こみっくパーティ　番外

「消えた塚本印刷所」後編

 

 

5月6日　午前8時23分

某マンション　千堂宅

 

 

「……いつの間に、こんな時間になっちまったんだ？」

ベッドから身を起こし、和樹は呟いた。

 

昨日…結局どこへ行くでもなく走り、歩き、やがては疲れ果てて

それでも耳について離れない『声』から逃れることは叶わず。

 

どこをどう歩いたのか？走ったのか？

結局どこへ行っていたのか？

何一つ思い出せないが、結局のところ

 

いつの間にか自宅に帰り、そのまま眠り込んでしまった…それだけはハッキリしていた。

 

「…そりゃ、瑞希も心配するか。」

自嘲気味に笑う。

視線の先には、散らかった原稿用紙がある。

無論、その全てが真っ白…

 

「ん？」

 

1枚、何かが書かれた用紙があるのに気づいた。

 

「………この字…。」

 

見覚えのある字で、たった数文字。

そこには…

 

『もっとしっかりしなさい！　byピーチ』

 

 

「…くくくっ……。」

思わず含み笑いが出た。

全く、いつ家に来てたんだか…。

「変なところでおせっかいなんだよな…いつも。」

何となく、和樹の表情が明るくなる。

 

「よし！…今日こそ！」

 

思い切って、机に向かう。

手にＧペンを握り、恐怖と戦う決意を固めた。

あれから今までも幾度と無くこうした。

そして、そのつど『声』に押しつぶされてきた。

 

…やはり、手が震える。

（でも…昨日、瑞希も言ったじゃないか…。

　俺は好きだから、1年以上も同人やってられてるんだ！！）

 

 

 

5月6日　午前9時00分

高瀬瑞希の部屋

 

 

トゥルルルル……　トゥルルルル……

 

無機質に響く電話の音。

携帯ではなく、部屋の電話が鳴るのは珍しい。

「はい、高瀬ですが。」

「おはようマイシスター！

　今日も朝から」

 

ガチャ

 

とりあえず、受話器を下ろす。

「まったく…！人が真剣に悩んでるのにあのバカは…っ！！

　しかもこんな朝から！」

 

瑞希は、昨日眠ることが出来なかった。

4月のこみパ以来、あのことが原因で、和樹がマンガを描けなくなってから約一週間。

今までは彼も何とか吹っ切ろうとしていた。

しかし、昨日の和樹は違った。明らかに諦めの色が顔に出ていた。

「もう一度…頑張って、って言うのは、酷なのかしら…？」

枕代わりのクッションを抱きしめ呟く。

 

実はまさにこの瞬間、和樹は必死で原稿に向かっていたのだが、それは当然瑞希が知るはずも無く。

 

不意に、携帯電話が鳴った。

着信メロディーは某所で見つけた『超危険人物！』というオリジナルの曲。

 

ディスプレイには当然『九品仏大志』と表示されている。

瑞希は、溜息をつくと、通話ボタンを押した。

 

「…もしもし？」

「ふっふっふ、いきなり回線強制切断とは

　中々荒技を身に付けたものだな、マイシスターよ！」

「…悪いんだけど、要件をさっさと言ってもらえる？」

「うむ、承知した。

　…マイブラザー千堂和樹。そこに居るのではないか？」

「え！？

　な、何でこんな朝っぱらから和樹がわたしの部屋にいるのよ！！」

「うむ…何度か連絡をしているのだが応答が無くてな。

　もしや…と思ったのだが…違ったか。」

「きっと悩み疲れて、大志の相手する気なんか起きないんじゃないの？」

「これは手痛い一撃だな。

　…よかろう。ならば我輩はそっとしておくことにするが…

　昨日渡したアレは必ず渡すのだ！そして2人で必ず行くのだ！よいなマイシスターよ！」

結局大志は、一方的に捲くし立て

自ら電話を切るのだった。

 

