コミレンジャー 第５話 瑞希の挑戦！ 〜中編〜
「いらっしゃいませ〜♪ ３名様ですか？ こちらへどうぞ〜」
店内に元気な声が響く。声の主は瑞希だ。
ちょっと長めの黒いスカートに、白いエプロン。赤いリボンタイにメイド帽までつけている。
お客様を席まで案内するために回れ右をすると、スカートの裾がふわ〜となる。そこがまた目を引く。
これがこの店の制服らしい。
持っているのがトレイではなくほうきならば、どう考えてもメイドさんである。
ウェイトレスにしてメイド。
２つの萌える要素を絡ませたところに、なかなかのセンスを感じたり感じなかったり。
……まあ、それはどうでもいいとして。
「ふう……」
一通りのオーダーを取り一旦その場を離れ、一息。
するとそんな瑞希を見ていたポニーテールのウェイトレスが声をかけてきた。
今日の瑞希のサポート係らしく、しっかりした仕事振りからフロアのリーダー的存在と思われる。
「高瀬さん、疲れたでしょ？ あとは私が引き継ぐからすこし休憩してきたら？」
「あ、はい、ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えちゃいますね」
ペコリとお辞儀をして休憩室に向かう。
「……ふう」
休憩室の椅子に座り、また一息。
慣れない接客業に疲れを感じてはいたが、それでも瑞希は充実感にも似た気分を味わっていた。
もっと戸惑うと思われた仕事も、なんだかんだで結構こなしている。
お客様に「ありがとう」と感謝されることがこんなに嬉しいことだとは思わなかった。
バイトの先輩さんたちもいい人ばかりだし、店の雰囲気もとてもいい。
瑞希は思った。
あたし、この仕事もまんざらじゃないかな……と。
…………。
……ん？
「――じゃなくってっ！！」
ハッと我に返る瑞希。
そう、彼女が今ここで働いているのは、決してお金が欲しいとか社会勉強の為などではなく、
ハラジロシスターズの悪しき野望を打ち砕くためである。
危うく本当の体験アルバイトで終わりそうだったが。
「さて、まずは情報を整理しなくちゃ……」
幸いここは休憩室、しかも他には誰もいないため、ゆっくりと考えをまとめることができる。
テーブルの上のコーヒーメーカーにはまだコーヒーが残っていたので、
瑞希は手近にあったカップを洗い、コーヒーを注ぎ、続いて砂糖とミルクを加えた。
軽くかき混ぜたあと、左手でカップを持ちゆっくり口元へ運び、右手で指折りしつつ確認していく。
「まず、店の雰囲気は悪くない、と」
問題の店ということでちょっと雰囲気が違うかと思っていたが、何の事はない、普通の店である。
客の入りも悪くないし、若い人から家族連れまで年齢層も広そうだ。
「それに、店員もこれといって問題はなし……」
バイト仲間は皆いい人で、何かを企んでいるようには見えない。
疑いを含んだ眼差しで店員を見ても特に怪しい点が見えてはこなかった。
「……となると、やっぱり料理かなぁ？」
瑞希はいまいち確信を持てないのか、弱々しく中指を折った。
と、その時。
「高瀬さーん、休憩中のところ悪いんだけど、お客様があなたの事を呼んでいるのよ。
ちょっとだけフロアに戻ってもらえるかしら？」
開きっぱなしの休憩室のドアからポニーなウェイトレスが顔を出し、瑞希に向かって手招きをした。
「あたしをですか？ う〜ん、何か失敗したかなぁ……それって、どんな方でした？」
「え〜と、一人はメガネで穏やかなお姉さんって感じで、
もう一人は右肩で髪を束ねた声の小さい女の子だったかな？」
「……わかりました、今行きます……」
どこかで聞いた特徴に、瑞希はガクンと力が抜ける。
そして、手にしたカップに残っているコーヒーをぐいっと飲み干し、フロアへと向かった。
教えられた番号のテーブルに向かうと、予想通りの２人組が瑞希を迎え入れた。
「まぁ瑞希さん、よくお似合いですよ、制服♪」
「こんにちは」
２人組とは南と彩だ。
ちょっと珍しいかもしれない組み合わせが、窓際の席で向かい合って座っている。
「どうしたんですか、南さん……それに彩ちゃんまで」
「いえ、ちょっとそばを通りかかったものですから」
