同人戦隊コミレンジャー

同人戦隊コミレンジャー

　　　　　　　　　　　　　　　　　～　強襲！　タングス天王　　後編～

「さ、さ、澤田司令！？」

「まきちゃん！？」

「どうして・・・こちらへ・・・？」

「あなた達だけではきつかったでしょう？　今の彼との勝負は・・・」

澤田司令は、僅かに微笑みながら、コミレンジャーたちに応えた

「でも、司令にそんな過去があったなんて・・・正直驚いています」

「しかもうちらやダークはんが傷すら付けれへんかった相手を一瞬で倒すやなんて、
　相当の実力者だったんやな」

「そうよね・・・」

コミレンジャー達がしきりに感心する中で、
澤田司令は『学生時代は随分やんちゃだったから』と笑った

だが、すぐに顔を引き締める

「彼が創ったものに傷が付かなかった訳はきちんとあるのよ。
　決してあなた達が弱かったというわけでは無くて・・・」

「！・・・どういうことなんですか！？」

すぐにレッドが身を乗り出した

「インフェルノよ・・・」

創造主の声に、インフェルノはその体を起こした

「お前に込めた全てのコミックパワーを開放し、
　魔獣の姿と化して奴らと戦う気はあるか？　強制はしない。罰しもしない。お前の意志で決めろ」

タングス天王のほうに顔を向け、インフェルノはその言葉に対しはっきりと肯定の意思を示す

「・・・・・・判った。では早速準備にかかろう」

そう言ったタングス天王の両の掌には、先程の神器・・・Ｇペンと絵筆が握られていた

「まず初めに、いつも貴方達が戦いに勝った場所に必ず残っているものを覚えている？」

「あ、ハイ」

澤田司令の問いかけに、ピンクが真っ先に応える

「大抵は壊れたフィギュアが転がっています」

「そ～いえば、たしかにそうだわね」

「その通りよ」

コミレンジャー達の答えに、澤田司令は満足そうに頷いた

「では、私が倒した“コミレンジャー・ナイトメア”に関してはどうかしら？」

「えっ？」

そんな質問が意外だったのか、彼女達は、一斉に自分の後ろ・・・
　先程までナイトメアがいた筈の場所に視線を向ける

「・・・何も・・・無い？」

「でしょう・・・それが答え。普通、創造の力で命を創る時はフィギュアなどの触媒を使うの。
　この時、触媒は出来た命の核となる」

「そっか！」

「あ・・・！」

ダークとブラックが、何かに気付いたように目を見開いた

「タングス君は触媒なんか使ってない！」

「体の中に核を持たない命に、傷なんか・・・付けられるはずがありません・・・」

「ええ・・・」

『その通り・・・だが、判っただけではどうしようもあるまい？』

嘲笑が辺りのビルに木霊する

上から降りかかる声に、全員が顔を空へと向けた

「やはり貴方は邪魔ですね、澤田司令殿・・・
　全てを伝えられては、俺のせっかくの趣向が意味を成さなくなるじゃないですか・・・ククッ」

空中に立つタングス天王

そして・・・

「あれは・・！」

彼の後ろには、巨大なキマイラの姿がおぼろげながら浮かび上がってきていた

「さて、インフェルノのコミックパワーの完全開放にはまだ時間が欲しい所だ・・・」

そう呟いた彼は今一度、ふわりと地上に降り立つ

「ここはもう少し消耗してもらおう・・・澤田指令殿、いえ、バトルスーツを

　纏えなくなったコミパゼット！！　できるのならば戦われない事をお勧めしますよ！！」

「！」

切っ先を向けられた澤田司令の顔に僅かに苦渋の色が滲む

が、その感情はすぐに消え、彼女からは再び、強者しか持ち得ぬオーラが立ち上った

「・・・私に勝つ気でいるのかしら？」

「さぁ？・・・だが、今の貴方になら確率は高いと思いますが・・・？」

「なめられたものね・・・」

澤田司令、タングス天王の両者とも、不敵な笑いを浮かべる

「司令、あたし達も・・・」