「アレ…って、あさひちゃんのライブ…よね。

　……まったく…。」

 

文句を言いながらも、結局のところは大志なりに和樹を心配し、気を遣っている。

長い付き合いだ、それぐらいは瑞希にだってわかっていた。

「たまには…大志流もいいかもね。」

一言呟き、身支度を整えると

2枚のチケットを手に、家を出た。

 

……行き先は、和樹の自宅。

 

 

 

5月6日　午前10時02分

某マンション　千堂宅

 

 

和樹は必死だった。

机に向かい…1時間と半ぐらいだろうか？

原稿に向かい始めた頃、何度か電話が鳴っていたが、出なかった。

集中していないと、今までと同じことの繰り返しになると思ったから。

 

そして今。

1ページ分のネームが出来上がっている。

 

「コレだけ時間かけて…ネーム1ページか…。」

さすがに疲れていた。必要以上に集中力を使い

必死で手の震えをおさえ…。

「これじゃ…〆切には到底間に合わないな…。」

ポソリと呟いたときだった。

 

ピンポーン

 

「…？」

不意に玄関のチャイムが鳴る。

しばらく迷ったが、集中力が切れかけた所だったので、出ることにした。

 

「…瑞希？」

「なんだ…居たんじゃない。

　大志が怒ってたわよ。電話しても出ないって。」

「あの電話、大志だったのか…。」

瑞希は勤めて明るく振舞っている。

それこそ何事も無かったかのように。普段通りに。

だが和樹には、それがわかってしまい、逆に辛かった。

「瑞希。…励ましに来たのか？」

「え！？

　……う、うん、まぁ…。」

「今、ネームを1ページ、仕上げた所だよ。

　上がってくか？」

「…書いてるの！？」

「まぁ、無理矢理に…だけどな。」

そう言って、和樹は笑う。

が、その笑いには自嘲がありありと出ていたことを、瑞希は見逃さなかった。

「…そんな…無理してまで、書く事無いじゃない…！

　何よ！たかがマンガじゃない！！」

「み、瑞希…？」

「そうよ…！苦しんでまで続ける事ないんだから…

　苦しいなら、さっさと捨てて、やめちゃえばいいのよっ！！」

「お前！昨日と言ってる事が正反対じゃないか！」

「な、何よ…何よ何よ！

　コレ…大志からアンタに渡すように頼まれてて、それ持ってきただけなんだから！」

瑞希はチケットを和樹に叩きつけるように渡し

「もう…アンタなんか知らない！

　わたしの気持ちも知らないで…っ！！」

 

そう言うなり、部屋を出て行ってしまうのだった。

 

しばらく和樹は呆然としていたが

ふと我に返り、瑞希に渡された物を確認する。

 

「あさひちゃんのコンサート…か…。」

桜井あさひ。大人気のアイドル声優であり

実は和樹の本の大ファン…。

「彼女にも悪いことしたしな…。ついでに謝るのも、いいかもな…。」

 

 

あの時。

こみパ当日。

和樹は自分のブースで、本の到着を待っていた。

塚本印刷が3月の終わりに店を閉めたことを知らなかった和樹は

代わりの印刷所を探すのに手間取った。

 

同人を始めて、実力はあるが年季的には非常に浅い和樹。

彼は知らなかったのだ。

塚本印刷が、どれだけギリギリまで〆切を遅くしていたか。

 

塚本印刷が無くなった事を知った時、多くの大手、有名どころは

すでに〆切が過ぎていて…

 

結局、あまり名前も聞かない小さな印刷所に持っていくことになった。

それでもタイミング的にはギリギリだったし、2000部という発注に

印刷所の人間もあまり良い顔をしていなかった。

 

そして…ブースに届いたダンボール。

開封すると、そこに入っていたのは…

 

カラーが滲み、おかしな色合いを見せる表紙の本だった。

…2000部全て。

典型的な、極めて基本的な印刷ミスだ。

大急ぎで本をチェックすると、中には落丁箇所があるものまであった。

 