「私もです」
嘘。
どう考えても嘘。
何をしに来たのか問いただそうかとも思ったが、
この２人にはいろんな意味で勝てそうもないと悟った瑞希は追及するのをあきらめた。
どうせあたしの働いてる姿を偵察しに来たに決まっている、そう勝手に結論付ける。
しかし偵察の偵察とはこれいかに。
「……まあ、いいです。ところでまだ注文してないみたいですけど、何にしますか？」
とりあえずウェイトレスとしての職務を果たすことにした瑞希。
南は言われて初めて気づいたのか、のんびりメニューを眺め始める。
だが彩はメニューには目もくれずに。
「水、おかわり……」
「……え？」
「水のおかわり……できませんか？」
少し溶けかけた氷の入ったグラスを真顔で差し出す。彩は本気だ。
まあ、もともと冗談を言うような娘には見えないが。
「それは……確かにおかわりできるけど、なんでまた水なの？」
「……当たり、引きたくないから」
「……」
だったら無理して来ないでも……。
と思ったが、あえて口には出さないでおく瑞希だった。
「あらぁ、ダメよ彩ちゃん。ちゃんと注文しなくちゃお店に失礼でしょう？」
熱心にメニュー眺めつつも、ちらりと彩のほうに目線を移つす南。
ウェイトレスを前にしてこんなにじっくり選ぶところにマイペースぶりを感じる。
「でも……」
それでもためらう彩。さもありなん。
「う〜ん、あたしも無理にとは言いませんが」
瑞希もそんな彩を見てフォローする。
そう、南にしても彩がコミックパワーを吸い取られるという事態は避けたいはずなのだ。
それなのに何故あえて彩にチャレンジャーになることを望むのか？
そして何故南自身がチャレンジャーとなろうとしているのだろうか？
その答えはあっさり過ぎるほど簡単に南の口から告げられた。
「……２人とも何か問題あるお料理を食べてコミックパワーが吸い取られてしまうのが心配なのかしら？
それでしたら多分大丈夫だと思いますよ」
「……はい？」
「……？」
突然の安全宣言を聞き、理解不能に陥る瑞希と彩。これまたさもありなん。
いつも予想外のことをさらっと言ってのける南。
普段は何も考えていないようなほんわか笑顔を浮かべてはいるが、
その裏ではしっかりと頭を回転させているのだろう。
現に今も当然のように微笑んでいる。
「状況から判断して、おそらくどれか特定のお料理に何か問題があると思うのですよ。
それもこのお店の人気メニューが怪しいのではないかと……」
「どうしてそう思うんですか？」
「ええ、被害に遭われた方が限定されていることから、全てのお料理に手を加えているとは思えません。
さらに言うなら、注文の少ないものなら大丈夫じゃないかしら？
あまり注文されないものにリスクを負ってまでわざわざ手を加えることはないでしょう？」
「……確かに」
「なるほど……そうかもしれませんね」
ためらいつつも、とりあえずメニューを眺めるだけ眺めていた彩と、
傍から見るとサボってるようにしか見えない瑞希がうなずいた。
「ところで瑞希さん、ここの一番の人気メニューというと何なんでしょう？」
「一番人気ですか？ それなら多分……」
そう言いつつ、斜め後ろのテーブルの方にチラリと目線を移す。
瑞希の目線の先には、秋葉原での戦いを終えた後と思われる集団と、
そのテーブルの上に並ぶヘモヘモの顔の形をした皿が並んでいる。
「あれですね。ランチ･ザ･ピーチ」
『ランチ･ザ･ピーチ』
名前から察することができるように、『カードマスターピーチ』を元に作られたメニューである。
ヘモヘモの皿にハンバーグ・ピラフ・ナポリタンなどの王道な盛り合わせで、
ピーチの旗が立ってたりデザートに桃があったりと、お子様にも人気がある。
さらにおまけとしてピーチの形をしたストラップが付いてくるということもあり、
一部の若者にも大人気のメニューなのだ。
メイドな制服といいピーチストラップといい、ターゲットを絞り、
かつその心をしっかりつかんだ戦略と言えよう。
その光景を見て南は納得した様子でうなずく。
「そうですか……あれでしたらお子さんや若い方に被害が集中しているのも説明がつきますね。