レッドが司令に向けて協力を申し出て、他のメンバーもそれに続いた

「やられっぱなしは腹立つからな」

「現役のあたし達だって、ちゃんと働かなくっちゃね☆」

だが、澤田司令は静かに首を振った

「少し休んでいなさい・・・貴方達を無駄に消耗させるわけにはいかないわ」

そして、彼女らにこれ以上言葉を返す余地を挟ませることなく、きりりとタングス天王を見据えた

「タングス天王・・・私相手で時間稼ぎの戦いが出来ると思ったら大きな間違いよ。
　バトルスーツが纏えなくなったとは言え、私は伝説とまで謳われた戦士なのだから！！」

「面白い・・・ならば時間稼ぎの戦いなど止めだ。
　我が誇りを賭けて挑ませてもらうとしよう・・・コミパゼット！
　今こそ貴方の伝説を打ち砕く！！！」

剣と神器の両方を構え、黒騎士が動いた

「怪人召喚！」

ペンが、絵筆が鮮やかに振られ、あっという間にコア・オ・タークの一個師団

が出来上がる

「やるわね・・・でもこんな即席原稿は認められないわ」

余裕の表情でそういい捨てると、澤田司令はその場を動く事すらせず、ゆったりと掌を前に突き出した

「幻光拳奥義・・・『震鎖』！！」

司令の周囲が強い光を放った

と、空中から無数の光る鎖が飛び出し、先程タングス天王が描いた全ての怪人に巻きついていく

「評価にすら値しない・・・却下よ・・・」

パチンッと指を鳴らす音に呼応して鎖が小さく震え、絡め取られていた全てが

バラバラに崩れ落ちる

「ちっ！」

タングス天王は軽く舌打ちをするが、動きを鈍らせるような事はしなかった

壊された怪人の残骸をブラインドにして、澤田司令の眼前にまで肉薄すると、

「くらえっ！」

相手の姿をしっかりと視界に入れ、無駄のない動きで真一文字に剣を薙ぎ払う

だがそこに澤田司令の姿は無い

「危なかったわ・・・ふふっ、南に持たせてもらった転移装置がこんな形で役立つなんてね」

「くっ・・・牧村博士のメカか・・・！」

詰めた間合いを大きく開けられ、タングス天王は歯噛みした

「いけいけ、まきちゃんっ！」

「ごっつい腕前や！　あのタングス天王が赤子扱いや！」

澤田司令の戦い振りに、コミレンジャー達は色めき立つ

「で、でででも、き、気になることがあります」

しかし、その空気にピンクが水を差した

「どう・・・したんですか？　ピンクさん？」

「タングス天王は司令と戦う前に、司令がバトルスーツを纏えないことをしきりに強調してました。
　何かがあるような気がするんです・・・」

「ピンク・・・杞憂とちゃうか？」

「だと・・・良いんですが・・・」

なおもピンクは心配そうに澤田司令を見つめる

「う～ん、なら良い考えがあるよ☆」

そんなピンクの背中をぽんと叩き、ダークが笑った

「な、何ですか？　良い考えって？」

「何かが起こる前に、こっちが何かしちゃえばいいんだよ☆」

「「「「は？」」」」

「なにわけわかんないこといってんのよ～！　にほんごしゃべりなさいよ！」

4人は一様に首を傾げ、グリーンがじれたように怒鳴った

「にゃははっ・・・ちょっち判りづらい言葉だったなぁ・・・」

ダークはぽりぽりと頭をかくと、

「つまりね、あたし達があの娘の相手をしようってことだよ。
　澤田サンの方は余裕に見えるけど、実際タングス君しか相手に出来てないわけだし」

にっこり笑って、巨大な姿を実体化しつつあるインフェルノを指差した

「でもダーク！　あたし達には、あいつを傷つける方法が無いのよ！」

「徒に・・・消耗するだけです・・・」

レッドとブラックがすかさず反論するが、

「だ～いじょうぶ☆　普通にやったらダメダメだけど、
　みんなで力を合わせたら出来るかもしれないことがあるよ。
　だって・・・あたし達ってみ～んなクリエイタ～じゃない？　こみパでもそこそこ有名だしさ☆」