「な、なんだよコレ…。

　大志！」

「どうしたブラザー…

　な、なんだこの馬鹿な色の本は！？

　どうした事だ！？」

「入稿時は当然こんなんじゃなかったから…印刷ミスだろうさ！」

「く…ぅっ！

　すぐに連絡を取るのだ！このような欠陥本を、偉大なるこの会場に並べられるわけがなかろう！」

「そ、そうか！」

「我輩は、他に置けるものが無いか考えてみる！

　ラミカや以前の本などは無いのか！？」

「俺は持ってきてない…！」

「そうか。ならばそちらは我輩でどうにかしよう。

　ともかくブラザーは、このような本を平気な顔で送ってきた痴れ者共に連絡を！」

 

そして、和樹は携帯ですぐさま電話をかけた。

だが…

 

「いや、でも今日が当日でしょう？

　もうどうしようもないじゃないですか？」

「普通、すぐ気づくでしょう！？

　何の連絡もせず、こんな不良品を平気で送れるなんて、どうかしてますよ！」

「でもねえ、印刷やり直しって事になったらお金ももらうことになるし

　それでも間に合わなかったかもしれないし…。

　同人屋さんはみんな言いますよ？『落とすよりはマシだ』って。」

「何でそちらのミスでこっちがお金出すんですか！

　確かにギリギリだったけど、おたくの〆切には間に合った！

　落とすことは無かったはずです！」

「あー…はいはい、わかりました。

　んじゃね、注文の際に受け取ったお金が…いくらでしたっけ？

　お金返すから、今日はもう落とした事にしたらどうです？」

「お金の問題じゃないんですよ！」

「大体ね、〆切前だったでしょ？

　この時期に2000。そもそも無茶だったんですよ。

　ウチはあんただけが客じゃないんだ。」

「そんな…！

　こっちは不良品の本掴まされて、それじゃ困るじゃないですか！！」

「じゃあどうしろっていうんだよオタクはさぁ？

　今から綺麗な本を刷るの？開場まで1時間ないんじゃないの！？」

「な…！！」

「これだから”オタク”ってのはキライなんだよ！

　同人！？はっ！笑わせる。

　プロでもない子供の遊びの延長だろう？

　同人印刷なんて、儲からなきゃやってねぇんだよ！

　お願いしますって頼み込むから引き受けてやったのに、ちょっとミスればボロクソに言いやがって！」

「……あんた…それでも印刷所の社長さんかよ…？」

「ああ、そうさ。

　…もっともウチは本来『プロ』相手にしか商売しないがな。」

 

 

結局、その直後社長は一方的に電話を切り、話にならなかった。

（仕方が無い、今日は…）

大志の方を見ると、小型のラミネーターを使ってせっせとラミカを作っていた。

どうやら機械は常に持ち歩いているらしい。

（あのラミカだけにして、本は落としたって事にするか…？）

考え込んでいると

「こんにちわ、和樹さん。

　何だか、今日は慌しいですねぇ…？」

スタッフの牧村南だった。

「和樹さん。

　例によって、本のチェックに来ましたよ。」

「あ、あの…いや、実は

　今回は落として…。」

「あら？そうなんですか？

　でも…？」

「で、でも…なんスか？」

「後のそのダンボール…どこかの印刷所のものですよね？」

「う…。」

「チェックされるとマズい本なんじゃ、ないですよね…？」

南の顔から、いつものニコニコ顔が消えた。

結局、和樹は観念し、本を出す事に…。

 

 