さらに付け加えるならば、彼らのような萌える心をもった方をターゲットとすれば、
より効率よくコミックパワーを集めることができますから。というわけで瑞希さん、
今日コミックＺにランチ･ザ･ピーチを持ち帰っていただけると助かるんですが」
「わかりました、何とかやってみます」
千沙ちゃんだったら何気にタッパーとか持ってそうなのに。
そんなことを思う瑞希がどうやって料理を持ち帰るか考えていると……。
くいっくいっ。
「ん？」
瑞希の制服の袖が引っ張られる。彩だ。
たたんだメニューを片手に何かを訴える眼差しで瑞希を見ている。
「何、彩ちゃん？」
「もずく……」
「……え？」
「もずく、お願いします」
どうやら料理を注文したかったらしい。
それにしてもファミレスでもずくとは。
「もずくなんてメニューに載ってたっけ……？」
「ありますよ。ほら……」
再びメニューを開き、指し示した彩の人差し指の先には、しっかりともずくが描かれていた。
「ほんとだ……それにしても、どうしてもずくなの？」
「……誰も注文しなさそうですから」
ふむ、ある意味納得。
ただし、彩は誰も注文しなさそうと考えてもずくを選んだのか、
もしくはもずくが好きでそれがたまたま誰も注文しなさそうだったのかは謎ではあるが。
「あら〜、彩ちゃん、それもおいしそうねぇ。でも私は田舎雑炊をお願いしちゃおうかしら♪」
南も負けじとファミレスにはあまり似つかわしくない料理を注文する。
「田舎雑炊……そんなのありました？」
「ええ、もちろん☆」
このあと、南がメニュー上にしっかりと描かれた田舎雑炊を得意げに指差したのは言うまでもない…。
瑞希がファミレスでの初バイトを経験した、その翌日。
「いやぁ、ウチも見たかったなぁ、瑞希っちゃんのウェイトレス姿〜」
「そんな、別に大したものじゃないってば……」
「そんなことないですよ。瑞希のお姉さんだったら何でも似合うと思います☆
あぁ〜、千紗も見たかったです〜」
コミックＺのレストルームでは瑞希、由宇、千紗が瑞希のバイトについて盛り上がっていた。
南と彩が帰った後で、何とかランチ･ザ･ピーチを持ち帰ることに成功した瑞希。
そしてそれをコミックＺに持ち帰り、南の手に渡すことによって、
怪しい点がないか解析されることになったのだ。
バイト前であまり時間はないが、瑞希はその解析結果を知っておきたかった。
「ふう……」
ウィーンという音と共にドアが開き、ノートパソコンを胸に抱いた南がレストルームへとやってきた。
「お、どうやった牧やん？ なんかわかったんか？」
「ええ、それなんだけど……」
曖昧な返事を返した南は、そのまま３人が座っているテーブルへと歩みより、
そのテーブル上でノートパソコンを開いた。
そして目にもとまらぬ速さでキーを打ったかと思うと、
美味しそうなハンバーグやピラフの画像や様々なグラフや数値が表示された。
「これを見てもらえますか？」
「どれどれ……」
ディスプレイの正面から由宇が、その両サイドから瑞希と千紗が各々画面を眺める。
そのままの体勢で固まったまま、約３０秒後。
「どう、わかるでしょう？」
「わかるわけないやろ……こんなん単なる数字やら線にしか見えへん」
「同じく……」
「にゃあ……わからないです〜」
３人の返答を聞いた南は、左手をほおに、右手を左ひじにそえるポーズをとって一言。
「あらあら、困りましたね〜」
「……」
いつものことなので、由宇は『困ったんはこっちや』と心の中でツッコむことにした。
その横で、気を取り直した瑞希が尋ねる。
「それで、結果はどうだったんですか？」
「はい……それが、各料理を成分解析しても、原材料まで分離しても、
特に問題は見つかりませんでした」
「それじゃ、違う料理だったんでしょうか？」
「いいえ、そんなはずはないんです。
解析結果を見た後で被害者の統計をもう一度洗いなおしたのですが、
どう考えてもやはりあのランチ･ザ･ピーチが一番怪しいんですよ。
何が問題なのかわかれば対策も立てられるのですが、それがわからないとどうにも……」
「そうですか……」
４人の間を重たい空気が支配する。