ダークは気にせず、二人にウインクを返して見せた

「あっ！　あたしは何もやってないわよ！！」

「あの・・・私は・・・そんなに有名じゃぁ・・・」

「ちょおくいーんなあたしは、そこそこなんかじゃないわよっ！」

「その点は、大バカの意見に一票やな」

「ふみゅうっ！　ぱんだぁぁぁぁ！！」

「えええええと、あ、あ、あたしはその・・・」

戦いを他所に、いつものように騒ぎ出す彼女達

「は～い、みんなストップストップ。どうどう☆」

とりあえずダークがそれを収め、続ける

「あたし達に出来ること、それはみんなのコミックパワーを一つに集めて
　タングス君の真似をすることだよ☆　タングス君は言ってたよね？
　同質の力をぶつければ、傷を付けることができるって」

「それって、あたし達が『創造の力』を使うってこと？？」

「レッドちゃん大正解～っ、ぱちぱち～☆」

「むっ！　無理よ！　あんなのできっこないじゃない！」

レッドの言葉に、うんうんと首を縦に振る一同

これを見たダークに、からかいを含んだ表情が浮かんだ

「へぇ・・・だったら　みんなは、タングス君より劣る同人作家だって・・・

　クリエイターだって認めるんだ～」

「なっ！　なんやそれは！」

「あんな同人やってなさそうな　へっぽこぴーに、あたしがまけるはずないじゃない！」

「ううん～負けちゃうよ～。もしタングス君がこみパに出て来たとしたら、

　か～んたんにね☆」

「なめた事言わんといて！　そこまで言うならこの六甲おろしの由宇、
　本領みせたるわい！！」

「あたしがなんでこみパのクイーンか、そのしょ～こをみせてあげる！」

ダークのからかいに発奮させられた形で、イエロー、グリーンが彼女の作戦に乗り、

「こみパには関係ないけど、負けたって言われるのはイヤ！」

「何もしないより・・・何かをした方が、道を開けますね・・・」

「か、変わるためには、動かなくちゃ・・・」

続いて他のメンバーも思いを決めた

「そう来なくっちゃ☆　じゃあみんな手を繋いで輪になって。そしてみんなの

　コミックパワーを一つにして、ソクバイカイザーをイメージするの。絶対に成功させるよ！」

「「「「「了解！！」」」」」

一方、二人の戦いはまだ続いていた

「では・・・そろそろ終わりにしましょう・・・？」

澤田司令が突然しゃがみこみ、地面に手を当てる

「フン・・・そんなに距離をおいて出来ることがあるとでも？」

「御託はこの技を避けてから言いなさい・・・幻光拳奥義『頚砕』！！」

司令の周りが再び光で彩られ、それはすぐに地面に吸い込まれるように消える

「一体何を・・・」

呟きかけたタングス天王が、さっと顔色を変えた

「くそっ！　こんなことがっ！！」

彼は即座に地面を蹴り、道路を転がる

その刹那！

バババババッ！

街路樹から、ビルから、看板から、道路から、

ありとあらゆる所から、タングス天王が先程まで立っていた場所に光が降り注

ぎ、湧き上がった

「私の『頚砕』を避けた人は初めてね！　でも逃がしはしないわ！」

「ちぃっ！　ならばっ！」

なお続く攻撃から逃げるのをやめたタングス天王は、踵を返すと、猛然と澤田司令に向かった

「ならば貴方を倒すまで！！！」

「来なさい！！　幻光拳の真髄、見せてあげるわ！！」

澤田司令も立ち上がり、タングス天王に向けて駆けた

ガシィィィィィッ！

激しい交錯の音・・・そして・・・

「・・・い・・・今の俺が・・・一撃どころか・・・かすり傷さえ・・・」

先に大地に膝をついたのは・・・タングス天王だった

鎧の中央には、拳型のへこみがくっきりと刻まれている

「・・・もしも貴方にバトルスーツがあったのなら・・・
　俺はここで・・・終わりだったでしょうね・・・」

「・・・・・・」

「勝負はもちろん・・・俺の負けです・・・ですが偶然にも・・・俺の当初の