「…事情は、わかりました。」

真面目な顔つきで、南は言った。

「ですが、残念な事に、これは和樹さんと印刷所の方との問題ですから

　私達がどうこうとするわけには…。」

「い、いや…仕方ないです。

　でも…どうしたもんですかね…？」

「……いっそ、並べてしまってはいかがでしょう？」

「み、南さん！？」

「それは…いくら南女史と言えど、聞き捨てならんっ！」

突然、大志が割って入った。

「南女史、気でも違えたか？

　このような駄本をあえてファン、読者の前にさらせと言ったのかっ！？」

「それは…

　でも…。」

歯切れが悪く、大志から視線を逸らしてしまう。」

「その…、凄く言い難いんですが……

　『ブラザー2』さん程のサークルが、主宰が居て本が無いという状態は

　スタッフとして、少し困るんです…。」

「む…ぐぐぐ…。」

大志には、南の言葉が何を意味するところか良くわかっているだけに、反論が出来ない。

「本当に落としてしまったのなら、事前に言って頂く事で対処も出来ましたが

　今はもう、会場の外に何百人というお客さんが並んでいます。

　その内、かなりの割合が『ブラザー2』の本を買いに来た人達なんですよ！？」

頑張って並んで…開場したら、目当ての本が無い。

…主宰は居るのに。

「…それは、下手したら会場がパニックではないか…っ！」

「……見た目はひどい事になってしまいましたが、内容は相変わらず素晴らしかったです。

　ですから、見てもらえさえすれば、きっと…。」

「……南さん。」

「すいません…。あなた達で、決めてください。

　大丈夫です。もしものことがあっても…

　その為に、私達スタッフが居るんですから。」

 

結局和樹は、本をあえて出した。

しかし、その反応は予想以上に冷たかった。

適当な塗りだ、とか、見るに耐えない、とか…

 

それはそうだろう。

普通の印刷所であれば、和樹の言ったように何かあればすぐに発注者に連絡する。

会場に来た客の目には『最初からこの色』としか映らない。

言い訳する手段も時間も無い。

 

『…よくこんなの並べられるよね〜。』

 

 

『…ほら、アノ編集長に声かけられたって…』

 

 

『…天狗になってんだな、同人ナメてるよ。』

 

 

『…ちょーっとばかり、見損なったでゴザル。』

 

 

『…ば、場合によっては落としたほうがマシ、なんて本もあるんダナ。』

 

やがて、桜井あさひもやってきた。

しかし、彼女も一瞬の驚きを隠せなかった。

「やあ…あさひちゃん。」

「せ、千堂センセイ…この本は…！？」

「ちょっとね…。」

それでも、あさひは本を手にした。

そして…。

「あ、あの…

　い、1冊…1冊、下さい…！」

「え？」

「み、見た目はともかく…内容、素敵です！

　だ、だから、あの、1冊…。」

「あさひちゃん…。」

「…いくら、ですか？」

「…いいよ、持って行って。」

 

 

 

（…あんな本を、お金を出して買ってくれようとしたあさひちゃん…。

　あれから会ってないし、電話もしてないから

　このコンサートには行ってみるか…。）

そう決め、和樹は携帯を取り出す。

そして、瑞希に電話をかける。

「…瑞希か？さっきは…悪かった。

　で、チケット、2枚あるな…。

　一緒に行くんじゃないのか？」

 

 

 

5月某日　午後9時06分

コンサート会場　出入口

 

 

「凄いコンサートだったわね、和樹？」

「ああ…。

　いい気晴らしには、なったな。」

「ね、和樹…。

　あさひちゃんの新曲、どう思った？」

「ん？いい歌だなって思ったけど…？」

「そうだけど、わたしが言ってるのは歌詞の話よ。

　『失ったものは多くて大きい　でもそれもいいよね

　　再出発は真っ白から踏み出そう…』

　だったかな…？」

「それが、どうかしたのか？」

「う、ううん、その…。

　何だか、和樹を励ましてるように聞こえて。」

「…考えすぎ、だぜ。瑞希。」

 

そうは言ったものの、実は和樹本人もそう感じていた。

あまりにも、今の自分の置かれた状況と重なるのだ。

もっとも、そんな事は恥ずかしくて言えたモンじゃないが。

 