それぞれ腕を組んだり、顎に手を当てたり、メガネを直したり（それでもずれてはいるが）、
にゃあにゃあ言ってみたりと、様々なポーズでこれからどうしたらいいか考えはしたものの、
４人ともなかなかいい考えは浮かばなかった。
そして じれったいまま時だけが過ぎ、
瑞希がバイトへと出かけなければならない時間になってしまった。
「あ、そろそろあたし行かないと……」
「ええ、行ってらっしゃい瑞希さん。お仕事頑張ってくださいね♪」
「ありがとうございます。じゃ、行ってきます」
問題を残したままなのが気がかりなのか、何度か後ろを気にしつつレストルームを出て行った。
「……」
残った3人を再び重たい空気が包み込む。
実はいい考えが浮かばないのには理由があった。
それは、すでに由宇と南の頭の中ではある考えが浮かんでいたからだ。
そう、決してベストとはいえない考えが……。
くぅぅぅぅ……。
緊張感ある場に、緊張感のかけらもない音が響く。
「にゃあぁ……千紗、おなかすいたですよぉ……」
千紗の腹の虫が鳴く音だった。
それを聞いた由宇と南は顔を見合わせる。
「……やっぱそれしかないかぁ。なぁ、牧やん？」
「ええ、そうねぇ……できれば避けたかったけど、被害を最小限に食い止めるには仕方ないかしら……」
「ほぇ？ 千紗だけわからないですかぁ？」
互いにうなずく由宇と南を見て、不思議そうな顔で首をかしげる千紗。
その千紗の両肩を由宇がガシッと掴んで。
「なぁ千紗ちぃ、おなかすいたんやろ？ ウチらが奢ったるからちょっと外で食べてこんか？」
「にゃああ！？ ホントですか！？」
「ホンマや。ただしメニューは決まっとるけどな……」
由宇がニヤリと笑ったのと同時に、レストルームのドアが開いた。
こんな不幸なタイミングで足を踏み入れてしまった人は誰なのか。
「あ、ここでしたか南さん。すみませんがキャリーカートの最終点検の方お願いできますか？」
それは鈴香だった。
「あらあら鈴香さん、ちょうどいいところに♪」
パンッと手のひらを胸の前で打ち合わせる。
「ちょうどいい？ 何ですか？」
「最終点検ですね、わかりました。
では、鈴香さんには私の代わりに千紗ちゃんと一緒にお出かけしてもらいましょう☆」
こちらはにっこり微笑む南。
ちなみに南の笑顔には少しも悪意など感じられない。
「はぁ……整備は終わったんでもう特に用はありませんけど。でも、一体どこへ行くんですか？」
「ええ、ちょっと瑞希さんのアルバイト先でお食事してきていただきたいんです」
「……すみません、急用を思い出しました」
そう言いながら鈴香はくるりと回れ右をして部屋から出ようとする。
しかしドアが開く寸前のところで、鈴香の右手が掴まれ引き戻される。
「甘いなぁ鈴香はん。用は無いて言ったばっかやん〜」
怖いほどの笑みを浮かべる由宇。
確かに顔は笑っているが、鈴香の手を掴む力は手加減のかけらもない。
「いや、その、急だから急用と言うのであって……」
引きつった顔で精一杯の反論をしようとするが、正面に回りこんできた南によってそれもかなわない。
「大丈夫ですよ。もしどうしても心配でしたら、田舎雑炊ともずくでしたら安全は確認できてますから」
「せやせや。それに１人や２人くらいヘロヘロになっても牧やんなら何とかしてくれる！」
「……」
鈴香は、もう自分には逃げ場などないことを確信した。
そして３人の後ろでは。
「にゃあああ……♪」
千紗が久しぶりの外食ということで胸をときめかせているようだった。
「いらっしゃいませ〜……って、千紗ちゃんに鈴香さん？」
「はい、いらっしゃいましたですよ☆」
「こんにちは、瑞希さん……」
「……？」
言うなれば光と影。
そんな様子で来店した２人に瑞希は少々戸惑いを覚えたが、とりあえず席へと案内することにした。
「ええと、一応聞いとくけど、正面から入って来たということは何か食べていくってこと……よね？」
「そうですよ☆ 由宇と南のおねえさんがごちそうしてくれるんですぅ」
「……らしいです。あたしはそういうわけではないんですけどね……」
にっこにこ顔の千紗と、テンションの低い鈴香。
まあ、鈴香の気持ちもわからないでもないが。