　目的は果せてしまったみたいだ・・・どうやらタイムリミットみたいですね・・・司令・・・」

「・・・・・・く・・・」

ドサ・・・

顔をしかめ、ゆっくりと澤田司令が地面に伏した

タングス天王はふらつきながらも、何とか立ち上がる

「幻光拳の反動・・・あれはかなりのものだったのでしょう・・・？」

「！・・・なぜ・・・それを・・・」

「・・・あの日、俺を見捨ててさえいれば・・・貴方はこんな苦労など
　しなかったはずなのに・・・貴方は・・・こんな痛みを感じなくとも良かったはずなのに・・・！」

「・・・あ・・・あなたは・・・まさ・・・か・・・・・・ッ・・・」

澤田司令は僅かに口をぱくぱくと動かしたが声にならず、そのまま気を失った

タングス天王はそれを見届けると、Ｇペンを振るい、彼女の周りに結界を作り上げる

「結界には少しだけですが回復効果を持たせました・・・
　今、俺が貴方にできるのは・・・これくらいしかないですから・・・」

仮面を外して澤田司令を見つめたタングス天王の瞳には、哀しげな色が宿っていた

・・・・・

「タングス天王！　司令に何をしたの！？」

背中に声をぶつけられ、タングス天王は仮面を元に戻す

「騒々しいな・・・何の騒ぎだ？」

「・・・質問には・・・応えるものです・・・」

「別に何もしてなどいないさ。いや、手玉に取られて何も出来なかったと言った方が正しいか・・・
　しかしお前達は、あまりにもあの人のことを知らないんだな・・・」

コミレンジャーの浴びせる言葉をいつもの如く受け流していく彼に、先程まで

漂わせていた悲壮感はもう無く、口元には相変わらずの人を揶揄するような歪みがある

「こっ・・・こいつ！　ええかげんにしい！　のらりくらりとぉ！」

「それよりも自分達の心配をしろ・・・司令殿が倒れた今、
　誰かインフェルノを倒せる人材はいるのかな？」

グルルルル・・・

完全なキマイラと化したインフェルノから、威嚇するような低い唸りが漏れた

「さぁ・・・どうする？」

「無駄だよ、タングス君」

「貴方が与えてくれた、貴方の力を破るヒント・・・私達は・・・
　しっかり参考にさせていただきました」

「あ、あ、あたし達の、け、結束の力で勝負です！」

「なに・・・？」

タングス天王は眉をひそめる

「よ～くみなさい、ポチィ！！」

満面の笑みを浮かべたグリーンが、びしぃっと真上を指差した

そこには七色に光る光球が浮かび、生き物のように胎動している

「こっ、これはコミックパワーなのか！？　だが何だ！？　この感じたことの無い波動は！！」

「戦隊モノでは定番のことよ！　みんなの力を合わせれば、なんだって出来るわ！！　さあみんな！！」

レッドの呼びかけに、全員が「うん」と応える

「「「「「「ソクバイカイザー！　出動！！！」」」」」」

コミレンジャーの声を受けた光球はひときわ眩しく輝き、大きく形を変えていく

「「な・・・これは俺と同じ力・・・！　触媒を使わない“創造の力”だと！？
　まさか全員の具現力を一つに出来たというのか！！」

「これが絆の力というものよ！　インフェルノ！　タングス天王！　覚悟！」

「くっ！　インフェルノォォッ！！　完全に具現化する前に消し飛ばせ！！」

グルオアァァァァァァ！！！！

魔獣が咆哮し、１２の首から炎・氷・雷・風など、ありとあらゆるブレスが吹き付けられた

「あかん！！」

「これじゃあ！！」

だがここで、誰もが予測し得なかったことが起きた

キィィィィィン・・・

なんと、七色の光球に吹き付けられたブレスの全てが、その光に触れた瞬間、

甲高い音と共に霧散したのである

「バカな！！　こんな付け焼刃で生み出されたような力が、俺の具現力を上回っていただと！？」

たじろぐインフェルノとタングス天王

光球は何事も無かったかのように変化を続け、コミレンジャーの信念を乗せた

ソクバイカイザーが実体化した