「和樹…。」

ふと、瑞希が声をだした。

「何だ？」

「もう…マンガ、書かないの？」

 

和樹は、チケットを受け取ったあの日から、一切原稿に触れていない。

瑞希もそれを知っていたし、この約2週間は、同人の話題はお互いに避けていた。

だから瑞希も、この質問をするのは苦しかった。

 

しかし、和樹の答えは意外なものだった。

 

「正直…自分の好きな世界であんなに輝いてるあさひちゃんを今日見て…羨ましかった。

　で、俺も、自分がどれだけ同人が好きか…わかった気がしたよ。」

「そ、それじゃ…？」

「…真っ白から再出発とやらを、してみるよ。」

「か、和樹…！！」

 

 

 

同日　午後9時32分

コンサート会場　スタッフルーム

 

 

「ブラボーッ！さすがはわが心の神、桜井あさひっ！

　今夜のコンサートも素敵であった！！」

「あ、ありがとうございます…。」

「して…あの2人は、どうであったか？」

「はい。お2人とも確かに来てくれてました。

　最前列のチケットを取ってくださったんですね。」

「うむ。今回の計画は、ブラザーの再生に加えて

　マイシスターに『桜井あさひ』の素晴らしさも知ってもらうつもりであったからな。」

「そ、そんな…。」

「ブラザーはきっと、このメッセージを受け取る事だろう。

　そして、ブラザー2は、新たな歴史を刻むっ！」

「で、でも、大丈夫なんでしょうか…？

　印刷所の問題、カラーに対する恐怖、〆切…

　問題は、その、まだまだ…。」

「ふっふっふ…。我輩には、それらの問題全てを解決する、しかも

　再出発の名に相応しい方法が見えているっ！

　あとは、マイブラザー千堂和樹が、それに気づくかだ！」

「そ、そうなんですか。気づいてくれるといいですね…センセイ。

　……そ、それにしても…大志さん。」

「どうかしたかね？」

 

「正直、驚きました…。

 

 

　あなたが、あんな素敵な歌を作詞できるなんて。」

 

 

 

そして、5月のこみパ。

先月の事が嘘の様に、当然の様に準備が進み

当然の様に何百人もの列。

 

『ブラザー2』は、今回も壁に配置された。

そして、そこにあった本は

 

コピー本だった。

 

「あら？珍しいですね。和樹さんがコピー本だなんて。」

そういったのは南。

「先月あんなことがあって…マンガ書くのが少し嫌になって。

　気がついたら〆切を過ぎちゃってたんですよ。」

と、和樹は笑った。

「うむっ！よくぞ気づいたマイブラザー！

　それこそ、我輩の求めた結論！！」

「うわっ！どこから湧いた、大志！！」

「同士よ…貴様は悩んでいた。信頼できる印刷所探しに！

　そして、プレッシャーと恐怖を感じていた！カラー作品に！」

「ああ…。だからコピーなんだ。

　これなら印刷所を探すことも無いし、そもそもカラーじゃ無いし…

　そう割り切ったら、不思議なぐらい今までの震えが消えたのさ。」

「うむ…。

　ともすれば、逃げにも見えるが、我輩は逆だっ！

　今回の同士の判断、大いなる勇気と同人への愛の結晶と見たっ！」

「な、何だよそれ…？」

「はからずもブラザー2は大手となった。それだけにダメージを受けた時は潔さが問われる…。

　同士よ！貴様は潔く大手としてのプライド等を捨てることが出来たのだ！

　つい最近まで、2000、3000の売りが当たり前だったサークルが『時間が無かった』以外の理由で

　コピーを発行するのは勇気がいるのだ！！」

「ま、ある意味時間がなかったってのもあるぜ？」

「ふむ…。まぁ良い。

　ともあれ、我輩は同士の勇気ある決断に敬意を表し

　ある人物を、今回のこみパに招いておいた！」

「……あさひちゃんか？」

「我輩としてはそれは是非ともやってみたいが、そうはいかぬ。

　それに、我輩が招待したその人物は、今後の我らの野望達成に

　欠かせない人物なのだ！」

「そ、そうか…よかったな。」

 