「それで、注文はなににするの？」
２人を席まで案内したところで瑞希が訊く。
そこで千紗はちょっと不思議そうな顔をして。
「はい、由宇のお姉さんが『メニューは決まってる』って言ってたんですけど……」
「決まってるって言ってたの？」
「そうです☆」
「……それってもしかして……」
チラリと鈴香のほうに視線を向ける瑞希。
すると南から説明を受けているのであろう、鈴香は無言でコクリとうなずいた。
「……やっぱり。わかりました、あえて何も言いません。で、鈴香さんもですか？」
「あたしは水で結構です！」
先ほどまでのテンションから打って変わって力強い口調で言い切った。
絶対に食べないぞという意思がいやってほど伝わってくる。
「……ではオーダーを確認します。ランチ･ザ･ピーチと水、以上でよろしいですか？」
しばらくして、瑞希の手によってテーブルに料理が並べられた。
千紗の前にはヘモヘモの皿、鈴香の前には水の入ったグラス。それから……。
「はい、千紗ちゃん。ピーチのストラップ。それと鈴香さんにもおまけです」
「え？ あたしもいいんですか？」
「ええ、どうぞ♪」
「にゃあ、かわいいです〜♪ でも千紗、携帯電話持ってないですよ……」
「それじゃあ鞄か何かにつけておけば？」
「鞄ですか……？」
千紗は瑞希の言葉を聞いて、少しだけ考えるそぶりを見せる。
そしてニコッと微笑むと。
「そですね、明日の朝学校に行くときにつけるですよ☆」
「それじゃ、あたしは早速……」
鈴香は胸のポケットから携帯を取り出し、いそいそとピーチストラップをつける。
そしてストラップを顔の前くらいでフルフルと揺らしてみる。
「うん、これでよしと」
「それじゃあ、千紗、いただきますです☆」
危険なものを食べようとしていることなど忘れたかのように、テーブルではお食事タイムが始まった。
……数十分後。
とりあえず千紗は全て残さず食べたのだが、これといって変化は無かった。
終わりよければ全てよし。
結局、普通に楽しい時間を過ごした千紗と鈴香は、笑顔で店を後にした。
そしてその日の夜、コミックＺで異変は起きた。
「なんかダルいんですよねぇ〜……」
体の不調を訴えたのは鈴香だった。
「なんていうか、どーでもいいっていうか……とりあえず横になってていいですかぁ……？」
「だ、大丈夫ですか鈴香さん？」
心配そうに声をかけたのは瑞希。
バイトが終わり、そのまま家へ帰っても良かったのだが、
なんとなく千紗と鈴香のことが気になってコミックＺに戻っていたのだ。
「う〜ん、ダメかもしれませんねぇ〜……で、横になってていいですかぁ……？」
「こりゃアカンかなぁ。とりあえず医務室につれてこか……
あ、そや。あさＰ、悪いんけど一緒に来て鈴香はんの治療お願いできるか？」
「は、はい、わかりました！」
「すみませんねぇ〜……」
由宇とあさひが鈴香の両肩を抱える形で医務室へと向かった。
その場に残ったのは瑞希と南、それに詠美だ。彩と千紗は自分の家に戻っている。
「ちょっとちょっと、鈴香さんてばどうしちゃったのよぉ！？」
「おそらく徐々にコミックパワーを吸い取られているのでしょう……」
「それで鈴香さんは大丈夫なんですか？」
「ええ、ここにいる限り対処は可能です。あさひちゃんのヒーリングも効果あるでしょうね」
「そうですか……」
瑞希は少し安心した表情を見せた。
だがすぐに難しい顔になって。
「でも……鈴香さんは水しか飲んでないのに、どうして……」
「まさかサボりたくて仮病つかってるんじゃないでしょおね！？」
「……」
由宇がいないので、誰もツッコんでくれる人はいなかった。
そしてツッコミの代わりに、瑞希と南から冷ややかな一瞥が送られた。
「……ふみゅぅぅぅん」
詠美、沈黙。
「……まだ体に異変が起こる前の鈴香さんからいろいろ話は聞きました。
もしその話に間違いがないのなら……」
口元に手をやり、南は何かを考えている。
「……ないのなら？」
南の言葉の続きを聞こうと、瑞希が先を促す。
そして考えがまとまったのか、南は瑞希の目を見て、一言。
「コミックパワーを吸い取っている方法がわかったかもしれません」
【つづく】