「にゃははっ♪　上出来～☆」

「思いつきやったにしては、上手いこといったなぁ」

「レッドさん！　決めましょう！」

「ＯＫ！　ポストマーク・キャノン！」

ソクバイカイザーの背中の砲台が火を吹いた

放たれた六つの砲弾はインフェルノを囲むように着弾すると、地面に六つの魔

方陣を描き上げる

「結界・・・発動！！！」

ギュォォォォォン！！

魔方陣それぞれが光を発し、中心でインフェルノを束縛した

「来たれ！　悪を滅する神々の剣！　禍々しき者に永久の眠りを！！

トーンカッター！　クローズ・スラッシュ！！！」

ザシュッ！　サシュゥゥゥッ！！

ソクバイカイザーの必殺武器が、巨大な「〆」の軌跡を描いた

レッドは自らの拳を高々と突き上げる

「ジ・エンド！」

ドガァァァァァァン！！

まるでそのセリフを待っていたかのように大爆発が起こった。

ここまでタングス天王と共にコミレンジャー達をギリギリまで追い詰めた怪人は、
彼女達の結束が生み出した力によって、ついにその姿を消したのである

「・・・苦肉の策だったはずだ・・・なのに・・・なのにそれがここまでの力を生んだだと！？」

自らが絶対の自信を持って生み出したインフェルノが瓦解していく様を、
タングス天王は愕然と見つめていた

「やった！！」

コミレンジャー全員が、大きくガッツポーズを取る

「ふっふっふっ・・・うちらの底力、思い知ったか！！」

「ちょおクイーンなあたしにさからうのがまちがいなのよ！！」

「あたし達をあまりなめないでよね！」

「・・・おのれ・・・・・・！！」

タングス天王は唇を噛み締めた

彼の放つオーラが、怒りの程が尋常でないことをひしひしと伝える

しかしコミレンジャー達は怯まない

「貴方の切り札は・・・もう・・・私達でも倒すことができます・・・」

「どっ、どうか負けを認めてくださいっ」

ブラックとピンクが叫ぶ

「今あんたに何ができる？　負け犬はとっととしっぽ巻いて帰り！」

「さっさとどっかいっちゃいなさいよ、ポチポチ！」

同時に、イエローとグリーンも思いっきりタングス天王をなじった

「ほう・・・・・・負けを認めろだと？　負け犬・・・だと・・・？」

タングス天王の肩が震えた

「俺が一芸のみで幹部になれたように言われるなどとは、いささか心外だな・・・」

彼を取り巻いていた空気が、水を打ったように静まりかえり、鈍く光っていた

剣先がゆったりと弧を描く

「そんな言葉はなぁ・・・全てを・・・・・・俺一人の力と
　貴様ら一人一人の力とをわきまえた上でほざくがいい！！！！！」

ザッ！！

「我がインフェルノを破ったことは、たしかに賞賛に値する・・・だが・・・

　そのこと一つだけで俺に勝った気になっているとは、浅はかとしか言い様が無いな
　・・・真に思い知るべきは貴様らだ・・・消えろ！！！」

「た・・・タングス天・・・きゃあっ！！」

バチッ！　バチィィン！！

振り返ったレッドのバトルスーツが、突然火花を噴いた

続け様に、イエロー、ピンク、グリーンのバトルスーツからも火花が上がった

おそらくタングス天王は、今の移動と共に剣を繰り出していたのだ

その証拠に、ダークとブラックの胸にも、僅かに剣戟のあとが一筋残っている

おそらく二人は、すんでの所で彼の剣戟を躱したのだろう・・・
自身をかばう事だけが精一杯のタイミングで・・・

「六人も雁首そろえてその程度か、雑魚共が！！　澤田司令殿一人の方が、よっぽど手強かったぜ！！」

「くぅっ！　やられるもんかぁぁっ！　クリムゾン・クルス！！！」

タングス天王の一瞬の隙を見計らい、二人は必殺技を繰り出した

再び背後に回りこんだタングス天王の剣が、二人に振り返る暇すら与えず、無防備なその背中を走った

「あ・・・」

バチィィィィン！

剣が描いた軌跡通りに火花が弾け、
