆがある事に気付いた。
「何？ どしたん？」
「仮面の男の人って、どこ行っちゃったの？ 南さんが来たときにはいたのに、いつの間にか見当たらないねぇ」
「あら、そういえばそうですね……」
キョロキョロとあたりを見回す３人。
しかし周りにいるのは黒服ばかりで、どこにも仮面の男の姿はない。
「彼の事なら心配いりませんよ♪ おそらく一人で任務を続けているはずですから」
「任務？ どういうことですか、南さん。もう任務は終了したのでは？」
「うふふ、それはですね……」
人差し指を唇の前で立てて、一言。
「ヒ・ミ・ツ・です♪」
ぬいぐるみがズラリと並ぶ部屋に、仮面の男はいた。
彼の腕には、大きなコウテイペンギンのぬいぐるみが抱かれている。
玲子が探していた、事の発端でもある、あのぬいぐるみだ。
「やれやれ、結局俺自身の手で取り出すことになるとはな。手の込んだことしなきゃよかったかな？」
ぬいぐるみの首のあたりをなにやらゴソゴソと探っている。
何かを探しているようだが、うまく見つからないようだ。
「……ええい、鬱陶しい！」
そう言うと、仮面の男は顔につけていた仮面を取り、放り投げた。
「見えにくいっつーの。いくら正体を明かせないからって、仮面なんかするもんじゃないな、全く」
視界が良好になり、(元)仮面の男は探し物を見つけることができた。
彼の手には小さなチップが握られている。
「これでよし、と」
彼はそのチップをポケットから取り出したケースに入れると、再びそれをポケットにしまい込んだ。
「さて、とっとと帰還するとするか。みんなに見つかったら面倒だし」
外へ出ようと、男がドアの壊れた入り口へと体を向けた。
その時。
「え！？ キミは……！ 何でキミがこんなところにいるの！？」
「！！ しまった、遅かったか……」
ドアの外には、ぬいぐるみを取りに来た玲子が立っていた。
「まいったな……」
彼は空いた手で頭を掻くと、玲子に近づき、ぬいぐるみを手渡した。
「いいかい、俺の事は他のみんなには内緒だよ？」
「で、でも、どうして……？」
「その方が動きやすいんだよ、色々とね。それじゃ、約束だよ！」
玲子の肩をポンと軽く叩くと、彼はその場から走り去った。
後に残された玲子にできることと言えば、走っていく彼の背中を目で追うことだけだった。
「あ、来た来た。遅いぞ玲子〜！」
玲子がぬいぐるみを抱えて屋敷から出ると、南さんと鈴香、千鶴、そして３人娘がコミックＺの車の前で待っていた。
車の周りには見送りの黒服がズラリと並んでいる。
そして当然、その場に仮面の男の姿はなかった。
「ゴ、ゴメンゴメン〜、ちょっち迷っちゃってね〜☆」
「お〜、それが例ぬいぐるみだね？ ちゃんと見つけたんだぁ。これでともみちゃんも喜ぶねぇ♪」
「確か、今日の夕方に公園で会う約束でしたよね？」
「そうそう、そのとおり！ てなわけで鈴香さん、あたしだけ途中で降ろしてね〜☆」
「ええ、いいですよ。駅の側の公園ですね？」
既に運転席に乗り込んでいた鈴香は玲子の申し出を快諾した。
「ああ〜ズルイ〜！ ボクもともみちゃんに会いたいよ〜！」
「あ、あたしも！」
「私もです♪」
「おっけぇ〜☆ んじゃ、みんなでともみちゃんにぬいぐるみを渡しに行こう〜！」
「「「おお〜〜！！」」」
かくして潜入作戦から派生した組織壊滅作戦は無事に終了を迎え、チームＩＫＫＡＴＵを乗せた車は公園に向かい走り出した。
夕方。
ともみちゃんと約束した公園に、ＩＫＫＡＴＵの４人は降り立った。
しかし、最初にともみちゃんと出会ったベンチの側まで来たものの、そこに彼女の姿はなかった。
「さて玲子、ともみちゃんはどこにいるのよ？」
「う〜ん、ここで会おうって約束してたんだけどなぁ……」
あたりを見回すが、ともみちゃんは見つからない。
代わりに、砂場で遊ぶ親子の姿が目に入った。
昨日、貴重な情報をくれたあの親子だ。
「ちょっと待ってて。あそこの人に聞いてみるから」
玲子はぬいぐるみを美穂に預け、軽い駆け足で親子の元へと向かった。
「こんにちは〜」