「和樹さんが元気になったみたいでよかったです…。

　それじゃあ、もう間もなく開場ですよ。」

ずっと2人の様子を見ていた南が、笑顔で言った。

 

 

先月の事と、今回はコピーオンリーと言う事で、普段ほどの賑わいは無い『ブラザー2』

しかし、過去1年の間についたファンや、こみパに初めて来たという人などが

結構購入してくれて、100部刷った分は午前中で完売してしまった。

 

「さて、じゃあブラザー2完売の札だして、帰るか。」

大志が『買出し』に行ってしまっているので和樹は、一人で片づけを始めていた。

そこに…

 

「あ、あ〜〜〜っ！

　も、もう終わっちゃうんですかぁ！？」

 

この…声。

突如浴びせられた女の子の声。

その方向に目をやると…

 

「ち…千紗ちゃん！？」

「はいです…。千紗です。

　おひさしぶりです…お兄さん。」

「ど、どうして…？」

「あ、あの…。

　大志のお兄さんに言われて、お兄さんの本を買いに来たんですが…

　千紗、また失敗しちゃったですね…。」

「そ、そうなんだ…。

　じゃなくて！

　今どうしてるの？塚本印刷は一体…！？」

和樹の言葉に、千紗は一瞬だけ顔を曇らせたが、すぐにもとの表情に戻って

「黙っててごめんなさいです。

　ちょっと…ワケがあって、印刷所は閉めちゃったんです。」

「じゃあ…今はどこで、どうしてるの？」

「ちょっとだけお引越ししました。

　学校の近くになったんですよ。

　それでですね…」

「それで？」

「お家の近くに大きな印刷所さんがあってですね、お父さんと千紗、そこで

　働いてるんですぅ！」

「………え！？」

「初めは、大きいところだからビックリしたんですけど

　中に入ったらウチで使ってた機械ばっかりで…」

「千紗ちゃん！」

千紗の言葉を遮り、和樹が彼女の両肩を掴んだ。

「ど、どうしたんですか…？」

「あ、ご…ゴメン。」

自分の行動が恥ずかしくなり、千紗の肩から手を離す。

そして、ハッキリ言った。

 

「今度から…また、印刷お願いしたいんだけど、いいかな？」

 

その言葉に、千紗は一切の躊躇い無く

 

「もちろんです！

　お兄さんの原稿、どーんと千紗にお任せください！！」

 

と、会心の笑顔で答えたのだった。

 

 

 

Fin

 

 

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あとがき

 

いやはや、つーわけで、珍しくシリアスで通してみました。

え？微妙にギャグがある？

…気のせいですよ多分。

 

突発的に思いついたネタだったんで、何でこんな話なのか、よくわかりません。

まぁいつもの事なんですが（ぉ

 

で、ちょっと補足説明。多分わかりづらいと思うのが

本作品中での大志とあさひの繋がりです。

 

一応設定として、毎月ブラザー2の本を買いに来ていた『ファンの女の子』が

あさひであることを、大志は早い段階から見破っていて

そのことでメールを出したことがあり、それ以来

大志はあさひの大ファン、あさひはブラザー2の（まぁ正確には和樹の）大ファンって事で

他には秘密のお友達付き合いをすることになった…と言う事にしています。

 

もちろん、あさひはそんなこと、他の誰にも知られたくありません。

……恥ずかしいから（笑ぉ

 

そして大志は、あさひがそう言う限り、誰にも言いません。それが和樹や瑞希であっても。

だって大志だもの（大笑

 

 

というわけで、私がこみパのＳＳを書いたのはこれが始めてなんですがどうだったでしょうか。

気が向いたらまた何か書きたいと思います〜ｗ

 

 

2004年1月30日

みず色