スローモーションを見るように、ダークとブラックの体は大地に沈んだ

「コミレンジャーよ・・・これで理解したか？　俺を倒すということは、
　お前達にとって夢物語に過ぎないことが・・・・・」

ヒュン・・・と一度剣を振り、タングス天王は倒れ伏す彼女達を見下ろした

彼の一撃が余程のものであったのか、コミレンジャー達には、変身が解けてしまっている者も少なくない

「これならば、もう何もできまい・・・
・・・俺がお前達のコミックパワーの回収を終えるまで、ゆっくり休んでいるといい
・・・目覚めた時には、我らとはもう縁の無い一般人となっているだろう・・・」

タングス天王は、気絶しているコミレンジャーに近づき、手をかざす

「結局俺は、まだ待たないといけないのか・・・終わりは・・・
　一体いつになったらやってくるんだろうな・・・」

仮面の奥に微かに見えるその瞳は、信じられない物を見たかのように大きく広がっている

震える声で呟いた彼の前には、満身創痍ながらも剣を構えて立つレッドの姿があった

「あたし達は・・・負けるわけにはいかないの・・・・・・絶対に・・・！！」

「どうして・・・どうしてお前はあのまま眠っていてくれなかったんだ・・・

　俺に・・・まだ、お前と戦えっていうのかよ・・・・・・」

しかし、タングス天王は首を振り、レッドの問いかけに応えること無く構えを取る

「戯言だ・・・気にしないでほしい・・・
　それより、その体で俺との一騎打ちでも望むつもりか？　コミパレッド・・・」

「悪い事を目の前に・・・退く訳には・・・いかないのよ・・・！！」

「・・・・・・判った・・・その心、貴様の強さとして受け止めよう・・・」

タングス天王は、剣を構えた格好のまま、スッと腰を落とした

「来い！　コミパレッド！！　俺は決して手など抜かないぞ！！
　貴様の真の強さを俺に見せてみろ！！！」

今一度、自らに強くそう言い聞かせて・・・・・・

「はぁぁぁぁぁぁ！！！」

その一撃から間髪をいれず、タングス天王が連続で切り込んだ

なんとか剣の背でそれを受け流しながら、レッドは改めて思った

僅かでも見切りを間違えたら、確実に自分は斬られるだろう

しかも自分は、先の戦いでかなり疲労している。手痛い一撃も喰らっている。

剣を振るう体力が残り少ない分、勝つためには針の穴を通すようなチャンスを見逃さない事は必至だった

（集中よ・・・絶対に隙はあるはず・・・だから・・・！）

そしてその時は来た

キンッ！

受けた角度のせいか、攻めてきた剣の跳ね返りが少し大きく、
タングス天王の連撃に、初めて僅かな間ができる

再び怒涛の連撃は始まり、勢いに押されたレッドはまたも、どんどん後退させられていく

「こんなものか！？　疲労していることを差し引いたとしても、
　こんなものでしかないと言うのか！！？　コミパレッド！！」

「俺に・・・俺如きに躓いていたら、ハラジロシスターズを倒すことなどできはしないぞ！！」

「ならばもっと気力を振り絞れ！　俺に勝て！　勝ってみせろ！！」

下がり続けていたレッドの背中が街路樹にぶつかった・・・

「どうした！？　お前達までも俺を待たせる気なのか！！」

「黙れ！今までお前は何のために正義を名乗ってきた！？　いいかっこがしたかっただけなのか！！！」

タングス天王のその言葉に、レッドは、砕けそうなくらいに奥歯を噛み締めた

「違う！！　そんなことは！　そんな事は絶対にないっっ！！！！」

タングス天王の懐深くに踏み込むと、後先考えることなく、必死に剣を相手に向かって叩きつける

（ここだ！　あたしが勝てるチャンスはここしかない！！）

達人の域の人間でも躱せる間合いかどうか・・・その答えは否！

自分の剣を使わず、腰の剣鞘を抜いて攻撃を受け止めたタングス天王は、鞘が切断される瞬間―――
剣のスピードがほんの少しだけ鈍るその僅かな時間をついて体を半分ずらし、レッドの一撃を躱した