「はい？ あら、あなたは……」
「ええ、昨日はどうもありがとうございました☆」
玲子が声をかけた女性は、今日も長い髪を軽い三つ編みにして束ねている。
あいかわらずの美人っぷりである。
女の子の方もあいかわらずシャベルで砂を掘っている。
「いいえ、お役に立てたようで何よりです。……ところで、今日はどうされました？ またどなたかお探しですか？」
「はい〜、実はある女の子を捜してるんですが……髪をこんなふうに両側で結わえてて、年は小学校低学年くらいで……」
自分の頭に手を当ててゼスチャーしながら説明する。
すると、またもやあっさりと期待していた答えが返ってきた。
「まあ、それは大変ですねぇ。でも、そういった感じの女の子なら見かけましたよ？」
「え！？ どこでですか！？」
「ええと、確かあちらのほうで……あ、ほら、あの子ではないですか？ お父さんらしき人と遊んでいる……」
そう言って女性が指し示した方向を見ると、確かにともみちゃんらしき姿が見えた。
一緒に遊んでいるのは見知らぬ男性。おそらく父親だろう。
「そうそう、あの子です！ また助かっちゃいました！ ありがとうございます〜☆」
「いいえ、どういたしまして♪」
にっこりと微笑む女性。
どこか南さんに通ずるものが感じられるその笑顔は、優しさで満ちていた。
玲子は女性に深々と礼をし、３人娘を連れてともみちゃんの元へと走った。
「ともみちゃ〜ん！」
「あ、おねえちゃん！」
玲子の声に気付いたともみちゃんは、満面の笑みを浮かべて振り返った。
「あのねあのね、お父さんね、お休みたくさんもらったの！ だから、ともみとたくさんあそべるの！」
「へぇ〜、そうなんだぁ〜。よかったね、ともみちゃん☆」
「うん！」
なるほど、満面の笑みのはずだ。
昨日の寂しそうな顔が嘘のようである。
「ん？ ともみ、このお姉さんたちを知っているのかい？」
父親がちょっと不思議そうにともみちゃんに尋ねる。
「うん、きのうね、ここであったの。ともみね、おねえちゃんとやくそくしたんだよ！」
「そうか……どうも娘がご迷惑かけたようですね」
「いいえ、そんなことないですよ☆ そだ！ 約束どおり、ぬいぐるみ見つけてきたよん！」
後ろ手に持っていたぬいぐるみをさっと前に出す。
「！！ そのぬいぐるみは……！」
「あ、お父さんのぬいぐるみ！ おねえちゃん、ほんとに見つけてきてくれたんだ〜！！」
「うん、あったりまえでしょ！ 約束したんだから♪」
「ありがとう、おねえちゃん！」
満面の笑みが二乗になるともみちゃん。
その光景を見ていた３人娘は。
「いや〜、もんのすごく喜んでるねぇ〜」
「あたしらも頑張った甲斐があったってもんね」
「まあ、私たちは直接ぬいぐるみには関わっていないですけどね」
「それは言いっこなしよ、夕香」
こんな感じである。
「そうか、君達は……いや、なんでもない。どうやら本当にお世話になったようです。感謝の言葉も無い」
玲子に向けて礼をする父親。
「いやですよう、あたしたちは正義の味方、当然のことをしたまでですって☆ じゃあともみちゃん、おねえちゃんたちそろそろいかなきゃならないんだ。今度一緒に遊ぼうね！」
「うん！」
「それじゃあね〜☆」
「おねえちゃん、バイバイ〜！」
名残惜しそうに何度も振り返りつつその場を立ち去る玲子。
ともみちゃんも、玲子の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
ずっとずっと、手を振っていた……。
―――玲子たちがともみちゃんと会い、ぬいぐるみを渡したことで、今回の騒動は全て解決した……。そして、時を同じくして、コミックＺの司令室では……。
コンコン……。
「どうぞ？」
「失礼します」
ウィィィィン。
司令室のドアを開けて入ってきたのは、仮面の男と呼ばれた男だ。もちろん今は仮面などしていない。
「……待ってたわよ。とりあえず、お疲れ様と言わせてもらいましょうか」
「ホント疲れましたよ。まさかＩＫＫＡＴＵが現れるとは思いもしませんでしたからね。まだ俺が表に出るわけにはいきませんから、正体がバレないか冷や汗モノでしたよ」