続け様に彼は、前のめりになったレッドの足を強烈に払い上げる

剣を振り下ろした勢いが邪魔をして避けることがままならず、レッドはまともに地面へ倒れこんだ

見上げればそこには、無防備な自分に向かって剣を振り上げるタングス天王が見える

太陽の光を受けてギラギラと妖しく輝く鋭い切っ先も・・・

「瑞希ッッ！！　これで・・・これで終わりだぁぁぁぁぁ！！！」

今のタングス天王に、信じられない程の大きな隙が生まれている事を

罠かもしれなかったが、今のレッドに考える余裕などある筈が無い

自分の中に生まれた戸惑いや疑問を速攻で頭の片隅に追いやると、転んだ時に

硬く目を閉ざし、叫びながら、彼女は腕の動く通りに剣を下から上へと斬り上げた

カ・・・ン・・・

不思議と相手の攻撃が当たってないことを自覚したレッドは、ゆっくりと目を開けた

目を凝らしてよく見ると、それは中心から綺麗に二つに割られた仮面だった

そう・・・タングス天王の顔を覆っていた筈の銀色の仮面・・・

素顔を見てやろうと顔を上げれば、相手は、剣を振り上げた格好のままで立ち尽くしていた

鼻の頭から額にかけては細く赤い一本の筋が走り、微かに深紅の滴が流れて落ちている

レッドがそう叫ぶのと、タングス天王がマントで顔を覆ったのは、ほぼ同時だった

「和樹！？　和樹なの！？　どういうこと！？　どういうことよ！！」

何を言ったらいいか判らない・・・そんな表情で一歩進み出たレッドに対し、

無機質な金属音が響き、彼女の喉元には二振りの武器が突きつけられる

いつの間にか、レッドとタングス天王の間には、三人の女性が立っていた

「な・・・！？　クリスタル・グリッターズ！？　何でここに！？」

その間に、ユーカがタングス天王を振り返り、深く頭を下げた

「天王様、これ以上彼女にお顔をさらすのは貴方様の本意では無いかと・・・

それに、修羅場モードを保っていられる時間がそろそろ限界の筈です。私ども

「・・・すまない、クリスタル・グリッターズ・・・恩に着る・・・」

「もったいないお言葉・・・ありがたく賜ります。それと、カリスマン様からの言伝ですが・・・」

「『今日お前が集めてくれたコミックパワーのおかげで、大きく我が野望へと

　近づくことが出来た。今回に限り、コミレンジャーとの勝敗を問わず任務は成功とみなす。
　体を壊さぬうちに帰還せよ』とのことでした」

ミーホとマーユがそれに合わせて、タングス天王の下へ後退する

「コミパレッド、司令殿や他のコミレンジャーが目を覚ましたら伝えておけ！　

十分な力を見せてもらった。皆が更なる強さを身に付けることを楽しみにして

いると！　そして、次に剣を合わせた時がお前達の最期だと！！！」

タングス天王は、顔を覆ったまま、自分の前を守る三人の配下を包み込むよう

レッドは思わず手を伸ばすが、タングス天王はおろか、誰かを掴むことさえも出来なかった

答えは・・・返ってこない・・・・・・

――――――――――

ピンポーン・・・

瑞希はいつも通いなれた家の呼び鈴を鳴らした

先程の戦いの中で生まれた疑念を晴らすため・・・そのために彼女はやって来たのだ

誰もいない家に入ったところで何も出来ないのは判っているが、
待っていることは気分的にもう限界だったのだ

ドアノブに手をかければ、案の定、何の抵抗も無く扉は開く

だが状況が飲み込めたその瞬間、彼女の顔色は一瞬で変わった

「ま・・・ま・・・また何も食べてないのかぁぁっ！　こんのバカぁぁぁぁぁ！！」

バキィィィィィィィ！！！

「ぐはっ・・・」

鉄拳炸裂・・・虫の息だった和樹は完全に沈んだ

・・・・・

「いや～助かった。一時はどうなるかと思ったよ」

茶碗に盛られた山のようなご飯を口に放り込みながら、和樹は笑った

「全く・・・もっと早く作業に取り掛からないからこんな事になるのよ・・・

「え～っと・・・３日、いや４日か？　
　その間はドリンク剤ばっかりで、まともに飯を食ってなかったな・・・
　なにしろ、カップラーメン作る時間だって惜しかったもんなぁ・・・いやぁ、焦ったぜ」