やれやれといった感じで肩をすくめる男。
それを見て、真紀子は軽く微笑む。
「あれは私も予想外だったのよ。まあ、ちょうど良かったと言えば良かったのだけどね、タイミングとしても人選としても」
「俺一人でも何とかならないことはなかったですけどね。……ところで、愛沢さんはどうなりました？ 俺のミスのせいで危険な目にあわせてしまって……何とか彼だけでも脱出させたかったんですが、無事に帰還できましたか？」
「ええ、彼なら玲子さんたちが出発したのと入れ違いで何とか戻ってきたわ。追っ手を撒くのに苦労していたようね」
「そうですか……よかった。ぬいぐるみ作戦も失敗して、一体どうなることかと思いましたよ……っと、そうだ。これを忘れては話にならないぞ……と」
男はポケットから一つのケースを取り出すと、それを真紀子のデスクの上に置いた。
「これが今回の潜入中に集めたデータです。とは言っても、残念ながら彼女とハラジロシスターズとの直接的な繋がりは、期待していたほど見られませんでしたが。カリスマンにも会えませんでしたし」
真紀子は静かにそのケースを手にとり、中を確認すると、若干だが厳しい顔つきになる。
「わかったわ。千鶴のことだからそんなことだとは思ってたけど。ところで、ぬいぐるみにチップを埋め込んで愛沢さんの娘さんに託すと言う作戦、どちらが考えたの？」
「俺です。我ながら失策だと思いますよ」
「そうね。幸い、娘さんに危害が加わらなかったからよかったものの、その可能性は十分にあったと考えられるわ。伝達手段としては不適切ね、以後気をつけるように」
「わかりました」
「あなたのことだから問題ないとは思うけど。……それと、玲子さんの件だけど……」
話を変えると同時に、元の表情に戻る真紀子。
「あなたの目から見て、彼女の力はどう？ ものになりそう？」
男は、目を輝かせて言う。
「ええ、かなりのものですよ、玲子ちゃんのパワーは！ 今回の急激なパワーアップに彼女自身が奢ることなく、しっかりと修行を積んでいけば、いずれは司令と並ぶ……かまではわかりませんが、少なくとも俺のレベルには並べそうですよ！」
「そう……期待していいのね？」
「もちろん！」
そこまで確認して、ようやく真紀子の顔に笑顔が浮かんだ。
「なるほど……了解しました。今回の任務はこれで終了よ、まずはゆっくりと休んでちょうだい。これからもっと大きな任務も待ってることだし、あなたには今まで以上に活躍してもらわないといけないのだから」
「ははは、言われなくとも休みますよ。とは言っても、同人の方もほったらかしにするわけにはいかないから、結局はあまり休めないのかもしれませんね」
「それもそうね……ふふふ、そちらの方も期待してるわよ？」
「参ったな、お手やらわかにお願いしますね、編集長？」
男は苦笑いで応える。
「ええ、考えておくわ。それじゃ、お疲れ様、和樹君」
こうしてＩＫＫＡＴＵは、その成功の歴史を刻んでいった。
だがこの時は、彼女たちの知らないところで何かが進行していること、そして彼女たちの前に、ある男の手による運命の悪戯が待ち受けていることを、まだ知る由もなかった。
皮肉にもその事件により、ＩＫＫＡＴＵはさらに伝説味を深めることになるのだが……。
その話は、また別の機会ということで……。
【END.】
【あとがき】
ども、デロンです☆
いやいやいや、ようやく終わりました！
よくもまあ、こんなにダラダラやったもんです。
最初はこんな予定ではなかったんですけどねえ(笑)
本編では玲子ちゃんがあまり活躍できない！
ましてや３人娘、どこいった？
ってなことから書こうと思い立ったこの外伝。
最後までオレの自己満足にお付き合いいただいた皆様、少しは楽しんでいただけましたか？
もしそうならばこれ幸い。頑張った甲斐があったというものです。
コミレンジャーも、これからどんどん大きくなっていくことでしょう。
オレもついていかなくちゃね。
それでは、また次の作品で☆
……次って何時だ？(爆)