ごちっ！！！

「痛って～～！！！」

「バカじゃないの！？　そんなことしてたら、いずれ死ぬわよ！？
　ただでさえあんたの習慣や食事事情は滅茶苦茶なんだから！」

「まぁまぁ、瑞希がいるから安心してるんだよ。
　案外、無意識のうちに瑞希の顔が見たいって思ってるのかもな」

瑞希は火照った顔のままで茶碗を返すと、視線を和樹の顔に向けて頬杖をついた

「・・・・・・ん？　どうしたんだ？　俺の顔をじっと見たりして」

「・・・ねぇ和樹・・・最近、怪我とかは・・・してない？」

察するに、いつもの和樹の姿を見ても、今日の出来事から来る不安が拭いきれなかったようだ

「４日ほど顔を合わせなかったくらいでどうしたってんだ、お前？
　おれは体育会系のお前とは違うから、この４日間どころか１年くらい怪我らしい怪我

確認するように和樹の鼻の頭から額にかけて・・・
昼間の戦いで、自分がタングス天王に傷をつけた場所に目線を滑らせるが、
そこには傷らしい跡は見当たらない

慌てて首を振り「お茶でも飲んで！　お茶！　これ、彩ちゃん直伝なのよ！」

と急須を持ちだした瑞希に、ごまかし気味の苦笑いが浮かぶ

釈然としない顔をしながらも、和樹は差し出された湯飲みに口をつけた

「ああ、言われなくとも寝るさ。でないと、かなりヤバそうだ」

瑞希は含みを持った呟きをもらすと、やや頬を染めて、上目づかいに和樹を見やる

「ねぇ、和樹・・・・・・膝枕・・・してあげようか・・・・・・？」

ブーーーーーーッ！！！

部屋に、思い切り良くお茶が舞った

「・・・・・・なによ・・・そんなにびっくりすることないじゃない・・・」

「げほっ！　瑞希、お前今日はどうしたんだ！？　なんだかサービスが良すぎないか！？」

「たっ・・・たまにはいいじゃない！　するの！？　しないの！？」

「じゃあ、早くあと片付け！　食べたものは自分で持っていってよね！」

「起きたら部屋ごと片付けるから、後でいいだろ？　とりあえず、先に良い夢見させろって」

「・・・ありがと・・・それよりあんたも、体に悪いバカみたいな生活は、もう止めにしなさいよね？」

「まだ迷惑かけると思うけど・・・きっと、もう少しさ・・・みんながあれだけやれるなら、
　こんなことは・・・必ずもう少しで終わるさ・・・瑞希・・・」

訊き返すが、和樹の口からは、すでに小さな寝息しか聞こえてこない

「・・・・・・なんだか今日は、いろいろと肝心なことが判らずじまいな日だったなぁ・・・」

「でも・・・ま、いっか・・・和樹は和樹だったんだから・・・」

僅かに微笑んで、和樹の髪に指をくぐらせる

「・・・俺は・・・もう・・・・・・」

夢の中の和樹が、また、小さく呟いた・・・

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

ども、あつやんです

ふええ・・・当初の完成の約束は○月だったのに（←あえて言わない）

ゴンジーかいちょぉぉ・・・申し訳ありませんｍ(_　_)ｍ

最初は、戦隊モノの終盤でよくある「幹部が襲ってくる話」を書こうと

軽い気持ちで始めたわけですが、随分と長くなってしまいました

僕のつたない文章を最後まで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました

そして、もしも楽しんでいただけたのでしたら幸いです

それでは失礼します

　　　　　　　　　　　　　　　　　2001　　　Mar．　　　　あつやん